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椅子取り合戦が始まった――東アジアカップ優勝!

川端康生フリーライター

劇的な決勝ゴール!

素晴らしい決勝点だった。

90分。ちょうどロスタイムに入ったところ。高湿度もあって、(両チームとも)選手たちの動きは鈍り始めていた。このまま引き分けか……そんな展開だった。しかも、どちらかと言えば、攻められている時間が長かった。

引き分けどころか……嫌な予感がよぎりかけたそのとき、決勝点が生まれた。

左サイドをドリブルした原口。この試合ではほとんど持ち味を出せていなかった。しかし、あの時間帯、あの疲労度、あの状況で、ドリブルで突進、彼らしく強引にシュートを放った。

そして、さすが柿谷。GKが弾いたボールを受けたとき、コースは塞がれているように見えた。だが、慌てなかった。落ち着いて左隅に蹴り込んだ。

歓喜の爆発。ピッチに立っている選手だけでなく、ベンチの選手も一斉に飛び出して、喜びを分かち合っていた。急造チーム。冷たい表現をすれば、日本代表Bチーム。しかし、わずか10日間、3試合を通じて「チーム」になっていた。

「優勝」に去来した思い

位置付けの難しい大会だった。

コンフェデ杯の惨敗を受けて、新たなチーム作りの第一歩。ブラジル・ワールドカップへ向けてのリスタート……そんな意気込みで韓国に乗り込んでみたものの、指揮官の頭の中にはどうも序列はできあがっているらしく――初戦で起用したメンバーがこのチームのレギュラー。それにしたって予選を勝ち抜いたメンバーよりは下、いや後ろ。

そんな状況で、Bチームがまとまるのは容易ではない。だが、初戦、第2戦と総とっかえされた選手たちは、それでも「チーム」としてまとまった。

そもそも「東アジアカップ」という大会そのものの位置付けが微妙だ(「アジア」ですらない)。でも優勝した。劇的なゴールで。

そんなふうにして優勝してみれば、思いがけず感動があった。選手たちの胸中を思えばなおさら。そんな思いを抱えた選手たちが肩を組んで喜ぶ様子を目の当たりにすればなおさらである。

しかも韓日戦だった。おまけにチャムシルで。

思い出したのは、やはりフランス・ワールドカップの最終予選、崖っぷちで迎えたあのゲームだ。韓国サポーターが掲げた「TOGETHER」の横断幕。左サイド、相馬、呂比須とつなぎ、名波が決めたゴール。

あの夜と入れ替わっていたのは、ホームとアウェーのスタンドだけではない。気がつけば日本は韓国を凌駕するサッカーネーションになった。若き選手たちの、韓国をまったく怖れないプレーぶりに、改めてそう確認できた。

椅子取り合戦

感傷を捨てて現実に戻れば、この大会はやっぱりブラジル・ワールドカップへの出場を賭けた争いだった。何人の選手が生き残ったか。

もちろん枠は決まっている。椅子取り合戦だ。有り体に言って、空席は少ない。どっかと腰を下ろしている選手は相当数いる。押しのけて奪い取るのは容易ではない。

以下、この大会で目についた今後の注目選手。

柿谷

うまいのは誰もが知っていた(もちろんザックも)。「代表」の資格はあるか?がこの大会の焦点だったが、見事に証明してみせた。次のステップへ進めるのは確実。あとは前田との勝負というより、本田、香川、岡崎らとのマッチング。

豊田

ゴールこそなかったが、献身的という意味ではチームへの貢献度大。前田との勝負か(ハーフナーはうかうかしていられないはず)。

青山

攻守のスイッチャ―としての高い能力示した。中国戦と韓国戦で柿谷に出したパスはもちろん、攻撃のスイッチを入れるパスはハイクオリティ。ただし、テッパンの遠藤、長谷部をいじる気が指揮官にあるかどうか(これは山口にとっても同様)。

鈴木

オーストラリア戦で見せた後方からのビルドアップは目を引いた。CBとしての強さを見せられれば。もっとチャンスを与えてみたい。

森重

韓国戦での空中戦の強さは鉄壁だった。ボールを動かす力も栗原より……な印象。

もちろん西川も、斉藤も、高萩も、大迫も、この大会で十分なプレーを披露したけど、とりあえず。

いずれにしても誰を座らせるか、決めるのはザッケローニ監督。そもそも席替えをする気があるのかどうか――8月のウルグアイ戦のメンバー発表に注目したい。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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