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【高校サッカー】秋は選手権。たった48の椅子をめぐる4000余の挑戦

川端暁彦サッカーライター/編集者
高校サッカー選手権神奈川県予選準々決勝。PK戦の末に激闘を制した日大高校の面々

代表校、続々と決定

今年で92回目を迎える冬の風物詩、高校サッカー選手権。その都道府県予選が各地で開催中だ。降雪への懸念もあって試合消化の早い雪国では既に代表校が決まりつつあり、札幌大谷高校(北海道)、青森山田高校(青森)、秋田商業高校(秋田)の3校は早くも出場決定済み。この週末の2日、3日には、岩手、宮城、山形、福島、長野、石川、福井、鳥取、宮崎の各県で代表校が決定する。

PK戦。非情の結末に言葉を失った日大藤沢高校のイレブン
PK戦。非情の結末に言葉を失った日大藤沢高校のイレブン

出場校が4000を超えるマンモス大会ではあるが、全国大会の椅子は46道府県と東京都の2つで、計48枠に過ぎない。「なんとむごい。もっと枠を増やしてあげないと実力があっても出られない高校があって可哀想だ」という意見は根強くあるし、僕も何度思ったか分からないのだが、この容赦ない精選過程が生み出す競争、強烈な切磋琢磨こそが、成長を促しているのも一面の事実である。

同時に「大学では遊びで蹴るだけだから、これで最後です」「就職するので、あとはフットサルをやるくらいですかね」という声が自然と聞こえてくる大会でもある。自分の後ろに線を引いてこの大会に臨む選手は、昔より少なくなってきたように思うのだが、それでも決して少数派ではない。そのぶつかり合いは一種独特の緊張感が会場を満たし、普段では考えられないようなミスを誘発し、仰天の番狂わせを呼び込む。ある程度の選手がすでに全国出場で「達成感」を漂わせているところのある本大会とは空気感がまるで違うのだ。サッカー界では高校年代で広くリーグ戦が浸透し、その成果は小さくない。だが同時に、「負けたら終わり」だからこそ得られる別種の経験もあるのだと確信させるモノが、この大会の予選会場には確かにある。

10月26日、神奈川県

安堵と歓喜の入り交じった表情を見せる平塚学園高校のイレブン
安堵と歓喜の入り交じった表情を見せる平塚学園高校のイレブン

先週の土曜日、10月26日に筆者は湘南BMWスタジアム(旧称:平塚競技場)へと足を運んだ。第一試合は、かつて神奈川最強校の一つだった県立の古豪・鎌倉高校と、元Jリーガーの井原康秀監督に率いられてメキメキと力を付け、優勝候補の一角に数えられる平塚学園高校の激突である。

力の差はあったと思う。平塚学園は10番を背負うMF岡田将平を中心として雨中でも安定した技術を発揮。鎌倉に対して常に優位を保った。16分にはその岡田のクロスを受けたFW立花和輝が見事な先制点を奪取し、流れも引き寄せた。ただ、鎌倉もガッツあふれるDF押本祐輔らを中心に頑強な抗戦を見せる。4-1-4-1システムの相手に4-2-3-1でガッツリと組み合い、局面勝負で負けても“負け切らない”。「2点目を取れずにいたら平学は危ねーぞ」という空気を濃厚に漂わせていた。結局、後半開始早々の41分にCKからまたしても立花に決められて勝負は決まってしまうのだが、平塚学園の圧勝という印象はまるでなかった。

勇戦及ばず、神奈川の名門は八強で姿を消した
勇戦及ばず、神奈川の名門は八強で姿を消した

試合後に人目をはばからずに慟哭する鎌倉の選手たちの様子は、彼らのこの一戦に向けた思いの強さを感じさせるもので、最後まで試合を捨てなかった勇戦も当然と思えるものだった。同時にそんな選手たちに涙ながらに声をかけ、スタンドに挨拶へ赴いた押本主将の立派な態度も印象的。

敬服すべき、好チームだった。

日大vs日大

堅い守りを破って何とかシュートを放つ日大藤沢の1年生FW住吉ジェラニレーション
堅い守りを破って何とかシュートを放つ日大藤沢の1年生FW住吉ジェラニレーション

第2試合は優勝候補同士の一戦。しかも同じ日大伝統の桜色のユニフォームをまとう日大高校と、日大藤沢高校の一戦である。「普段から試合をやっているし、小中学校時代からチームや選抜で一緒だった選手も多い。プレーどころか性格まで互いに知り合っている」と日大・中園健二監督が苦笑を浮かべる“日大ダービー”。今年2度の対戦はいずれもスコアレスドローだったそうだが、その再現のようなゲーム展開になったのも必然か。タレント性という意味では日大藤沢に分がある印象もあったが、日大は守備陣が粘りに粘る。結局、結末はまたしてもスコアレスドロー。非情なPK戦を制した日大が、兄弟対決を制し、神奈川の四強へと駒を進めることとなった。

先週は実に「選手権予選らしい」2試合を観ることができたわけだが、今週末もきっと、全国各地で「らしい」試合を観ることができるだろう。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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