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【U-17ワールドカップ】よく分かるU-17日本代表“96ジャパン”の哲学

川端暁彦サッカーライター/編集者

17日(日本時間18日)、U-17ワールドカップがUAEを舞台に開幕した。そして翌18日、吉武博文監督率いるU-17日本代表がU-17ロシア代表との初戦に臨んだ。

Starting Member

GK 白岡ティモシィ(広島ユース)

DF 石田崚真(磐田U-18)

DF 宮原和也(広島ユース)

DF 茂木力也(浦和ユース)

DF 坂井大将(大分U-18)

MF 三竿健斗(東京Vユース)

MF 三好好児(川崎F U-18)

MF 瓜生昂勢(筑陽学園高校)

FW 永島悠史(京都U-18)

FW 小川紘生(浦和ユース)

FW 会津雄生(柏U-18)

交代

58分:三好→斎藤翔太(浦和ユース)

68分:石田→水谷拓磨(清水ユース)

84分:瓜生→杉本太郎(帝京大学可児高校)

得点

15分:瓜生(日本)

先発布陣から吉武イズムを紐解く

対戦相手のロシアは分かりやすい[4-2-3-1]の布陣であったのに対し、日本の布陣(下記)はあまり観ない並びである。これだけでは、ちょっと分かりづらいと思うので、今回は1996年以降に生まれた選手で構成された“96ジャパン”のサッカースタイル、哲学について解説してみたい。

会津――――――――――小川

――――――永島――――――

――――――――――――――

―――瓜生――――三好―――

――――――三竿――――――

坂井――――――――――石田

――――茂木――宮原――――

――――――――――――――

――――――白岡――――――

吉武監督は15~17歳の選手にも分かりやすいようにと、それぞれの位置に和製英語(ポルトガル語?)混じりのポジション名を付けている。前回大会のときも似たような解説をしたのだが、まずこれについてあらためて解説したい。

会津――――――――――小川 ←ワイドトップ

――――――永島―――――― ←フリーマン

――――――――――――――

―――瓜生――――三好――― ←フロントボランチ

――――――三竿―――――― ←アンカー

――――――――――――――

坂井――――――――――石田 ←サイドバック

――――茂木――宮原―――― ←センターバック

――――――――――――――

――――――白岡―――――― ←ゴールキーパー

後ろのポジションは“そのまんま”であるが、その他のポジションについては“吉武語”である。だが、語感だけで何となく役割分担が想起できるではなかろうか。まさにそれが狙いである。日本人指導者は「何が正しい言葉か(主に英国で)」ということに汲々としてしまう人が少なくないが、「どういう言葉を使えば子供たちに伝わるか」を考えているのは、元教師である吉武監督らしいアプローチである。

このシステムの一つのモデルになったのはバルセロナであり、いわゆる“ゼロトップ”のフォーメーションである。2年前のU-17日本代表も最終的にこのシステムに行き着いたのだが、今回のU-17日本代表はチーム立ち上げ時からこのフォーメーションを採用しており、完成度はより高い。

ボールを保持してのスタート時点ではセンターFWの位置に入るフリーマンの永島は本来中盤の選手。決してストライカーではない。この永島は“偽CF”として機能し、中盤に引いて中盤での数的優位を確保する。数的優位を確保するのは何故かと言えば、ボールを回して奪われないようにするためである。左の会津、右の小川も、いわゆるウイングプレーヤーではなく、中盤の選手。相手のSBを押し込む形で深い位置でボールを受け、相手の最終ラインを押し下げるのが主な仕事だ。狙いはもちろん中盤にスペースを創出し、ボールを動かすため。無理な突破は求められておらず、ボールを引き出した上でバックパスを含めて「奪われない」ことを重視し、ボールを動かしていく。センターバックに171cmの宮原和也を起用しているのも、ボールを動かすプレーを重視しているからこそ、である。ボールを失うプレーを厳しく規制する関係から、いわゆるドリブラーや、強引なプレーが持ち味の肉体派は選考の段階で弾かれているのも特徴と言える。

今回のロシア戦はフロントボランチである瓜生のミドルシュートからゴールが生まれたが、動かしながら相手にスキを作り、最後はサイドバックがFWのラインを追い越して決めるのがチームとしての理想型である。理想の次点が相手を片側に寄せつつ、逆サイドのワイドトップがフリーになって決める形だろうか。セットプレーはこれまでほとんど練習しておらず(さすがに世界大会前にはやったようだが)、事前の練習試合や親善大会などでは、CKがほぼすべてショートCKだった。しかもショートで出したボールをいったん最終ラインまで戻してボールを回し始めるのも日常茶飯事。セットプレーでは相手のフォーメーションが勝手に崩れるので、ここからゴールやチャンスが生まれるケースも、実は珍しくなかった。

吉武監督は理想のゲームを「90分ボールを回し続け、ロスタイムに1点を取って、1-0で勝つ」と語っている。今回のチームコンセプトは「CB以外は8人のボランチを並べる」ということでもある。徹底してポゼッションにこだわるゆえに、シュート数は自然と少なくなるが(シュートはボールを失う行為である)、支配率のアベレージは相当に高い。このゲームも欧州王者のロシアに対し、62:38と支配率で大きく上回ってみせた。

「競り合いで勝てないなら、競り合いになる機会を限界まで削ってしまえばいい」というのが、このサッカーの根底にある哲学だ。この日、先発したフィールダーの平均身長は170cmを下回り、歴代日本代表でも突出して小さいチームになったのもその反映だろう。大会前、吉武監督は「日本人らしい体格でどこまでやれるか楽しみ」と語っていたが、まずは大男のロシア人を相手に一つ目の回答を出したと言えるかもしれない。「日本人らしく戦って世界に勝つ」というのは以前から日本サッカー界が模索してきた道筋だが、吉武監督が弾き出した一つの答えがこのスタイルというわけである。

選手の入れ替えは確実

もう一つ吉武監督を特徴付けているのがチームをローテーションさせていくスタイルだ。基本的に複数ポジションができない選手は選ばれていないので試合中もコロコロとポジションを入れ替えていくが、さらにゲームごとの入れ替えも激しい。このゲームの先発11人は上記のとおりだったが、賭けてもいいが次戦でメンバーは入れ替わる。前回大会ではGKを含めて全員出場となったが、今回も故障者がいなければ同様の措置となるだろう。TV中継では杉本太郎に「絶対的エース」という文言が付されていたが、実状とはちょっと違う。良くも悪くも「エースなきチーム作り」こそが、吉武監督の一つの“芯”なのだ。

スタッツ

ロシア 0-1 日本

シュート数

6:10

枠内シュート数

2:6

ファウル

11:8

CK

3:3

オフサイド

1:1

警告

1:0

アクチュアルプレーイングタイム

22分:35分

ボール支配率

38%: 62%

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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