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タイトルホルダー、ポタジェは続けるか? 古馬中長距離春二冠に輝いた名馬の共通点

勝木淳競馬ライター

 6月26日の宝塚記念が盛況だ。登録数はフルゲート18頭をこえる20頭。回避がなければ最終的に除外馬が出るかもしれない。宝塚記念の除外は史上初になるという。6月下旬という時期は早々に夏休みといった有力馬も多く、有馬記念と比べると、頭数がそろわないといった問題を抱えていただけに、今年の登録数は喜ばしい。

 春の古馬中長距離路線は17年に大阪杯がGⅠに昇格し、天皇賞(春)そして宝塚記念と続き、秋と同じく三冠になった。秋の三冠はテイエムオペラオー、ゼンノロブロイの2頭が達成したが、春三冠は大阪杯の歴史が浅いこともあり、まだ出ていない。それどころか二冠達成も非常に少ない。今年でいえばポタジェが挑む大阪杯と宝塚記念はゼロ。19年アルアイン4着、20年ラッキーライラック6着、21年レイパパレ3着。天皇賞(春)には行かず、間隔をとり、距離もわずか200mの違いながら、達成できないのはなぜなのか。大阪杯の歴史が浅いので、いずれあらわれる可能性は高く、ポタジェが史上初の春二冠馬につく可能性だって十分ある。

 タイトルホルダーが挑む天皇賞(春)との二冠はこれまで88年タマモクロス、89年イナリワン、94年ビワハヤヒデ(天皇賞も阪神)、00年テイエムオペラオー、03年ヒシミラクル、06年ディープインパクトの6頭が達成。16年キタサンブラックが挑戦し、3着。同馬は翌年、前人未踏の春三冠に挑むも9着。つまり古馬中長距離の春二冠は06年以来、15年間出ていない。タイトルホルダーはディープインパクトに続けるだろうか。

 というわけで、ここでは春二冠、天皇賞(春)と宝塚記念を勝った馬たちのなかからテイエムオペラオーについて振り返りたい。

■00年テイエムオペラオーの春二冠

 この年テイエムオペラオーは有馬記念まで8連勝。世紀末覇王として絶対王者にのぼりつめるが、その前年は皐月賞優勝後は勝ち星がなく、確勝級とされたステイヤーズSですらペインテドブラックに敗れた。

 オーナーの全勝宣言とともに明けた00年は京都記念、阪神大賞典とライバルのナリタトップロード、ラスカルスズカを下し、連勝。天皇賞(春)は前哨戦で後ろにいたナリタトップロードが今度は菊花賞の再現を狙い積極策、ラスカルスズカが2頭後ろで出し抜けを狙うという状況のなか、勝負所でナリタトップロードに先に抜け出されないように併走しつつ、後ろのラスカルスズカを待つといった完璧なレース振り。溜めるだけ脚を溜めた2着ラスカルスズカの外強襲を残り100mで逆に突き放した。

 そして宝塚記念。単勝1.9倍の1番人気。前年覇者でグランプリ3連勝中のグラスワンダーが登場。00年2戦は6、9着に敗れるも、関東の雄・蛯名正義騎手に乗り替わっての参戦。前年スペシャルウィークを置き去りにした舞台で復活を期す。さらにラスカルスズカも参戦。単勝オッズひと桁台はこの3頭のみ。またも三強の競馬だった。

 雨のなか行われたこの年のサマーグランプリは、馬場が悪く、グラスワンダーは道悪に本来の走りを封殺された。各馬内を避けて進むなか、テイエムオペラオーは4、5番手の外。後ろから来るグラスワンダーを振り切るなか、ガラ空きのインに飛びこんだラスカルスズカ。武豊騎手の奇襲だった。

 3、4コーナーで距離を稼ぎ、先頭に躍り出たラスカルスズカにさすがに和田騎手も肝を冷やしたという。道悪で大外を回ったとあって、天皇賞(春)よりも押っつけ気味にテイエムオペラオーも食らいつく。一旦は抜けたラスカルスズカも馬場の悪い内側を走ったとあって、消耗度合いは高く、その間を2着メイショウドトウ、3着ジョービッグバンが追ってきた。

 相手をよく知るラスカルスズカに対し、メイショウドトウやジョービッグバンはテイエムオペラオーに併せる形になった。併せ馬こそ、テイエムオペラオーの真骨頂。サンデー系のような瞬発力こそないが、併せれば相手を抜かせない勝負根性と長く脚を使う持久力こそが最大の武器。春二冠、そして秋も負けない原動力はここにあった。梅雨特有の重い馬場も合わさり、スタミナ比べになったことで、テイエムオペラオーはこのあとライバルになるメイショウドトウをクビ差で封じた。メイショウドトウにとってテイエムオペラオーとのわずかな差は以後、何度も辛酸をなめさせられることに。雪辱は1年後の宝塚記念。新たなライバル物語のはじまりだった。

■春の古馬中長距離二冠に必要な武器

 テイエムオペラオーの武器が長く使える末脚とスタミナだったことは春の古馬中長距離二冠を達成するヒントになる。この後、達成する菊花賞馬ヒシミラクルも武器は同じであり、最後に二冠を決めたディープインパクトも瞬発力のイメージが強いが、こと春については天皇賞(春)では残り1000mから超ロングスパートを決め、宝塚記念は土砂降りのなか、11.9-11.3-12.3-12.2とみんな最後は苦しく、脚があがる競馬を上がり最速34.9で勝利と、2戦続けて無類のスタミナとロングスパートで勝ち切った。

 大阪杯との二冠が難しいこととも共通するが、宝塚記念は時期的なものやレースの流れなど、中距離であってもスタミナを問われる舞台で、2000mを好位から抜け出せるスピードだけでは太刀打ちできない部分がある。

 一方、同じような特徴のキタサンブラックが連続して敗れたのは引っかかる。上記3頭との違いでいえば、先行型であることがあげられる。前走でGⅠを勝った先行馬となれば、当然宝塚記念でのマークはかなり厳しくなる。

 天皇賞(春)を逃げ切ったタイトルホルダーは過去の春二冠馬にひけをとらないスタミナと持続力の持ち主。それだけに、宝塚記念で形成されるだろう包囲網をいかに潜り抜けるかが焦点になる。先行勢には同じく大阪杯との二冠をかけるポタジェ、逃げ脚で世界を驚かせてきたパンサラッサ、そして同世代のエフフォーリアも本来は先行できる器用さがある。この包囲網を果たして突破できるか。

 いかに自分の競馬に持ち込み、スタミナ勝負に持ち込めるか。どんな相手にでも対抗できるだけのスタイルはすでに確立されつつある。横山和生騎手も日経賞で折り合い面など確認したいポイントを確かめ、入念な準備をした上で天皇賞(春)圧勝劇を演出。宝塚記念も一週前追い切りに騎乗し、用意周到。包囲網突破、春二冠を目指す。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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