Yahoo!ニュース

ワシントン条約でニホンウナギの貿易規制の議論がスタート。規制反対の日本は苦しい状況。

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事
(ペイレスイメージズ/アフロ)

7月20日の土用の丑の日を前に、ウナギの販売促進が活発に行われています。シラスウナギの不漁により、全体的には品薄ですが、高値を付けすぎて在庫を抱えている業者もあるようです。

「ウナギがない」築地困惑 土用の丑の日目前に

「丑の日」前なのに…国産の鰻が売れない? 

悲喜こもごもの日本のウナギ市場ですが、海外でも重要な会議が行われています。スイスで開催中のワシントン条約(CIETS)の委員会で、ウナギの規制について話し合われているのです。規制に反対する日本は、崖っぷちに追い込まれています。

ワシントン条約の委員会でウナギの保護を議論

資源量の減少が指摘されているウナギの保護をめぐり、各国の代表が意見を交わすワシントン条約の委員会がスイスで始まりました。密輸や密漁などの不透明な国際取引の実態が報告された一方、日本側は、現在の資源管理の妥当性を主張する方針です。

出典:NHK

ワシントン条約(CIETS)は、絶滅の恐れのある野生動物を保護するために、貿易規制を行う国際条約です。ヨーロッパウナギは平成19年にワシントン条約の附属書に掲載され、平成21年から貿易取引が制限されています。現在は、二ホンウナギを含む他のウナギについても議論が行われています。

指摘されている問題点

CITES事務局は、2018年に議論のたたき台となるレポートを発表しました。

レポート表紙
レポート表紙

https://cites.org/sites/default/files/eng/com/ac/30/E-AC30-18-01-A2.pdf

レポートのP44に東アジアにおける違法取引について書かれています。

4.2.1.3 Illegal trade and use

In addition, large discrepancies between domestic glass eel catch and glass eel input suggest that illegal or unreported glass eel catch potentially accounted for 43-63% of total glass eel catch in Japan (Figure 6). During 2014-2015 to 2016-2017, 57-69% of glass eels input into farms in Japan (11-12 t) were estimated to be sourced from illegal or unreported fishing and/or through illegal trade.

日本国内のシラスウナギ漁獲量と池入れ量の大幅な乖離から、漁獲量全体の43‐63%が不正・無報告なシラスウナギ漁獲によるものと示唆されます。2014-2015から2016-2017の期間については、日本の養殖池に入れられたシラスウナギの57-69%が不正・無報告漁獲もしくは密輸によるものと推定されています。(筆者訳)

出典:https://cites.org/sites/default/files/eng/com/ac/30/E-AC30-18-01-A2.pdf

こちらが日本のシラスウナギ池入れ量(水産庁調べ)です。緑が国産(漁獲報告あり)、黄色が輸入(報告あり)、赤が出所不明です。

日本の池入れ量
日本の池入れ量

出所不明が多く存在して、無報告・違法漁獲、違法貿易が蔓延していると考えられます。シラスウナギの漁獲ライセンス制度が機能していないことは明白です。また、ウナギを捕っていない香港を経由した不透明な貿易についても問題視されていて、規制に反対する日本は、苦しい立場に立たされています。

説得力を欠く日本の反論

水産庁や業界団体など日本側は、流通の透明化が完全にはかれなくても、養殖場に入れる時点で稚魚の量を把握すれば資源の管理は可能なことや、中国や韓国、台湾とともにより科学的な管理に取り組むことを主張する方針です。

出典:ワシントン条約の委員会でウナギの保護を議論

世界が連携してIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)の撲滅に動いている中で、「違法・無報告・密輸が蔓延しているけど問題がない」と開き直るのは、法治国家として情けないものがあります。また、「日本側は、現在の資源管理の妥当性を主張する方針」とのことですが、現状の規制は規制としての体をなしていません。

1)池入れ上限が高すぎて規制の意味がない

シラスウナギの池入れ上限は、例外的に多くのシラスウナギが来遊した2014年の池入れ量を基準に、2割削減した21.7トンです。豊漁だった年を基準に、到達しないような高い上限値を設定しているので、規制が導入されてから一度も上限に達しておらず、資源の減少を食い止める効果は期待できません。

シラスウナギ池入れ量と規制
シラスウナギ池入れ量と規制

こちらが2014年に池入れ上限が設定された時のブログ記事「あまり意味の無いウナギの池入れ上限」です。

2)池入れ尾数はごまかし可能

養殖池に入れたシラスウナギの尾数は、業者が自己申告をするだけで、誰も確認をしません。養殖池に入れたシラスウナギの量を、事後的に把握するのは困難です。また、出荷までの歩留まり(生き残り)は年によって変わるので、池入れ量をごまかすことは容易です。

漁獲枠の基準となった2014年の池入れ実績は、水増しを疑う声が多数存在します。特に中国では2014年の池入れ量が突出しているのですが、出荷尾数は平年並みであったそうです。実際に、枠を増やすために水増し報告をしたかどうかはわかりませんが、それは可能であったということです。仮に漁獲上限に達したとしても、過小に報告して池入れを続けることも可能です。

池入れ尾数をモニタリングする仕組みがなく、簡単にごまかせる現状では、実効性のある規制とは言えません。

今後の展望

現在の資源管理の妥当性について、国際的な理解を得るのは難しいでしょう。日本サイドにも、厳しい交渉になるという危機感はあるようです。

絶滅危惧ウナギ、貿易規制が濃厚に 水産庁が危機感

今後仮に付属書掲載となれば、密漁されたシラスウナギの輸出入は難しくなり、国内のウナギ養殖に大きな影響を与えそうだ。

出典:みなと新聞

担当課長補佐は、「非常に厳しい状況と言わざるを得ない」との認識を示すとともに、掲載後の取引について「考える時期に来ている」との見方を示しています。筆者としては、ワシントン条約よりも、むしろ、密輸ウナギが当たり前のように入っている現状に危機感を覚えます。

ワシントン条約では、今後も議論が続きます。今年10月に常設委員会があります。付属書掲載の提案期限は12月24日までに、どこかの国がウナギ規制の提案をすれば、来年の5月にスリランカで行われる締約国会議でウナギの規制をするかどうかの議論が行われます。目が離せない状況ですので、今後も、ウナギに関する議論の推移をフォローして行く予定です。

追記

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

勝川俊雄の最近の記事