なぜ日本はクロマグロの漁獲枠を守れないのか?

乱獲状態にあるクロマグロを守るために、去年の7月から国別の漁獲枠が設定されました。残念ながら、日本は国際的に決められた漁獲枠を越える水揚げをすることが確実な情勢です。決められた漁獲枠をなぜ守れなかったのか。その背景に迫ります。

クロマグロ、2カ月残して月内にも捕獲枠超えへ 沿岸部で相次ぐ違法操業、国際批判避けられず

資源の枯渇が懸念されている太平洋クロマグロのうち、国際合意で決められた30キロ未満の小型魚の漁獲量が月内にも上限を超えることが17日、分かった。国内の沿岸部で違法操業などが相次いで発覚していることもあり、日本の資源管理の姿勢に海外の批判が集まることは避けられない。

出典:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170418/mca1704180826011-n1.htm

 

昨年から、クロマグロの国別の漁獲枠が導入されました。日本は去年の7月から今年の6月までの漁獲を、30kg未満の未成魚は4008トン、30kg以上の成魚は4882トン以下に抑えることに合意したのですが、漁獲量が超過することが確実な情勢です。このような事態になったのは、漁業者のモラルよりは、むしろ、漁獲規制の仕組みに問題があると筆者は考えます。

現行の漁獲規制とその問題点

まず、日本の漁獲規制の仕組みについて説明します。水産庁は日本を6つのブロックに区切って、漁獲枠を配分しました。さらに、主要な県には県ごとの枠を定めました。(詳しくはこちらをご覧ください)

ブロック枠
ブロック枠

水産庁は、ブロックの漁獲量が枠の7割を越えると注意報、8割をこえると警報、9割をこえると特別警報を出します。さらに、枠に達する見込みになると自粛要請をします。漁獲枠の残りが少なくなった時点で、警告をして漁獲にブレーキかけてもらえば、漁獲枠を越えることはないという判断です。残念ながら、そうはなりませんでした。

 ブロック毎の漁獲実績はこちらにあります。今年は、九州と太平洋西部にクロマグロの稚魚の漁場が形成されたので、これらのブロックでは漁獲枠を超過しています。一方で、魚が北上していないので、日本海北部では与えられた枠の半分も消化していません。

 特に超過が大きかったのは、南太平洋ブロックの共有部分です。東京都、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、大分県、宮崎県の12都府県には50トンが配分されたのですが、すでに100トン以上超過しています。共有枠が超過の大きな要因になっていることがわかります。

 操業自粛要請が近いとわかれば、漁師は獲り控えるどころか、ますます張り切って獲ります。「もう獲れなくなるなら、今のうちに獲っておこう」とラストスパートをかけます。注意報や警報を出すことで、ブレーキをかけるどころか、火に油を注いでしまうのです。残り少ない枠に大勢が群がり、結果として漁獲枠を越えてしまいました。

 同じことがおこったのがミナミマグロです。南半球に生息するミナミマグロも乱獲で資源が減少して、漁獲量を規制することになりました。日本は、早獲り方式で漁獲枠の運用をしたので、漁獲量が漁獲枠を超過して、国際問題になりました。他国から非難を浴びて、懲罰的に日本だけ10年間漁獲枠半減になったのです。これが契機となって、ミナミマグロには船毎の個別枠が導入されて、それ以降は日本もきちんと漁獲枠が守れるようになりました。クロマグロでも同じ失敗を繰り返して、国際的な信用を失墜させているのは残念というほかありません。

 早獲り方式では漁獲枠を守るのは至難の業です。先の記事で紹介したカナダの事例でも早獲り競争時代は恒常的に漁獲枠を超過していましたが、個別枠になってからは枠の超過は皆無です。「あなたは1トンしか獲ってはいけません」と言われたら、漁業者はルールを守ることができます。でも「みんなで100トンしか獲ってはいけません」と言われたら、早獲り競争になってしまい、そのルールは守られません。漁業者のモラルではなく、規制のやり方に問題があるのです。

早獲り方式は、漁獲枠の配分が不公平になるという別の問題も抱えています。漁期の最初に魚群が来遊したエリアでは漁獲枠の消化が進みます。一方で、来遊が遅れたエリアでの獲り分は無くなってしまいます。こういう状況では、計画的な漁業や、ブランド化を推進することは不可能です。後先考えずに、多く獲った漁師だけが得をする、非合理的なシステムと言えるでしょう。

どのような漁獲規制が望ましいのか

漁獲の仕組みを考える上で重要なことは、以下の3点です。

1)全体の漁獲量が漁獲枠の範囲に収まること

2)エリアや漁法による著しい不平等が生じないようにすること

3)水揚げ全体の価値を高めること

1)が成り立たなければ資源管理とは言えません。また、規制の下で漁業経営を成り立たせるには2,3についても考慮が必要です。現在のエリア別早獲り方式は、上記の3つ全てにおいて、効果が期待できません。

ではどうすれば良いのか。ミナミマグロやカナダの成功から学ぶことです。県のような大きな区分だと、早獲り競争になってしまいますが、顔が見える範囲まで漁獲枠を割っておけば、話し合いで調整ができます。内部調整ができる単位まで、漁獲枠を細分化することが不可欠なのです。現在は大きなエリアで区切られている漁獲枠を漁業種類や漁場によって細かく配分する必要があります。

 次に漁獲枠の超過に対する対応を、予め決めておく必要があります。現在の規制では、みんなが自分の枠を100%守ることを前提としています。このような非現実的な前提に立った漁獲規制は必ず破綻します。漁獲枠の超過が起こりうることを前提に、一部のエリアで漁獲枠を超過した場合にも国全体の漁獲量が枠内に収められるような制度設計が求められます。

 このようなケースには、漁獲枠の取引の仕組みをつくるのが効果的です。自分の枠を超過したエリアは、枠を余らせているエリアと交渉して、枠を買えるようにするのです。全体の枠がタイトになってくれば、漁獲枠の価格も高くなるので、超過に対して慎重になるでしょう。また、自分の権利以上に獲ってしまった漁業者から、自分の権利をつかえなかった漁業者に金銭的な補償がされることになり、地域間の不平等がある程度緩和されます。

 

罰則規定は必要か?

クロマグロを捕るのは漁業法で認められた漁業者の権利です。国民の権利を行政が規制をする場合には、法的根拠が必要になります。クロマグロの採捕許可がない漁船がクロマグロを捕るのは違法であり、現在でも取り締まることが出来ます。こういった違法は今後減っていくでしょう。一方、クロマグロの漁獲枠は、法律や条令に寄らずに、水産庁が勝手に設定しているだけです。採捕許可がある漁船が枠をこえてクロマグロをとるのは合法であり、要請に従うかどうかは漁業者の自由なのです。超過漁獲に対してペナルティを科すことはできず、自粛要請に従った正直者がバカを見るとことになりかねません。もちろん、自粛勧告を無視する漁業者は非難されるべきですが、自粛要請で規制をしようという今のやり方には無理があります。国際社会に対して、漁獲をこれ以下に抑えると約束してきたのに、そのための法整備をおこなっていない現状は、国として無責任と言えます。

「水産庁は今月中に、クロマグロに総漁獲可能量(TAC)制度を適用する政令改正を行い、30年以降は上限を超えて漁を続けた漁業者に3年以下の懲役、200万円以下の罰金を科すなど、規制を強化する方針」です。この動きは歓迎したいのですが、そもそも規制を開始するまえに法令改正をしておくのが当然であったと筆者は考えます。

罰則規定をするだけでは問題は解決しません。法整備と並行して、個別枠と譲渡の仕組みをつくる必要があるのです。今の欠陥制度のままで罰則規定を導入しても、全体の漁獲枠は守られず、地域間の不平等は放置されたまま、運が悪い漁業者が罰則規定でさらに苦しむことになるのは火を見るより明らかです。

 業界紙・水産経済新聞(4/17)に「本音は『国はわれわれ漁民を殺す気なのか』と思わざるを得ない」という定置網漁業者の悲痛なコメントが掲載されていました。クロマグロの操業自粛勧告が出されたエリアの定置網は、クロマグロがかからないかヒヤヒヤしながら操業をしています。来年からは、クロマグロがうっかり網に入ってしまえば犯罪者です。混獲を避ける為に網を揚げれば、一切の収入が途絶えてしまうので、従業員に給料を支払えなくなります。犯罪者か廃業かの二者択一になりかねないのです。

 もし仮に、漁獲枠の売買が許されていたら、枠が一杯になったとしても、網を揚げる必要はありません。混獲したクロマグロの分だけ、マグロが来なかったエリアから漁獲枠を購入すれば良いのです。魚が来なかったエリアの漁業者は、枠を売ることで、現金収入を得ることができます。枠を売る側と枠を買う側の双方にメリットがある合理的な制度と言えます。日本が国際的な信頼を回復し、漁業者の暮らしを守るためにも、合理的な規制の導入が求められています。