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引き出し屋裁判 母親とひきこもり自立支援業者側に賠償命令判決 共謀を初めて認定

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
「当たり前の判決。被害者は私だけではない」と原告女性(右)(写真:加藤順子)

千葉県在住の30代女性が、適応障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)等を発症したのは、2017年10月にひきこもりの自立支援業者によって自室から無理矢理連れ出されたうえ施設に監禁されたためだとして、業者側と母親に550万円の損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁(下澤良太裁判長)は27日、破産した被告の業者側と契約した母親に対し、連帯して計約55万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。

被告の業者は、東京都新宿区や熊本県湯前町にあった「あけぼのばし自立支研修センター」という名称の施設で活動していたクリアアンサー株式会社と子会社のリアライズ株式会社。いずれも2018年12月に破産申請をし、業者部分の被告は途中から管財人に交代して係属したため、今回の損害賠償は破産債権の確認となった。

原告女性の証言によれば、2017年10月3日朝9時頃、目が覚めた後も体が重く自室のベッドに横になっていたところ、見知らぬ男女4人組が突然部屋に入ってきた。被告男性であるそのうちの一人が名刺を差し出し、「あけぼのばし自立支援センター」という施設に入所するよう求めてきた。女性は背中を向けて拒絶し続けたにもかかわらず、枕元での被告男性からの説得は7時間に及んだ。その後午後5時頃になると、2人の男性スタッフに羽交い締めにされ、下着もつけていない部屋着のままで、靴も履かずに車に乗せられたという。女性はそのまま新宿区内の施設に連れて行かれ、女性スタッフが24時間監視する部屋に入居させられた。恐怖で震えと涙が止まらなかった原告女性は、業者が提供する弁当や水を拒絶し続けた。3日後には衰弱状態となったため、近くの大学病院に運び込まれた。原告女性は、ICU等で脱水症の治療や適応障害の診断を受け、約ひと月後の11月4日に退院した。さらにその後、悪夢を見るなどのPTSDを発症した。

一方、被告となったスタッフ2人は裁判の証言で、羽交い締めなどの強引な連れ出しを否定。女性に助けを求められて駆けつけた別居の父親が最終的に説得し、女性も納得して家を出た際に、「付いていっただけ」などと主張した。また、監禁についても否定し、「生活の面倒は、(別部署である)育成部が担当していた。母親との連絡業務をやっていた」などと積極的な関与を否定した。

契約者である母親も、「センターの実態とか(を知っても)何の後悔もない。我が家に関しては拉致、監禁は一切ございません」「(業者は)ネットで見つけた。問題もあるようだが自立支援に魅力を感じて依頼した」などと話した。

結局、地裁は判決で、男性スタッフらによる羽交い締めでの連れ出しや、物理的な監禁は認めなかった。しかし、原告女性の意に反する連れ出しを認めただけでなく、監視下で原告女性が自らの意思で外出することが「著しく困難だった」とした。

また、連れ出し時に主導的な役割を果たしていた事業部スタッフの2人の被告のほか、原告女性の意に反してでも連れ出すよう業者に依頼したなどとして、契約をした母親にも共謀の成立を認定した。

これら一連の共同不法行為と、女性が発症した適応障害やPTSDとの因果関係を認め、「恐怖感」「絶望感」と表現し、女性が被った精神的苦痛を認めた。

訴訟費用は、一部を被告らの負担とした。

原告代理人の望月宣武弁護士によれば、「監禁については刑法上の定義に当てはまるか検討する必要があるが、いわば事実上の監禁が認められたといえるのではないか。さらに、(引き出し屋訴訟で)契約者である親に共同不法行為が認められるのは初めてのケースだ」という。

また、原告の女性は判決に対し受け止めをこう話している。

「(大学で)福祉を学んだので、当たり前の判決が出たと思っている。被害者は私だけではないので、ぜひ声を届けてほしい。私も声を上げられない一人だったが、なんとか蜘蛛の糸をたどるようにやってきた。(契約者となる)親たちには、業者を使って子どもを無理矢理連れ出すことが違法なことだと知っていて欲しい」

■ 最近の引き出し屋の裁判は…

近年、引き出し屋などとよばれる各地の自立支援業者による強引な連れ出し等の被害を訴える裁判が続いている。2019年12月に東京地裁で出され、その後確定した民事裁判の判決は、意に反して連れ出された30代女性の自由に行動する権利・権益を侵害したこととそれによる精神的損害を認めたうえ、契約した母親にも債務不履行があったとして、都内の業者に計約500万円の損害賠償を命じた。また、2019年に関東地方のある施設で起きた男性スタッフによる利用者生徒へのレイプ事件では、準強制性交等の罪に問われた加害者に実刑4年の有罪判決が出されている。さらに、現在も同種の業者に対する民事訴訟が、少なくとも4件進行しており、うち3件が今回の被告業者(管財人)となっている。

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋問題を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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