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今日はもう最悪!と感じたとき、心の平静を保つのに役立つ、山から学ぶ五つのアドバイス

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
今日もやってきた夜明け。同じ景色を見ながらも人の心に同じものはないのです。

 新型コロナウイルスがどういった経緯で発生し爆発的に感染拡大が進んでいるのかは、今後数多くの専門家の皆様の検証・研究がなされ次世代に役立つことを本当に期待しています。

 山岳ガイドの私が、「今日は厄日か!」と感じてしまう時、気をつけているトラブルへの備え、心構えを五つお伝えします。

 

古来から行きかう人々から愛された美保の松原からの富士山 ※写真はすべて筆者が撮影
古来から行きかう人々から愛された美保の松原からの富士山 ※写真はすべて筆者が撮影

 

 2020年4月も引き続き、感染拡大を防ぐための情報を把握して着実に実行していきましょう。

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)

出典:厚生労働省ホームページ

 

太古の火山噴出物の大地を削る水の流れ
太古の火山噴出物の大地を削る水の流れ

 自然災害大国という世界に誇る?冠をつけられる日本列島です。この地に縄文・弥生時代から現代まで世代を重ねた日本人は虫の音に意味を見出し、川の音をゆりかごに、自然からのメッセージを感じながら災害と共に生きてきました。

登呂遺跡
登呂遺跡

 風光明媚な登山対象の山々に対して、火を噴く火山には畏敬の念をもち、里から見る山体を山の神と祀ってきました。日本の名山「富士山」も平安時代から歌に詠まれ、信仰登山は江戸時代から現代に引き継がれています。

 

朝、茜に染まる富士山
朝、茜に染まる富士山

 主にイギリス人から伝わった征服型登山やレジャー健康登山は、明治に始まり現代登山の主流となっています。コンパクトな国土に多様な自然環境が生み出すフィールドは四季を通じて多様なアクティビティを提供してくれています。

近代登山100年と歩む好日山荘 VOL.01 「明治時代の山登りを探る」

 登山を通じて実践する自助共助といった知識と知恵、技術は災害時にも役立ちます。

 今回は登山はしない方にも役に立つ装備と考え方をお伝えしたいと思います。

いつも道標があるとは限りません。
いつも道標があるとは限りません。

1:道に迷った!

 自分のコースが他人と全く同じということはないですね。立てた予定をレール通りに進む必要はありません。アンテナを張って状況変化を把握することは絶対に必要です。大勢の進む道が正しい(自分の目標への道)とは限らないのです。行程がひとつではないのは人生と一緒です。

 登山では分岐に立った時、現在地を認識して進むべき道を自分で決めることが大切なのです。

 ⇒ 間違っていたらどうしますか?

 間違いを早めに認識できれば、修正と正規コースへの復帰を速やかに行うことができます。判断力と行動力は脳と筋肉への十分な栄養と水分供給に支えられています。食べたり飲んだりを忘れないようにしましょう。

ピンポイントにこだわらず、現在位置は継続的に把握し続けることが大切です。
ピンポイントにこだわらず、現在位置は継続的に把握し続けることが大切です。

2:天気が悪化してきた!

 雨の中、わざわざ野山に出かけることはないかと思います。しかし、登山中に風雨に遭うことは想定内としなければいけません。可能であれば樹林帯の中を歩く低山ハイクで体験を積んでおくことをおすすめします。レインウェアを着ると体温がこもり汗をかき易くなるので、歩くスピード(負荷)を調整します。体験からでしか身に付かない感覚です。

⇒ 止まなかったらどうしますか?

止まない雨はありません!

「今の状況を受け入れ、身体保護の対処をして、動かず状況回復を待つ、又は安全地帯に引き返す」

こんな状況は現在の新型コロナウイルス禍に通じるところがあります。天気を良くするなどといった自分自身でコントロールできないことにあたふたしないことです。

 天気図と雨雲レーダー情報を確認します。風雨に曝される高い標高に登らず、登頂を目指さないなど、当初の予定を変更する柔軟性が大切です。

雨足は強くなるか?弱くなるか?
雨足は強くなるか?弱くなるか?

 登山では登山靴、リュックサック、レインウェアなどほぼ毎回使う必須装備に加えて、トラブル発生時以外には出番がない危急時用品を入れるようにしています。

夏の白山は家族連れで大賑わいです。
夏の白山は家族連れで大賑わいです。

 自分と仲間の安全の為に必要となる装備は必ず持っていきたいものです。以下にあげる装備は地震台風などの自然災害時に流用できます。

 ハイキングや日帰りキャンプなどを行って家族の絆を高めておくと良いでしょう。災害時でもできるだけ使い慣れた道具の方が安心です。

デジタル時代の大地を歩く!アナログとの融合は成功していますか

3:登山に必要な装備は確実に手元にあるか?''

これらを忘れたり、紛失したり、破損させたりするのは避けたいものです。しかし、そのような時でもダメージをあらかじめ想定し、意識しておくことで切り抜けられることも多いものです。完璧をめざさない気持ちが大切です。

  • 暑さ、寒さ、風、雪や雨などの外的環境から身体を守る服装
  • ガレキから外傷を防ぎ、不安定で凸凹した地面でのスリップ転倒や捻挫を防ぐ登山靴
  • 大切な食料や水、災害時には家族の大切な物を収納し持ち運べるリュックサック(バックパック/ザック)
  • ヘッドランプは夜の行動だけでなく、非常時に日中であっても自己の存在を知らせることができます。
  • テント、寝袋(シュラフ)、マットレスなど。十分な睡眠は心と身体の健康維持に直結します。
  • 小型ガスコンロ、コッヘルなどの炊事関連

 ⇒ 登山以外にも役に立つのですか?

 災害時はまずは自分自身が怪我をしてしまうことを防ぎ、体力消耗と過度のストレスを抑えることが大切です。自分自身に余裕が生じることで他人や地域コミュニティへの貢献ができるのです。災害時の水や食料の買い出し、避難所への物資の搬送、避難所でのプライベート空間の確保に役立ちます。

4:危急時の装備は忘れずに持っているか?

怪我は疲れや行程遅れからくる焦りが引き金となることも多いものです。起こした瞬間に事態の悪化はなかなか認識しづらいものです。多くの場合、怪我をした本人の自己申告よりシリアスであると判断して対処する方が無難です。

  • 救急用品(外傷対応ガーゼなど・テーピングテープ、小型ナイフ、ハサミ、市販薬の虫刺され抗ヒスタミン軟膏、持病薬など)
  • ツェルト、エマージェンシーシートなど
登山用品店でエマージェンシーシートなど以外は、ドラッグストアでも購入できます。
登山用品店でエマージェンシーシートなど以外は、ドラッグストアでも購入できます。

 ⇒ 救急車や救助ヘリコプターを呼べば良いのではないですか?

 切り傷や捻挫、緊急を要する致命的な外傷以外はまずは自分自身で応急処置を行うことが重要です。怪我の程度によっては迅速な救助要請は当然ですが、収容されるまで自分たちの持てる力で待機しなければならないことを忘れてはなりません。

大規模災害や今回の新型コロナウイルス禍では医療崩壊を防ぐことが重要とされています。地域医療を守ることが自分自身の命を守ることに繋がるからです。

 危急時用品の出番は少ないですが、無いと困るものです。あまり保管期間が長くなると品質に問題が生じますから、時々中の品質をチェックしておきます。古いものを練習に使って、新しいものに交換することも忘れないようにします。

5:食料、水は手元に確保しているか?

生き抜くために必要なのは第一に「水」そして「食糧」です。これらの管理は他人任せにせず、トラブル発生に慌てぬよう物量を把握しておきます。シリアスな状況では総量把握後に食糧制限を行い、救助まで食延ばしを行うこともあります。

 リュックサックに背負うため、軽量なフリーズドライ食品中心にメニューを組み立てることが多くなりました。最近では日常生活でも多く活用していることと思います。

 登山防災という観点から、日持ちするお米や乾麺、スパゲッティなどの炭水化物を中心にローリングストックをしておくと安心です。更に自然災害を想定するならば、水と燃料の備蓄も必要です。

 一人当たり一日に必要な飲料水は3リットルといわれています。

 2人世帯で6リットル、四日で24リットルになります。2リットル入りペットボトル2箱でしょうか。正直言って個人宅でそれ以上の段ボールを積み上げるのは大変です。

 ご家庭のスペースに余裕がある方は別ですが。登山でも使えるコンパクト浄水器で備えましょう。

登山防災シリーズ VOL.01 命をつなぐ「水」を手に入れるための浄水器

 

ローリングストックについて知りたい方へ

出典:農林水産省

 ⇒ 必要になったらまとめ買いに走ればよいのでは?

 現在のスーパーマーケットやコンビニエンスストアは販売効率を上げるためにバックヤードでのストックはほとんど置いていません。過度のまとめ買いが発生すると棚が空き、それが憶測を呼んでパニックが生じます。

 これはもう現実に確認していますね。

 一部商品での物流回復のために問題ない商品にまで影響を及ぼしてしまうのが現在の効率的な流通システムとも言えます。

 ゴールデンウィークの春山も迫って来ましたが、今は感染を抑制する「三つの密を避けること」と人々の移動が制限されている環境です。憧れのアルプス登山に向けて、近郊の野山のハイキングで身体をならしておくと良いでしょう。

 現在の状況は人の行動範囲を狭め、感染を抑えることが優先されます。状況はきっと好転するのを待ちたいと思います。

 

 バーチャルお花見へご招待、受けていただけますか?

 新型コロナウイルスに打ち勝つとともに、心と身体の健やかさを見失わないようにしたいものです。ピークを目指す登山にこだわらず、裏の神社でもお弁当持ってのピクニックからでも構いません。また親しい友人、家族と過ごす時間を楽しみにこの苦境を乗り越えたいものです。

 

 

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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