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「先に行ってるね。」ハイキングでの「仲間はぐれ遭難」が絶えない原因がそこにある。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
雨上がり。石鎚の山々に二重虹がかかりました。*記事の中の写真はすべて筆者が撮影

虫の音が聞こえるようになってきました。大切に思っている家族友人を誘って週末の山歩きを考えている方も多くなる季節です。「仲間はぐれ遭難」を防ぐためのポイントをご紹介します。

石鎚山に登れてよかったね!仲間と振り返るひととき
石鎚山に登れてよかったね!仲間と振り返るひととき

単独行をしている登山者にくらべ、仲間が近くにいるはずと考えることによる初動対応の遅れと個人装備の不備のために単なるトラブルですまず、遭難に至ってしまったケースが見受けられます。

私も下山途中で「〇〇の色の服を着た女性を追越ししませんでしたか?」といった質問を仲間と思われる方から尋ねられることもしばしばです。

一緒に歩いて、この景色を見たいね。
一緒に歩いて、この景色を見たいね。

1:二人の時も大人数の時も先頭を歩く人がリーダーなのです。リーダーには後続メンバーがバラバラにならないように歩行スピードを調整する責任があります。

2:歩き出しの早い段階で一番遅いメンバーを見つけ先頭の次(二番目)を歩いてもらいます。これがグループがバラバラにしない第一歩です。

「一本道だから先に行ってるね」と後続メンバーの姿が見えなくなる程先行し待つという「尺取虫のような歩き方」はおすすめしません。なぜならば、後続メンバーは前を歩くメンバーの姿が見えないことで心細さを感じ、セルフコントロール能力が低下してしまうのです。結果、無理してスピードを上げあっという間に疲労するか、追いつくのを諦めて更に遅れることになります。

どうにかこうにか追いついたとき小さな舌打ちなどをせず、メンバー全体の健康状態を観察しましょう。 ⇒ 水分と栄養補給をほどこしながら体調チェックを行います。「どうしたら歩けるか、楽しめるか、山歩きを好きになってもらえるか」相手の立場で考えるようにします。

山の頂は広々と 
山の頂は広々と 

3:「遅れてご迷惑をかけるので先に行ってください」というメンバーこそ、リーダーの一番近い場所に置いておかなければなりません。冷静に考えてみてください。このような状態の方が、遅れを取り戻して追いつくことはほぼ不可能なのです。

往復登山(同じ登山道を登り、下山も同じ登山道を利用する登山)だから大丈夫ということはないのです。低山ハイキングの山々には仕事道、電力会社の保守の道、獣道、尾根や谷につけられた様々な踏み跡などがあり、山歩きに不慣れな登山者が仲間に追いつきたいという気持ちが先行して、些細な分岐から本来の登山道から外れて迷い込む事例が多く見受けられます。

ハイキングの道迷いはこんなことから始まります。最も弱い状態にあるメンバーは絶対に一人にしてはいけないのです。

 2日午後7時55分ごろ、山梨県韮崎市の南アルプス・薬師岳(2780メートル)で女性が道に迷ったと、一緒に登山していた人から韮崎署に通報があった。同署は山岳救助隊員を出して、3日午前6時25分ごろ、女性を救助した。同署によると、救助されたのは新潟県魚沼市の無職女性(76)で、けがはなかった。山小屋に向かう途中に仲間とはぐれたという。

出典:産経新聞  2019/09/03

秋の七草オミナエシの咲く高原で
秋の七草オミナエシの咲く高原で

メンバー全てのリュックサックにはレインウェア、ヘッドランプ、スマートフォン(携帯電話)と予備電源、地図とコンパス、行動食(非常食)、飲料水を入れておきます。最近では所有者を見つけるための電波発信機(ヘリココ・ヒトココ)という機器が普及してきました。一度の充電で三か月間発信する電波が早期発見につながるという期待からです。当然のことですが登山届を提出することも忘れてはいけません。

これまで山岳遭難の統計にも現れてこなかった「低い山でのリスク」が、データから浮き彫りになりました。

出典:NHK NEWS WEB

「掛け声だけでは不十分」初心者と一緒に登山を楽しむために必要な5つのアドバイス ⇒ こちら

頂上にまで行くことだけが登山の楽しみではありません。登山中に出会う自然、仲間とのコミュニケーションもとても大切なことです。時には寄り添いながら仲間と歩調を合わせてみてはいかがでしょうか。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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