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ネット選挙解禁で公選法はぶっ壊れる(2)

加藤秀樹構想日本 代表

選挙運動に関し、飲食物の提供は禁止されている(第139条)。但し、「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」は除かれるという。ここまで法律で決めている国は珍しいと思う。日本人は、そこまで決めてもらわないといけないくらいモラルや常識で判断ができないのだろうか。

前回も引用した「衆(参)議院選挙の手引」を見ると、「飲食物とは、なんら加工をしなくともそのまま飲食に供し得るものをいい、料理、弁当、酒、ビール、サイダー、菓子、果物等をいう」そして『湯茶に伴い通常用いられる程度の菓子』とは、例えば、せんべい、まんじゅう等、いわゆる『お茶うけ』程度のものをいうものとのことだ。

また、酒、ビール、サイダー、サンドイッチのようなものは、菓子ではないから提供することができない。菓子であっても高価な菓子は、ここにいう菓子には含まれない。みかんやりんご程度の果物や漬物等も、通常用いられる程度を超えないかぎり、ここにいう菓子に含まれる。と解説が続く。

なんでサイダーは駄目なのかな。炭酸が入ると駄目?じゃあコーラは?スポーツ飲料はどうか。高価な菓子ってどこまでなのかな。コンビニのお菓子でも駄目なのかな。全体的にすごく古風、和風!?などと疑問や感慨がつきない。

なお、公選法には「陣中見舞いとして湯茶に伴う通常用いられる程度の果物、菓子折等をもらったときは寄付として、更に、これを運動員等に提供したら支出として計上しなければならない」というきまりまである。大きい穴があいているのに細かいところはどこまでも細かく、という印象だ。

細やかな気配り、ということで言えば、「連呼行為の禁止」というものもある。

第140条の2には、連呼行為はしてはいけないと定めたうえで、

「演説会場及び街頭演説の場所においてする場合並びに午前八時から午後八時までの間に限り、選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合は、この限りでない。」という例外を認め、さらに、その例外に関して、「学校及び病院、診療所その他の療養施設の周辺においては、静穏を保持するように努めなければならない。」と大変行き届いた規定だ。

ところが肝心の「連呼行為」とは何かというと法律には書かれていない。

前掲の手引によると、連呼行為とは、「短時間に同一内容の短い文言を連続して反復して呼称すること」となっている。やっぱりよく分からない。ついでに言うとこの手引は「静穏を保持するように」とは「マイクの音量を落とすなど」することと言っている。

「戸別訪問」というのは欧米では最も地道で有効な選挙運動だと考えられている。有権者と候補者や運動員が直接会話をかわすわけだから、そうだろう。ところが日本では禁止されている。世界でも珍しい国かもしれない。少なくとも、いわゆるサミット参加国で禁止されているのは日本だけだ。

候補者が個々に家や事務所を回ることを許すと何をするか分からない。という性悪説に立っているのだろうが、そうだとしたら、外国と比べて日本の公選法は政治と国民のレベルを随分低く見積もっているということになる。

ところが、戸別訪問は、実は日本の政治家、候補者にとっても大変大事な運動であり、おそらくほとんどの人が行っているのだ。

どういうことかというと、「政治活動」として行っているのだ。日本では選挙の公示日を境にしてその前日までは政治活動、公示日以降は選挙運動という整理が行われており、公選法の規定はすべて公示日以降の行為に関するものなのだ。

ここで、更に大きい疑問が生じる。

政治活動と選挙活動は区別できるのか、ということだ。

この点についても、欧米主要国で、この区別をしている国は珍しい。

そもそも、多くの国では、選挙というと投票日を決めるだけだ。公示日と投票日を決め、この間が選挙期間で、その間にしていいこと、いけないことを細かく決めている国はいわゆる先進国の間ではあまり聞かない。

公示日がなくなるとどうなるだろうか。選挙運動=政治活動となるから選挙のし方も全く変わるだろう。現職の議員は、自分の考えや日々の活動状況を、次の選挙で立候補予定の人はやはり自分の考えと当選した場合のプランを日々説いて回るということになるだろう。1年中タスキをかけ、選挙カーで候補者の名前を叫びつづける訳にもいかないから、公選法の50条に及ぶ選挙運動に関する細かな規定の大半は不要になる。

公選法第1条は、この法律の目的を「この法律は、日本国憲法 の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。」と定めている。 

この法律ができて、60年余。この目的が達せられたかというと心許ない。もちろんそれが公選法のせいだということではないが、日々の政治活動と選挙運動を分け、選挙期間中は、候補者たちに風変わりな行動をとらせることになってしまっている。この法律が政治を有権者から遠ざける一つの原因となってはいないだろうか。

ネット選挙解禁は、前回も述べたように、公選法の規定の多くを無意味なものにしてしまうだろう。

日本の選挙を全面的に見直す絶好のチャンスだと私は思う。

(おまけ)

公選法にはこんな規定がある。

(政見放送における品位の保持)

第百五十条の二  公職の候補者、候補者届出政党、衆議院名簿届出政党等及び参議院名簿届出政党等は、その責任を自覚し、前条第一項又は第三項に規定する放送(以下「政見放送」という。)をするに当たつては、他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない。

むしろ当選後の議員や首長の言動についてこんな規定が必要かもしれない。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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