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ネット選挙解禁で公選法はぶっ壊れる(1)

加藤秀樹構想日本 代表

ネット選挙が次の参議院選挙から解禁される。

ウェブサイトやSNSを使って候補者や政党、選挙に関する情報が流せるようになるのだ。

私が注目しているのは、今度の参院選挙への影響よりも、ネット選挙解禁が、公職選挙法(以下公選法)が細かく定めている現在の選挙のし方そのものを、無意味なものにしてしまうだろう、という点だ。

法律というものは普通読んでも面白くない。ところが、公選法は大いに笑える。そこで、選挙のし方について公選法が何を定め、ネット選挙解禁がどんなインパクトを持つか整理してみたい。そしてそのことが、皆さんによってこの古風で滑稽な法律に引導を渡すような議論につながり、「ネット選挙解禁」が「選挙そのものの解放」につながればと期待している。

公選法は昭和25年に施行されて以来、毎年のように改正され、今や約270条からなる膨大な法律だ。

その中には選挙権、選挙区から投開票まで、公職の選挙に関する詳細な規定が並んでいる。

とりわけ、選挙運動については、約50条、全体の五分の一近くが費され、非常に細かな、そのくせ曖昧で解釈に困るような規定が並んでいる。

その中の「文書図画」(ぶんしょとが と読む)に関する規定が、ネット選挙に関わってくる。

文書図画の定義は公選法の中にはないが、一般的な解釈としては、文字や図形で表示された、文書、ビラ、ポスター、看板などとされている。

これまで公選法で許されている文書図画は、配る(頒布)ことができるのは、普通葉書とビラだけだった(第142条)。そして大きさ、記載内容、枚数、送り方、配り方、などについて細かなきまりがある。そこにウェブサイト、電子メールなどによる文書図画の頒布が付け加えられるのだ(第142条の2、3)。選挙運動に関して、公選法は「べからず集」と言っていいほど細かいきまりを作っているが、とりわけ文書図画に関する規定は厳しく細かい。これは、ビラ、ポスター、郵便物、名刺など、どれも作成や配布などに費用や人手がかかり、自由にするとお金や力のある候補者ほど大量の文書類を撒くことでき、選挙が不公平になるからだとされている。

ネット選挙では心配はすべてクリアされる。その分、従来の葉書やビラについての細かな制限がそのままになっていることがアンバランスではないだろうか。

さらに文書図画には、ポスターなど、大勢の人に見てもらうために「掲示」できるものも定められている。そして、法律には掲示の対象として、ポスター、立札、ちょうちん及び看板の類、候補者が使うたすき、腕章などがあげられている。

「ちょうちん」が公選法の中に結構たびたび登場する一方で、「ウェブサイト」、「電子メール」が今年始めて登場したところに、公選法が持つ根本的問題が象徴されているような気がする。

選挙のたびに出版される「衆(参)議院選挙の手引」という本がある。

たぶん総務省(旧自治省)OBを中心とする人たちからなる、「選挙制度研究会」という団体の編による本で、公式な解説書でもなく、この研究会がどういう集まりかの説明もどこにもない。しかし、議員や選挙事務所は必ず持ち、首っ引きで参考にしている。不思議な出版物だ。

この本によると、掲示して良い文書図画の例として、プラカード、旗、のぼりは立札や看板類に入るのでOK。吹流しはダメ。はちまきは、たすき、腕章の類に入るのでOKだがハッピ、前かけはダメ。サンドイッチマンを使った文書図画の掲示はダメ。候補者の名前を入れたマッチを街頭で配ることはダメ。などと昭和のにおいのする解説が続く。

映画や小説ならほのぼのした雰囲気でいいのだが、国民や住民の声を代表する議員を選ぶ選挙に関して、こんなに時代がずれていていいのだろうか。

定義のない(あるいはしにくい)曖昧な行為について、さまざまなことを想定してこと細かなルールを作る。これが公選法の選挙運動に関する規定に共通することだ。だから、運動員は次々、法律や手引きに書かれていない新手の選挙方法を考えるし、生活や技術が変われば想定外の状況が年々生じることになる。

ダイナミックに変わる社会の動きに対応できる公選法にしようとするならば、選挙でやってはいけないことを毎年見直せばいいというレベルではなく、やってはいけないことを列挙するという法律のあり方自体を変えないといけないと私は思う。

皆さんに考えていただく材料として、次回、公選法のヘンな規制、世界でも珍しい規定をもう少し見ていきたい。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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