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「世界トイレの日」に、自分の排泄を考えよう

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
写真:特定非営利活動法人日本トイレ研究所

36億人が、安全に管理されたトイレを使用できない

今日、11月19日は国連が定める「世界トイレの日」です。

ユニセフの資料によると、2020年時点で、世界では36億人もの人が、安全に管理されたトイレを使用できません。そして、このうち4億9,400万人は、道端や草むらなどの屋外で用を足すことを強いられています。365日、トイレがない生活です。

参考:ユニセフ資料

https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_act01_03_sanitation.html

ここでいう安全に管理されたトイレと言うのは「排泄物が他と接触しないように分けられている、あるいは、別の場所に運ばれて安全で衛生的に処理される設備を備えており、他の世帯と共有していない、改善されたトイレ」のことです。

ですが、安全に管理されたトイレが無いということは、便意をもよおすたびにいちいち不安になります。屋外排泄が増えれば街中が不衛生になり感染症がひろがります。性犯罪のリスクも高まります。身体的だけでなく精神的にも大きなダメージをうけます。

このような状態では、安心して暮らせるわけがありません。

世界で年間約52万5000人の5歳未満の乳幼児が命を落としている

実際、途上国では下痢は命にかかわる病気で、世界で年間約52万5000人の5歳未満の乳幼児が命を落としています。1日あたり約1438人です。毎日これだけ多くの命が奪われているのにニュースにはなりません。

多くの人にトイレの必要性やトイレの大切さに目を向けてもらい、屋外排泄をなくし、すべての人が安心できるトイレを使えるようにすることを目指して、国連は2013年7月の総会で、11月19日を国連World Toilet Dayと定めました。

日本で屋外排泄を強いられることは、ほとんどないと思うのですが、他人ごとではありません。大きな災害が起きれば、水洗トイレ機能が停止します。すると、トイレ難民になってしまいます。便器はあるのに、使えない状態です。

そのような状態になってからでは遅いので、今から備える必要があります。災害時の備えというと、水や食料のことを思い浮かべますが、それと同時に、トイレや排泄のことに意識を向ける必要があります。

また、日々の健康のことを問われれば、やはり食事や運動、睡眠のケアについてイメージすると思いますが、ここでも「出すこと(排泄)」は抜け落ちがちです。

学生1050人の排泄事情

世界トイレの日をきっかけに、ぜひ皆さまに自分の排泄について考えてもらいたいと思います。そこで、今回は学生の排泄事情をご紹介いたします。

日本トイレ研究所が学生1050人を対象にした排泄に関するアンケート調査を実施したところ、「排便について困っていることがありますか?」という問いに対して「ある」と回答したのは51.4%で、困っている内容としては多い順に「下痢しやすい」「排便回数が少ない」「お腹が張る」でした。また、便秘症の疑いがある人は22.0%という結果になりました。

出典:学生1050人を対象にした排泄に関するアンケート調査(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)
出典:学生1050人を対象にした排泄に関するアンケート調査(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)

この結果について、中野美和子医師は「一般学生への排泄調査はあまり例がない。今回の1,050名は、多少でも関心のある者が参加している可能性があるが、それにしても、排便について困っている学生が51.4%と半数に達するのは、予想以上に多い。困っている内容からは、過敏性腸症候群、慢性機能性便秘症が主な原因と推測されるが、いずれも現代社会を反映する、ストレス、生活習慣に関連する機能性疾患である。新型コロナウイルス感染症流行で学生にも様々な影響が出ているが、それと関連しているかもしれない。」とコメントしています。

一方で「排尿について困っていることはありますか?」という問いに対して「ある」と回答したのは23.7%でした。困っている内容は多い順に「日中、排尿の回数が多い」「排尿後、下着をつけてから尿が少しもれることがある」「くしゃみや大笑いをした際に尿がもれることがある」でした。

出典:学生1050人を対象にした排泄に関するアンケート調査(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)
出典:学生1050人を対象にした排泄に関するアンケート調査(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)

この結果について、吉川羊子医師は「困りごととしては尿の回数が多い、という症状が最も多いようですが、困りごとに対して病院で相談されている方は少ないようなので、ご自身でどのような対処をされているのかを知りたいところです。女性であれば最近はテレビなどでも軽失禁用パッドなどの宣伝も目にしていると思うので、当座の対応として使うことも容易になっていると思いますが、男性に関しての排尿ケアの情報はあまり多くないように思うのでどう対処しているのか興味あるところです。」とコメントしています。

声にならないことは「問題なし」となる

便秘や尿もれなど、排泄に関する困りごとは日常生活に影響を及ぼすことが考えられます。今回の調査は、排泄に関心が高い人が回答した可能性がありますが、かなり多いような気がします。

これから社会に出てそれぞれの道を進んでいく若者たちにとって、自身の健康管理は大切なテーマです。とくに排泄に関しては、他人と比べる機会もなく、情報も不足しているので、誤解したまま放置してしまうと、悪化の一途をたどることも危惧されます。これは、本人にとってはもちろんのこと、社会的にもマイナスです。

排泄に関して気になることや困りごとがある場合は、早めの対応が必要で、そのためには信頼できる情報提供が求められます。

日本トイレ研究所では、自分自身の便の状態を知ることで健康について考えるきっかけづくりとして、うんちweek(11/10-11/19)を設定し、うんちに関する知識を身につけてもらうため「うんちweekクイズ」を実施しています。

出典:うんちweek2021(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)
出典:うんちweek2021(特定非営利活動法人日本トイレ研究所)

また、うんちの7分類と健康状態についても紹介しています。一人ひとりの排泄リテラシーを高めていくことが生活の質向上に寄与すると思います。

世界でも日本でも、トイレや排泄は話題になりにくいテーマであるがゆえに、改善が遅れます。声に出しにくい、声にならないことは、問題なしとなってしまうからです。だからこそトイレや排泄の大切さにやさしく光を当て、話題にしやすく相談しやすい環境をつくっていきたいと考えております。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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