被災経験者の話には、実践的なノウハウがたくさん詰まっています。だからこそ、積極的に話を聞くべきだと常々思っています。

今回、紹介するのは平成30年7月の豪雨災害で避難所となった倉敷市立岡田小学校のトイレ対応です。以下は、当時、教頭だった上月寿彦先生にお聞きした話をまとめたものです。

岡田小学校避難所の案内看板(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)
岡田小学校避難所の案内看板(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)

平成30年7月豪雨災害

平成30年7月豪雨は、西日本を中心に広い範囲での記録的な大雨で、甚大な被害をもたらしました。

7月6日(金)に避難所を開設したあと、徐々に雨足は強くなり、時間経過とともに大雨特別警報、避難準備情報、避難勧告、避難指示と変わっていきます。避難者がどんどん増えていき、体育館はあっという間に満員で受け入れ限界に達したため、全教室を開放しました。このときの避難者数は約1500人です。翌日も避難者数は増え続け、7日の夜には辺り一面が浸水し、そのときの避難者は約2000人を超えていたと言われています。

8日、浸水した水が引くと同時に避難者の移動が始まり、9日時点では岡田小学校の避難者数は約半数に、10日には約750人になり、避難生活がスタートすることになりました。

バケツ洗浄は容易でない

災害時、大勢での避難生活においてトイレを衛生的に管理することは難題です。なぜなら、私たちは日頃使用している水洗トイレはあまりにも便利であるため、断水時の対応に慣れていないからです。バケツで流せばよいと思うかもしれませんが、そう簡単ではありません。

トイレに必要な洗浄水は、結構多くの量を必要とすること、そしてバケツでの洗浄は意外に難しいのです。家庭用水洗トイレが節水型だとしても1回あたり約6~8リットルほど必要になります。バケツ洗浄の場合、3~5リットル程度で流すことになると思いますが、一気に上手くやらないと流れません。上手に流せるようになるには練習が必要です。

岡田小学校では、給水車の水を災害用給水袋に入れ、それをトイレ前に運びます。トイレを使用する際は、給水袋からバケツに水を移し、そのバケツで流します。

文章で書くとシンプルですが、現場では上手く流せずこぼす人もいれば、排泄物を流しきることができず残ったままの人もいます。この後始末を担ったのは教職員でした。

途中からは給水車でなくて井戸水を活用することになりました。豊富な水量を確保できることはよかったのですが、井戸水を給水袋に入れることや前述の後処理は教職員が担いました。

要介助者や高齢者への対応

トイレの衛生状態が悪化しつつある中、新たな課題が浮かび上がってきました。それは、要介助者や高齢者へのトイレ対応です。要介助者や高齢者の中には、自分でバケツ洗浄ができない方もいます。また、和式便器で用を足すことができません。さらに、避難している教室によってはトイレに行くまでに階段の昇り降りが必要になります。

岡田小学校の南校舎1階には洋式トイレがあります。このトイレは避難者の生活している各教室から近いので、水洗機能を復旧することになりました。

どういうことかというと、給水車の水を受水槽に移し、南校舎のトイレのみ水洗トイレとして使用できるようにしたのです。岡田小学校は断水していましたが、停電していませんでした。そのため、受水槽に給水すればその水をポンプでトイレに送ることができました。

ちなみに、愛媛県宇和島市の公民館でも同じような取り組みがありました。この公民館は停電・断水でしたが、給水車の水をポンプで屋上の高置水槽に送ることで、公民館のトイレを通常の水洗トイレのように使用できるようにしました。このおかげで高齢者はとても助かりました。

応急的に水洗トイレを使いはじめてしばらくすると、また新たな課題が発生しました。水洗トイレの流れが悪くなったのです。管が詰まっていることが心配され、市の教育施設課に問い合わせたところ、真備浄化センターの被災により通常通りの下水処理ができない状態になっていたことが分かりました。水洗トイレから流れ出た汚水が途中の下水管に貯留していたのです。このまま放置するとトラブルを起こす可能性があるため、バキュームカーで対応して事なきを得ました。水洗トイレを機能させるには、各部署のつながりが重要になります。

トイレ掃除隊の活躍

前述のとおり、避難所のトイレ掃除を含めたトイレ衛生管理は、主に教職員が実施していましたが、12日からは災害看護学会の看護師によるサポートを得て、外部支援者等によるトイレ掃除隊が結成されました。トイレ掃除隊による1日2回の定期的なトイレ掃除の実施に加え、ペーパータオルや手指消毒アルコール、石けん、スリッパなどの衛生関連製品が揃えられ、トイレが清潔に保たれるようになりました。

これらの取り組みにより、11月1日に避難所が閉所するまで、感染症や食中毒等が発症することはありませんでした。なお、この避難所では、熱中症予防やけが予防、粉塵予防、汚染防止等に関するアナウンスを、児童が学校の放送設備を利用して実施していたことが、避難者から好評でした。

避難所トイレの清潔を維持するには、避難所にいるすべての人の協力が欠かせませんが、衛生面に配慮した掃除方法の指導やそのために必要な道具等の準備は、専門家のサポートが必要です。衛生の専門家と避難所運営者・避難者との連携体制をどのように構築するのかを平時に検討しておくことが求められます。

岡田小学校避難所のトイレ(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)
岡田小学校避難所のトイレ(撮影:NPO法人日本トイレ研究所)

役割の自覚と連携

誰もが毎日使用するトイレは、人間の身体的・精神的健康維持に深く関わります。具体的には、トイレが使えなくなると避難生活において衛生面の悪化とともに精神面でも悪循環を生み出します。そうならないためにも、トイレの衛生管理体制を確立することが必要です。この体制を確立するには、避難所運営者、医療、保健、福祉、学校職員、ボランティア、避難者など、すべての人が自分の役割を自覚して連携することが必要です。また、いち早く連携するにはコーディネートする立場の人も必要になります。

上月先生の話をお聞きして思うこと

新型コロナウイルス感染症が流行している状況においては、避難所への避難だけでなく、在宅も含めた各所への分散避難が想定されます。分散すると、公助がより届きにくくなることが危惧されます。

岡田小学校避難所からの学びは、トイレにおける衛生管理の重要性とともに、自助・共助・公助がそれぞれの役割を自覚して連携しなければ、衛生は確保できないということです。そのためにも、地域防災計画ではトイレの衛生管理に関する役割分担と自助・共助・公助に求めることを明確にする必要があり、その内容を関係者が理解して共有しなければなりません。

災害時におけるトイレの衛生管理は、命と尊厳に関わる重要なテーマです。岡田小学校避難所の取り組みから学び、備えに活かしていただければ幸いです。