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ホワイトアウトによる事故で車両立ち往生、現場のトイレ事情を報告

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:ロイター/アフロ)

最近、大雪やホワイトアウトが原因で車両が立ち往生してしまうというニュースをよく聞きます。車両が動けなくなるということは、そこにジッとしていなければならないので、寒さ対策、水や食料の摂取が必要になります。ここで忘れてはならないのが「トイレ」です。これまでの大地震のとき、発災から6時間以内に約7割の人がトイレに行きたくなったというデータもあります。つまり、水や食料はもちろん大事ですけど、それよりも先にトイレ対策が必要ということです。

本記事では、2021年1月19日、東北道下り古川インターチェンジ付近で起きた「ホワイトアウト」による事故で、130台を超える車両が立ち往生した際のトイレ対応について、現場にいた人からの情報をもとに説明します。

トイレに行きたくなるタイミングは思っているより早い

前述のとおり、私たちは自分が思っているより早くトイレに行きたくなります。というより、多くの人は排泄への備えに関してはあまり意識していません。ですが、どのようなときでも排泄が止まるということはありません。次に示すグラフは過去の大震災において「地震後、何時間でトイレに行きたくなったか?」という質問を被災者に聞いた結果です。

この結果からも分かる通り、かなり早いタイミングでトイレに行きたくなります。阪神・淡路大震災においては、約7割の人が3時間以内にトイレに行きたくなっています。

地震後、何時間でトイレに行きたくなったか?(作成:NPO法人日本トイレ研究所)調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)
地震後、何時間でトイレに行きたくなったか?(作成:NPO法人日本トイレ研究所)調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)

約6時間の車中滞在

NPO法人日本トイレ研究所には、災害用トイレを開発・販売している21社で構成するプロジェクトがあり、災害時のトイレ支援や整備を推進するために定期的に会議を開いています。

今回の古川インターチェンジ付近での車両立ち往生に、そのメンバー企業である長島鋳物株式会社仙台営業所の関氏が巻き込まれていました。そこで関氏から報告いただいたトイレ事情を紹介します。

関氏が車中に滞在したのは約6時間です。人は通常、2~3時間に1回くらいの頻度でトイレに行きたくなると思います。関氏も例外ではなく、トイレに行きたくなりました。トイレに行きたくなったのは、事故発生から2時間後です。

窮屈な姿勢のままじっとしているとエコノミークラス症候群になる可能性があるので、足首を動かすなどの予防が必要です。また、水分を摂取することも予防として重要です。そのため、トイレに出来るだけ行かなくて済むように水分摂取を控えることはやってはいけないことです。そういった意味でも、排泄することは大事です。

ハイパーレスキュー車によるトイレ支援

それでは、関氏がどのようにトイレを使用したのでしょうか。

古川での立ち往生では、対向車線が通行できたため、一定区域を通行止めとしてそこに地元消防本部のレスキュー車が駆け付けました。ですが、レスキュー車にトイレがあるなんて、ふつうは想像できません。

レスキュー隊員が、立ち往生している車両1台ずつをまわって直接、トイレが使えることを情報提供しました。この情報を得た関氏は、外に出るのは寒いですが、排泄を我慢し続けることはできないので、中央分離帯を歩いて横断し、レスキュー車まで行くことにしました。

レスキュー車のイメージ(出典:大崎地域広域行政事務組合消防本部 http://oosakifire119.jp/syoubousyaryou.html)
レスキュー車のイメージ(出典:大崎地域広域行政事務組合消防本部 http://oosakifire119.jp/syoubousyaryou.html)

レスキュー車に行ってみると、すでに5名くらいがトイレ待ちで並んでいました。順番待ちを終えて、関氏の番です。レスキュー車の中に入ると、室内は車両の窓からの自然光が入り暗くなく、物資が備わっている一角に約1畳分のスペースがあり、そこに簡易トイレが備わっていました。

撮影:長島鋳物株式会社仙台営業所 関氏
撮影:長島鋳物株式会社仙台営業所 関氏

簡易トイレとは、災害用トイレの1種類で、写真のような組立て式の便座で、どこにでも容易に設置できます。この便座に携帯トイレ(袋の中に凝固剤を入れて大小便を固める)を取りつけて使用します。

恐らくほとんどの人は、簡易トイレを初めて見ると思います。もちろん使い方も分かりません。間違った使い方をしてしまうと、衛生問題につながります。そこで、レスキュー隊員は、使用者がトイレを使う前に、携帯トイレのビニール袋を便座にセットし、凝固剤を配布するとともに使用方法(用を足してから凝固剤を入れる、使用後は袋を縛って備え付けの専用の大きな袋に捨てるなど)を説明しました。説明を受けてから一人ずつレスキュー車に入るという流れです。これであれば安心です。

東日本大震災の避難所でも避難所でのトイレの使い方を徹底するため、トイレの前にスタッフが常駐して丁寧に説明しました。また、西日本豪雨で被災した西予市の病院でも、看護師がトイレ前に常駐して外来者に説明しました。

日頃から、使用方法を徹底しておくことが望ましいのですが、いざというときは、このような対応が効果的です。

レスキュー車にトイレが備わっていたこと、そして隊員による丁寧な運用により、多くの方が救われました。

東日本放送の記事には、以下の記載があります。

現場には、仙台市や栗原市など、5つの消防本部から30隊、92人の消防隊員が出動。同時に大崎市民病院と仙台市立病院の災害派遣医療チームも駆けつけました。こうした迅速な対応の裏にはこれまでの多重事故を教訓に、県内の各消防本部と定期的に訓練を重ねてきたことが生かされていました。

災害時の支援は、トイレが不可欠

まず、レスキュー車にトイレの備えがあり、トイレ使用のオペレーションも徹底されていたことに驚きました。多くの人は野外排泄をせざるを得ない状況で、我慢して体調を崩した方が多いのではないかと心配していたのですが、いい意味で予想に反しました。

また、道路関連スタッフがダンボール箱を抱えて、水(500ml)・簡易食・携帯トイレ2個を各車両に配っていました。

災害時に現地で被災者をサポートできるのは、やはり「人」です。支援する人がしっかり活動できるようにするためには、適切な備えや装備と日頃の訓練が必要です。これらが徹底されていたからこそ、今回のような迅速な対応ができたのだと思います。

外部からの支援も重要ですが、今後、このような車両の立ち往生がいつ起きるか分かりませんし、自然災害時に車中避難をすることも考えられます。そういった意味で、日ごろから車に、水、食料、トイレ等を備えておくことは必須です。

今回の取り組みに学び、社用車、自家用車問わず、ぜひ車の中には「水、食料、トイレ」の備えをお願いします。

最後になりましたが、関氏の報告がなければ、今回のトイレ対応はわからないまま過ぎたと思います。話題にしづらいことだからこそ、このような詳細情報は非常に重要で、次の備えにつながります。ご協力頂きありがとうございました。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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