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コロナ禍における学校のトイレ清掃の実態

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
写真:NPO法人日本トイレ研究所

新型コロナウイルス感染症は、感染経路は主に飛沫感染と接触感染と言われています。学校のトイレに着目してみると、大勢が利用し、かつ同じ場所を触るという点から接触感染の可能性が高い場所と考えることができます。また、感染性は定かではありませんが、排泄物にもウイルスが排出されている報告がありますし、便には新型コロナウイルスに限らずノロウイルスや腸管出血性大腸菌などのウイルスや病原菌が含まれている可能性があります。

そこで、今回は学校のトイレ清掃について考えてみます。

学校のトイレ清掃は誰がしているの?

2008年にトイレの設備機器に関連する企業で構成する学校のトイレ研究会が教育委員会を対象に実施したアンケート(回答数:321教育委員会)によると「トイレの清掃担当者は誰ですか?」という問いに対して「児童のみ(53%)」「児童+先生・用務主事・清掃業者(42%)」「用務主事のみ(3%)」「清掃業者のみ(2%)」という結果でした。

小学校において清掃はどのように位置づけられている?

小学校学習指導要領の第6章 特別活動の学級活動において、「日常の生活や学習への適応及び健康安全」の具体的な内容に「清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解」という記載があります。また、大竹美登利氏の「日本と中国の小学校における掃除の取り組みの実態と相違」では、以下のように説明されています。

学校掃除の国際比較研究を行った沖原(1978)は,掃除への児童・生徒の関与の仕方を「清掃員型」「生徒型」「清掃員・生徒型」の3つに分類し,アジア仏教圏は「生徒型」に属していること,掃除は神道のみそぎやはらいの催事や仏道修行と深く関係していること,日本では寺子屋時代から掃除が子ども達の教育と深く結びついていること,国家基準が明確に示された1958年の学習指導要領にはすでに「整理・整頓し,環境を美しく清潔にする」と記されていることを明らかにしている。

要約すると、清掃は子どもの教育として位置づけられており、整理整頓することで環境を美しく清潔にすることに加えて、当番活動の役割と働くことの意義を学ぶことを目的にしているのだと思います。

コロナ禍における学校のトイレ清掃の実態

ここでもう1つ別の調査結果を紹介します。2020年9月~10月に小林製薬株式会社が大阪府下の小学校教諭等を対象にアンケート(回答数:92人)を実施したところ、「児童が使用するトイレは誰が掃除をしていますか?」という問いに対して、2020年の緊急事態宣言による休業以前は児童が清掃を行う割合が多いのに対して、休業明け直後はほとんどが教諭による清掃になりました。少しずつ児童による清掃が増えていますが、まだまだ教諭による清掃が多くを占めています。なお、「教諭」に関しては、「教諭」「養護教諭・養護助教諭」「校長・教頭」を合算した数字になっています。

作成:小林製薬株式会社
作成:小林製薬株式会社

児童によるトイレ清掃に躊躇する理由は、接触感染への不安だと思います。「今後、児童がトイレを掃除するのは不安?」という質問に対して、「非常に感じる(10.5%)」「やや感じる(54.7%)」で合わせると65.2%になります。

作成:小林製薬株式会社
作成:小林製薬株式会社

また、「コロナ禍のトイレ掃除、あなたが不安に感じていることは?」という質問に対して、最も多かったのは「トイレ内のレバーや便器に触れること(78.3%)」、続いて「水しぶきに触れること(42.4%)」「蛇口のレバーに触れること(33.7%)」「掃除用具に触れること(30.4%)」でした。

作成:小林製薬株式会社
作成:小林製薬株式会社

繰り返しになりますが、新型コロナウイルスの感染性は定かではないものの、排泄物にウイルスが排出されている報告があります。また、くしゃみなどの飛沫は床に残りやすいことが考えられます。ダイヤモンドプリンセス号の環境検査で、各部屋においてSARS-CoV-2 RNAの検出頻度で最も多かったのは浴室内トイレ床でした。さらにトイレは大勢の人が手を触れる場所が多いことなどから、このような場所を子どもに清掃させることを不安に思うのも無理のないことです。

学校の清掃・消毒の考え方

そこで、文部科学省の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~(2020.12.3 Ver.5)」の内容を確認します。清掃・消毒の考え方は以下のとおりです。

消毒は、感染源であるウイルスを死滅させ、減少させる効果はあるが、学校生活の中で消毒によりウイルスをすべて死滅させることは困難

一時的な消毒の効果を期待するよりも、清掃により清潔な空間を保ち、健康的な生活により児童生徒等の免疫力を高め、手洗いを徹底することの方が重要

「普段の清掃・消毒のポイント」を参考としつつ、通常の清掃活動の中にポイントを絞って消毒の効果を取り入れる

通常の清掃活動の一環として、新型コロナウイルス対策に効果がある家庭用洗剤等を用いて、発達段階に応じて児童生徒が行っても差し支えない

スクール・サポート・スタッフや地域学校協働本部による支援等、地域の協力を得て実施することも考えられる

また、「普段の清掃・消毒のポイント」として、トイレに関連する部分は以下のようになっています。

清掃用具の劣化や衛生状態及び適切な道具がそろっているかを確認するとともに、使用する家庭用洗剤や消毒液については新型コロナウイルスに対する有効性と使用方法を確認します

床は、通常の清掃活動の範囲で対応し、特別な消毒作業の必要はありません

大勢がよく手を触れる箇所(ドアノブ、手すり、スイッチなど)は1日に1回、水拭きした後、消毒液を浸した布巾やペーパータオルで拭きます。また、机、椅子と同じく、清掃活動において、家庭用洗剤等を用いた拭き掃除を行うことでこれに代替することも可能です

トイレや洗面所は、家庭用洗剤を用いて通常の清掃活動の範囲で清掃し、特別な消毒作業の必要はありません

器具・用具や清掃道具など共用する物については、使用の都度消毒を行うのではなく、使用前後に手洗いを行うよう指導します

さらに、清掃活動における感染症予防対策としては、共同作業で共用の用具等を用いるため、換気のよい状況で、マスクをした上で行い、掃除が終わった後は、必ず石けんを使用して手洗いを行うこととしています。

以上を踏まえて、学校でのトイレ清掃についてまとめると、次のようになると考えます。

  1. 換気のよい状況で、マスクをした上で行い、掃除が終わった後は、必ず石けんを使用して手洗いを行う
  2. 清掃用具の劣化や衛生状態及び適切な道具がそろっているかを確認する(使用の都度消毒を行うのではなく、使用前後に手洗いを行う)
  3. 新型コロナウイルス対策に効果がある家庭用洗剤等を用いて、発達段階に応じて児童生徒が行っても差し支えない
  4. 大勢がよく手を触れる箇所(ドアノブ、手すり、スイッチなど)は1日に1回、水拭きした後、消毒液を浸した布巾やペーパータオルで拭く(机、椅子と同じく、清掃活動において、家庭用洗剤等を用いた拭き掃除を行うことでこれに代替することも可能)

ちなみに、学校には「学校環境衛生基準」(児童生徒等及び職員の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準)という基準があり、トイレに関しては「学校の清潔」の1つとして位置づけられています。ここでいう清潔とは、感覚的にきれいと感じることができる状態であることのほかに、微生物や化学物質による汚染が見られず、ごみ等その場に不用のものがない状態と説明されています。これについては、また別の機会に説明します。

衛生面と教育面から学校のトイレ清掃の再構築が必要

学校のトイレ清掃に関して気になることは、清掃用具の適切な管理、衛生的な清掃方法、児童への指導方法が確立しているかどうかです。これまで、学校の先生から意見を聞く限りでは、それぞれ独自のやり方で工夫しながら取り組んでいるというのが実態だと思います。

ですが、新型コロナウイルス感染症が流行する現状においては、学校の教職員にのみ任せるのではなく、衛生面と教育面を考慮したトイレ清掃方法を確立することが必要だと考えます。

児童に参加させる場合は、何に気をつけて、どのような手順で実施するのかを事前に伝える必要があります。これは、新型コロナウイルスに限ったことではなく、様々な菌やウイルスから自分を守る上で大切な学びです。

誰が実施するかについては、教育委員会や学校によってそれぞれ考え方があると思いますが、どのような体制で実施するにしても、衛生面と教育面を考慮したトイレ清掃方法にもとづいて実施することが必要です。

ただし、学校の教職員は新型コロナウイルス感染症対応として、健康面や衛生面に配慮しながら、少ない時間で授業をやりくりすることが求められており、かなり大変な状況です。外部の専門家や企業・団体のサポートが必要ではないでしょうか。児童にトイレ清掃を実施させるにしても、それは作業ではなく教育活動ですので、日常のトイレを清潔に保つには、大人の力が必要不可欠です。そういった意味での、学校のトイレ清掃方法と実施体制を再構築することが課題と考えます。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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