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消毒用アルコール不足 次亜塩素酸ナトリウムの使い方 次亜塩素酸水とは異なるのか?

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症予防として、トイレでは、ドアノブ、手すり、スイッチ、ふた、便座、洗浄レバー・ボタン、トイレットペーパーホルダー、蛇口等、手に触れる部分を消毒するなどして、衛生を保つことが必要です。

このときの消毒としてよく登場するのは、「消毒用アルコール」と「次亜塩素酸ナトリウム」です。ですが、消毒用アルコールが不足しているため、厚生労働省は酒造メーカーがつくるアルコール濃度が高い酒を消毒液の代わりとして使用することを特例として認めることを決めたようです。

NHK

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために必要なアルコール消毒液は、供給が追いつかず、各地の医療機関や高齢者施設から対策を求める声が出ています。

これを受けて厚生労働省は、やむをえない場合にかぎり、酒造メーカーがつくるアルコール濃度が高い酒を消毒液の代わりとして使用することを特例として認めることを決め、全国の医療機関などに通知しました。

出典:消毒液の代わりにアルコール高濃度の酒使用認める 厚労省(NHK NEWSWEB)

医療機関や高齢者等の施設でさえ消毒用アルコールが不足しているのですから、一般の家庭が入手するのは困難です。その場合、トイレのドアノブなど身近な物の消毒には、もう一つの「次亜塩素酸ナトリウム」を活用することが考えられます。また、「次亜塩素酸水」という名称もよく聞きます。「次亜塩素酸ナトリウム」「次亜塩素酸水」は名称がとても似ているので、混同しがちです。

本記事では、「次亜塩素酸ナトリウム」の使い方と「次亜塩素酸水」がどういったものなのかについて、伊与亨氏(北里大学 医療衛生学部 公衆衛生学研究室)に話を聞きました。以下、その内容をご紹介します。

消毒用アルコールと燃料用アルコールは全く異なる!

加藤 本題に入る前に、アルコールについても一つお聞きしたいことがあります。消毒用アルコールが不足している状況ですが、その代わりに燃料用アルコールを使っても大丈夫でしょうか?

伊与 消毒用アルコールの主成分は「エタノール」です。一方、燃料用アルコールの主成分は「メタノール」です。「エ」タノールと「メ」タノールは一字違いで、さほど違いが無いように感じますが、それは全く違います

メタノールを手指消毒に用いると皮膚から吸収され、その吸収量によっては中毒を起こします。燃料用アルコールを消毒用アルコールの代替品として、絶対に使用しないで下さい。

塩素系漂白剤の主成分は「次亜塩素酸ナトリウム」

加藤 そうですよね。名前が紛らわしいですが「燃料用アルコール(主成分:メタノール)」を消毒用に使っては絶対ダメですね。

では、本題の「次亜塩素酸ナトリウム」についてお聞きします。厚生労働省および経済産業省からは、参考として作り方(下図)が紹介されています。塩素系漂白剤で作る「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」とは、どういったものなのかを教えてください。

作成:厚生労働省・経済産業省
作成:厚生労働省・経済産業省

伊与  「塩素系漂白剤」の主成分は「次亜塩素酸ナトリウム」です。

厚生労働省や経済産業省がイラスト等で説明している「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」の原料となる塩素系漂白剤は、非常にアルカリ性の強い、酸化力のある溶液です。溶液のまま置いておくと、気散して強い塩素臭がすることにも注意して下さい。目に入ったら大変ですし、直接触れると皮膚に炎症を起こします。そのため、塩素系漂白剤を薄めるときは、十分な換気を行ったうえで、直接手に触れないよう、家事用手袋をすることが必要です。もちろん目に入らないように注意してください。

また、金属や布を腐食させてしまう効果があり、高濃度に長期間残留するとステンレスも腐食します。さらに、塩素系漂白剤を酸性溶液と混ぜ、混ざった溶液が強酸性になると、塩素ガスが発生して大変危険です。市販されている塩素系漂白剤に書かれている注意事項をしっかりと読んで下さい。

加藤 塩素系漂白剤って、とても危険なのですね。

伊与 このように、人間にとって危ない物質は、ウイルスや細菌などの微生物にとっても危ない物質です。そのため、塩素系漂白剤を相当薄めた溶液でも、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどのウイルスの他、細菌も殺すことができます。

「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」とは、100mLに、有効塩素50 mgを含む消毒液(500ppm)であり、塩素系漂白剤を40倍〜100倍に水道水で薄めて作ります。

ちなみに、水の衛生を保つため、水道水には100mLあたり0.01mg以上の有効塩素を含んでいます。塩素系漂白剤は、洗濯や台所用品として販売されていますので、比較的入手しやすく、利用しやすいです。

塩素漂白剤を薄めてつくったものは、毎回使い切る?

加藤 ハイターなどの塩素漂白剤を薄めた場合、有効塩素濃度が徐々に低下すると聞いたことがあります。だからといって、毎回作って使い切るのは大変です。何日くらいであれば作り置きしてもよいですか?

伊与 今回の場合、「消毒力がある=酸化力のある不安定な物質」を意味します。

消毒成分である有効塩素濃度は、時間経過とともに徐々に低下します。作り置きして何日程度で使い切れば良いかということは、消毒液の有効塩素濃度を測定しなければ判断できません。一般のご家庭では、有効塩素濃度を測定できないため、それは難しいですね。

大雑把な目安としては、数日間で使い、残ったら捨てるという考え方で良いのではないでしょうか。ただし、冷暗所での保管が必要です。

加藤 塩素系漂白剤を薄めて作った「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」をスプレーノズルの付いた容器に入れ、噴霧して使用しても良いでしょうか?

伊与 塩素系漂白剤を販売しているメーカーでは、塩素系漂白剤はスプレー容器に移し替えてはいけない、たとえ、塩素系漂白剤を希釈した場合でも、スプレー容器に移し替えて、使用してはいけないと厳重に注意をしています。この注意事項に従うと、「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」は、スプレー容器に入れてはいけないことになります。

個人的には、0.05%濃度の消毒液の危険性と使い勝手のバランスを考えたいところです。1Lのペットボトルに入れたままでは使い勝手も悪く、蓋の開閉によってこぼす可能性もあります。そこで、「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム液」をスプレーノズルの付いた容器に入れて使用したい場合は、スプレーノズルの吐出孔にティッシュペーパーやトイレットペーパーを近づけて噴霧し、ティッシュペーパーやトイレットペーパーを湿らせてからものを拭くなど、スプレー蒸気を直接吸わないような使い方をしてはいかがでしょうか。

このように注意すれば、次亜塩素酸ナトリウムの蒸気を吸ったりする確率は限りなくゼロになり、スプレーによるウイルスや細菌などの飛散リスクも低下できます。

次亜塩素酸水というのは、次亜塩素酸ナトリウム溶液と同じ?

加藤 つづいて「次亜塩素酸水」について教えてください。これは「次亜塩素酸ナトリウム溶液」と同じものなのでしょうか?

伊与  次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム溶液の成分主成分は同じです。いずれも、有効塩素は、次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンの形で存在します。次亜塩素酸水とは、化学的な物質名でなく、塩化物イオンを電気分解して有効塩素を作る装置から得られた水を「次亜塩素酸水」と称しています。

次亜塩素酸水として販売されている商品には、pHが中性から弱酸性の次亜塩素酸水があります。一方、次亜塩素酸ナトリウム溶液のpHはアルカリ性です。アルカリ性の溶液だと手荒れを起こしますが、中性から弱酸性にした次亜塩素酸水であれば手荒れも少ないでしょう。一般的な化学的な知見からは、そのように推察できます。

ただし、政府答弁において現時点(2020年4月10日)では、次亜塩素酸水を手指消毒に活用することについての有効性が確認されていないという判断のようです。なお、この政府答弁書では、アルコール消毒液の不足に対応するため、「石けんやハンドソープを使った丁寧な手洗いの励行」によるウイルス除去を推奨しています。

加藤 ありがとうございました。今回、教えて頂いたことをまとめると、以下のようになります。

「0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(薄めた漂白剤)」の使い方のまとめ

1.塩素系漂白剤を薄めるときの主な注意事項

・十分な換気を行う

・直接手に触れないよう、家事用手袋をする

・目に入らないように注意

・金属や布を腐食させてしまうので気をつける

・塩素系漂白剤を酸性溶液と混ぜると、塩素ガスが発生するので危険

2.使用時に蒸気を吸ったり、目に入らないように注意する

3.ドアノブなどの身近な物への消毒後は水拭きする

4.冷暗所に保管しながら数日間で使い、残ったら捨てるということを目安とする

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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