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巻雲の約7割は黄砂から生まれる 温暖化を促進するメカニズムが明らかに

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
気象衛星ひまわりが捉えた黄砂(2022年3月4日正午、ウェザーマップ作画)

 5日(土)は西日本に黄砂が飛来する予想で、気象庁は今年初の黄砂情報を発表し、注意を呼びかけている。黄砂は春に最も多く、一年に15日程度観測される。最新の研究で、黄砂が巻雲を作り、温暖化を促進することがわかってきた。

今年初の黄砂情報

 気象庁は4日(金)午後3時過ぎ、黄砂情報を発表し、中国大陸から黄砂が飛来するとして注意を呼びかけました。5日(土)は西日本で、黄砂により見通しが悪くなるおそれがあります。

 黄砂とはゴビ砂漠や黄土地帯など乾燥した場所で、強風により舞い上がった細かい砂やちりが上空の強い風に乗って遠くまで運ばれる現象です。黄砂の大きさにもよりますが、日本を通り越して、北米大陸まで達することもあるそうです。

 黄砂が一年で最も多いのは春(3月~5月)で、全国11か所の気象台の観測によると年間15日くらい観測されます。ただ、黄砂は気象条件(地面の状態や風の強さ)に大きく影響されるため、2001年のように大量飛来が重なり38日も観測される年もあれば、2017年のようにわずか3日だけの年もあります。

【黄砂観測日数】月別の平年値(1991年~2020年)筆者作成
【黄砂観測日数】月別の平年値(1991年~2020年)筆者作成

黄砂は気象災害

 大気中を漂うちりやほこりの約4割が風によって飛ばされた砂ぼこり(Sand and Dust)で、その量は毎年、数10億トンに上ります。発生場所は北アフリカ、アラビア半島、中央アジア、中国など世界各地にあり、とくにサハラ砂漠は全体の約6割を占める世界最大の発生源です。

 砂ぼこりは空を霞ませるだけでなく、航空機の離発着や人の健康、最近では太陽光発電のソーラーパネルへの影響など多岐にわたって作用し、世界では気象災害として深刻に受け止められています。そしてもうひとつ重要なのが地球温暖化への影響です。

黄砂が作る巻雲

 ちりやほこりは小さな氷や水の粒を集める核になり、雲を作る重要な役割があります。ただ、地球規模でどれくらいのちりやほこりが分布しているのか、それらがどのくらい雲を作っているのか、確かなことは分かっていません。

 調査研究が進められるなか、米海洋大気庁(NOAA)が航空機を使った最新の調査結果を発表しました。2016年から2018年まで4回にわたり世界を一周し、地球規模で砂ぼこりの分布調査を行いました。コンピュータを使って観測データを解析したところ、世界で発生する巻雲(熱帯地方を除く)の34%~71%が黄砂などの砂ぼこりが作り出していることがわかりました。

【巻雲】小さな氷の粒が集まってできた雲
【巻雲】小さな氷の粒が集まってできた雲写真:アフロ

 巻雲は小さな氷の粒が集まってできた雲で、最も空高いところにできる雲です。刷毛ではいたような薄い雲で、白い絹のようにも見えます。

巻雲は温暖化を促進する

 雲は地球の温度に深く関わっています。空が雲に覆われると日差しが遮られ涼しく感じる一方で、くもっている朝は冷え込みが弱く、暖かい。雲の広がり方次第で、気温は大きく違ってきます。とくに、高高度にできる巻雲は太陽の光を遮るより、地面から逃げる熱を閉じ込める力が強いため、温暖化を促進するとされています。

 米海洋大気庁の研究者は「将来の気候をより正確に予測するためには大気中のちりやほこりが雲の形成にどのように関わっているのかもっと知る必要がある」と指摘します。急速に進む気候変動により、砂漠化が進んでいる地域では激しい砂嵐が頻発しています。黄砂は今、空を霞ませるだけの存在から、気象災害、さらには温暖化を左右する存在になろうとしています。

【参考資料】

米海洋大気庁(NOAA)Chemical Sciences Laboratory (CSL):Icy cirrus clouds born from desert dust、24 February 2022

世界気象機関(WMO):Sand and Dust Storms

気象庁ホームページ:黄砂・エーロゾル

気候変動に関する政府間パネル(IPCC):IPCC第5次評価報告書(AR5)、よくある質問と回答 FAQ 7.1 雲は気候と気候変動にどう影響するのか?

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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