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少ない台風とラニーニャの発生

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
台風の発生は6月中旬以降、途絶えたまま(7月25日正午、ウェザーマップ作画)

 台風の発生が記録的に少ない。7月に台風が発生しないと史上初だ。太平洋赤道域は今、急速にラニーニャ現象が発生しつつあり、今後、台風に何らかの影響を及ぼす可能性がある。

7月に台風ゼロは史上初

 一年前の今ごろ、台風6号が三重県南部に上陸しました。2019年初の上陸台風です。2019年は10月の台風19号まで約2か月半にわたり、5個の台風が上陸し、各地で大きな被害が発生しました。

 しかし、今年は状況が違います。今年発生した台風は7月24日現在、2個で、平年の3分の1に留まっています。7月から10月は台風のトップシーズンで、平均すると一週間に1個程度発生します。でも、今月は今のところゼロです。過去、7月に台風が発生しなかったことはなく、とても珍しい7月になるかもしれません。

どうなる?今年の台風

 どのくらい珍しいのか、1月から7月までの発生数を、台風の記録が残る1951年から2019年まで調べてみました。最も少ないのは1998年の1個、次いで、2010年・1975年・1954年の3個です。やはり、今年はかなり少ないことがわかります。

【台風】1月から7月までの発生数・少ない方順位(1951~2019)著者作成
【台風】1月から7月までの発生数・少ない方順位(1951~2019)著者作成

 今年も残すところ5か月あまり、台風は平均すると一年間に26個程度発生します。このあと、たくさん発生するのでしょうか。先ほどのデータに、年間発生数と上陸数を加えてみました。

【台風】1月から7月までの発生数・少ない方順位に年間発生数と上陸数を加えた表(1951年~2019年)著者作成
【台風】1月から7月までの発生数・少ない方順位に年間発生数と上陸数を加えた表(1951年~2019年)著者作成

 すると、発生数は少なく、平均すると21個程度、一方で上陸数は約3個とこちらは平年と変わりませんでした。発生数よりも上陸数が少ないことを期待したのですが、現実は甘くないようです。

もうひとつ気になることが

 台風は熱帯の海で発生し、日本に近づくまでのほとんどを海上で過ごします。7月までに台風が極端に少なかった年はエルニーニョ/ラニーニャ現象に関係するのか、調べてみると、多くの年がラニーニャ現象に該当していました。

【台風】1月から7月までの発生数が少ない年とエルニーニョ/ラニーニャ現象との関係を調べたもの(著者作成)
【台風】1月から7月までの発生数が少ない年とエルニーニョ/ラニーニャ現象との関係を調べたもの(著者作成)

 実は今、ラニーニャ現象の発生が近づいています。こちらは太平洋赤道域の海面水温の変化を4月から6月にかけて見たものです。エルニーニョ監視海域の海面水温は5月以降、広い範囲で、急速に基準値を下回り始めました。そして、海だけでなく、大気にもその影響が出始めています。

【エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差を示した図:2020年4月から6月、気象庁ホームページの図に著者が加工した
【エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差を示した図:2020年4月から6月、気象庁ホームページの図に著者が加工した

 日本はラニーニャ現象の発生を40%としていますが、米や豪の気象局はこの秋にもラニーニャ現象が発生する可能性が高いとしています。今、日本や熱帯の海を含む、広い範囲の風の流れが変わりつつあるのでしょう。台風に目が離せません。

【参考資料】

気象庁ホームページ:過去の台風資料

気象庁:エルニーニョ監視速報(No.334)、2020年7月10日

オーストラリア気象局:Climate Driver Update、21 July 2020

米海洋大気局(NOAA):EL NINO/SOUTHERN OSCILLATION (ENSO) DIAGNOSTIC DISCUSSION、9 July 2020

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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