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航空機減便で、天気予報に暗雲が漂う

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
上空の風予想図 気象観測データがあるからこそ緻密な予測が可能に(ウェザーマップ)

 民間航空機の減便で、天気予報に不可欠な気象観測データの入電が大幅に減っている。低気圧や台風の予想に必要なジェット気流の予測精度が低下するという。今、天気予報で何が起こっているのか。

コロナが変えた世界の空

 2019年末、中国・湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者が急増したことに端に発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間にアジア、欧州、北米へと広がりました。2020年2月以降、各国で出入国禁止、都市封鎖など厳しい感染拡大防止対策が取られ、世界経済の急激な冷え込みは2008年の金融危機(リーマンショック)を上回る、底なしの経済危機を引き起こしています。

 グローバル化が進んだ現在、最初に影響を受けたのが航空会社です。こちらは成田国際空港株式会社がまとめた、国際線の航空機発着回数です。

【成田空港】国際線 航空機発着回数(1月~3月:2019年と2020年の比較)、著者作成
【成田空港】国際線 航空機発着回数(1月~3月:2019年と2020年の比較)、著者作成

 今年2月以降、急速に減少しているのがわかります。また、東京出入国在留管理局成田航空支局は今年の大型連休中、成田空港を出入国した人は昨年と比べ99%減の12,720人と発表しました。

航空機と天気予報

 民間航空機が激減したことは人や物の流れだけでなく、天気予報にも影を落としています。世界気象機関(WMO)は5月7日、民間航空機の減便による天気予報への影響に深い憂慮を示しました。航空機と天気予報は相互に深い関係があります。

 まず、航空機が安全に空を飛ぶためには航路や空港周辺の気象状況、天気予報は欠かせません。一方、航空機は世界気象機関の航空機気象データリレープログラム(AMDAR)を通して、1日あたり80万件を超える気温や風向・風速の観測データを提供しています。世界43の航空会社の数千の航空機が参加しているそうです。

世界気象機関(WMO)の航空機気象データリレープログラム(AMDAR)紹介ページ
世界気象機関(WMO)の航空機気象データリレープログラム(AMDAR)紹介ページ

 現在、航空機観測データは通常と比べ75~80%の大幅な減少です。減少幅には大きな地域差があり、南半球の損失は90%近くに達しています。

ジェット気流に影響か?

 航空機からの観測データが途切れたら、天気予報にどんな影響があるのでしょう。

 世界最高峰の数値予報モデルを運用するヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)は3月24日、航空機観測が減少したことによる天気予報への影響をまとめました。最大の影響は典型的な航空機の巡航高度である上空約11〜12キロ(250〜200hPa)を中心に現れ、とくに北半球の風と気温の予測に影響が大きいそう。この高さを流れる風=ジェット気流は低気圧や高気圧そして、台風の動きに深い関係があります。また、気象庁の調査でも気象衛星、高層気象観測に次いで、航空機観測は重要としています。

 

高層気象観測の削減で

 もうひとつ、航空機の減便がクローズアップされる背景にはゴム気球を使った高層気象観測が削減されていることがあります。世界中で一日二回、ゴム気球に気象観測器を吊り下げて、空に放ち、上空の風や気温など観測しています。

茨城県つくば市にある高層気象台 気球による高層気象観測の紹介ページ
茨城県つくば市にある高層気象台 気球による高層気象観測の紹介ページ

 このラジオゾンデ観測には人手や財政的な課題があり、航空ネットワークの飛躍的な拡大で、航空機観測に重点が移っています。日本でも2008年に仙台と那覇でラジオゾンデ観測が終了しました。

 これまでにも、2010年4月のアイスランド・エイヤフィヤトラヨークトル火山噴火では欧州内の航空機の運航が著しく制限され、高層気象観測を航空機に頼る弊害が指摘されました。今回はそれが現実になり、今後、天気予報の在り方も変化を求められることでしょう。

【参考資料】

成田国際空港株式会社(NAA):空港の運用状況

東京出入国在留管理局成田空港支局:成田国際空港におけるゴールデンウイーク期間中の出入(帰)国者数【速報値(概数)】について

世界気象機関(WMO):COVID-19 impacts observing system、7 May 2020

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF):Drop in aircraft observations could have impact on weather forecasts、24 March 2020

太田行哉、2015:従来型観測データの利用の現状と課題、数値予報課報告・別冊第61号、気象庁予報部、3-8.

佐藤芳昭、2015:第5章トピックス、数値予報課報告・別冊第61号、気象庁予報部、86-93.

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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