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雲で知る「秋の訪れ」トランスバースバンド

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
ジェット気流に伴って発生するトランスバースバンド(9月30日,ウェザーマップ)

 日本列島にかかるしま模様の雲帯は「トランスバースバンド」といって、ジェット気流の近傍に発生する雲だ。季節の移り変わりを教えてくれる。ジェット気流の発見に深く関わった日本人がいた。

雲で知る「秋の訪れ」

 天気の仕事をしていると「秋が来た」と感じる瞬間があります。それは日本列島に沿うように流れる雲「トランスバースバンド」を目にしたときです。最も上空に発生する、細かい氷の粒でできた巻雲(けんうん)が波状の雲列となってみられる雲で、ジェット気流の近傍によく現れます。

 なぜ、この雲をみると秋を感じるのでしょう?

トランスバースバンド(2017年9月30日正午,著者作成)
トランスバースバンド(2017年9月30日正午,著者作成)

 

 ジェット気流は南北方向に温度の差が大きい所を流れます。簡単にいうと、季節の境目を表していて、冬は日本の南を、夏は日本の北を流れ、ちょうど春と秋は日本付近を流れるのです。ジェット気流は風なので、なにもなければ目に見えませんが、このトランスバースバンドが教えてくれます。

 みなさんも気象衛星ひまわり8号の雲画像をみるとき、風の流れに直交する雲列に注目してみてください。この雲が日本列島を南下すると、一段と秋が深まるでしょう。季節の変化を雲で知ることができます。

ジェット気流の発見認められず

 こちらは30日(土)の関東地方上空の風の強さをグラフにしたものです。

館野(茨城県つくば市)上空の風速グラフ(9月30日午前9時,著者作成)
館野(茨城県つくば市)上空の風速グラフ(9月30日午前9時,著者作成)

 茨城県つくば市には高層気象台があり、毎日午前9時と午後9時の2回、高層気象観測が行われています。気象観測というと、地上の気圧、気温、風向風速などを思い浮かべますが、天気予報で最も大切なことは地上から上空約10キロにかけての大気の状態を知ることです。

 つくば市(館野)上空の風をみると、上空に向かって強くなっていて、高さ約11キロでは風速55メートル、時速に換算すると約200キロの新幹線並みの風が吹いていることがわかります。

 秋の台風は日本列島に近づくと急にスピードを上げることから「韋駄天(いだてん)台風」と呼ばれますが、台風はこの風の影響を受けています。

 日本で高層気象観測が始まったのは大正時代から。気象台長の大石和三郎氏が気球を使った観測を始め、徐々に上空の風の状況がわかるようになりました。大石氏は上空10キロ付近に非常に強い風が吹いていることを見つけ、観測成果を発表しましたが、欧米の気象関係者には見向きもされません。大石氏が観測成果をエスペラント語で記述したこと、当時の日本の気象界が世界で認められていなかった事情もあるようです。

 時代は流れ、気象衛星が活躍する現代でも、気球を使って風を知る方法は大正時代から大きく変わっていません。気球は上空に向かうにつれて膨らみ、破裂したら観測が終わります。吊るされていた気象観測器はパラシュートでゆっくり落下します。得られた気象データは毎日の天気予報を土台から支えているのです。

【参考資料】

饒村曜,1998:黎明期の高層気象観測 ジェット気流発見までの道のり,気象,42(4),40-44.

二宮洸三,2014:気象観測史的に見た高層気象台におけるジェット気流の発見,天気,61,865-870.

気象庁高層気象台ホームページ:気球による高層気象観測

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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