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南極で最高気温を記録 本当ですか?

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
南極半島北端のエスペランサ基地で南極最高気温を記録か。

南極大陸で観測史上最高気温を記録か?

2日、米気象情報会社が南極半島北端のエスペランサ基地(BASE ESPERANZA,アルゼンチン:南緯63度24分)で最高気温17.5度(3月24日)を記録したと発表しました。当時の地上天気図をみると、南米アルゼンチンに近い南極半島には発達した低気圧が近づいていて、非常に暖かな空気が流れ込んでいた様子がうかがえます。また、上空にはブロッキング高気圧がみられ、地上から上空にかけても気温が高くなりました。

この記録が本当ならば、南極大陸の観測史上最高気温となります。「本当ならば」と前置きしたのは、世界気象機関とアリゾナ州立大学の気象専門家チームがこの記録が正しいものなのか調査を開始したからです。

上記の調査チームによると、これまでの南極大陸・観測史上最高気温は1974年5月1日、バンダ湖観測所(Vanda Station:南緯77度32分)で観測された15度とされています。実は英ガーディアン紙の報道では、1961年にも同じエスペランサ基地で17.1度を記録しているとあり、世界気象機関とアリゾナ州立大学の調査チームの見解とは異なります。

「間違いだった!」過去には記録取り消しも

観測史上、記録的、過去最高など、気象の記録をよく耳にします。日本では明治時代に近代的な気象観測が始まり、現在では全国の約1300か所で、ほぼリアルタイムの気象観測が行われています。しかし、世界に目を向けてみると、日本のような気象観測を行っている国は少数派、ましてや、100年以上の歴史を持つ気象データは貴重品といっていいでしょう。

また、気象測器が正常に動いていたか、観測手順は守られていたか、観測場所の環境はどうだったのかなど、正式な記録と認められるには多くのハードルがあります。

世界最高気温は米カリフォルニア州デスバレー(WMO・ASU)
世界最高気温は米カリフォルニア州デスバレー(WMO・ASU)

実際、世界の記録が調査によって取り消しになった例もあります。世界の最高気温といえば、長らくイラク・バスラで観測された58.8度(1921年7月8日)とされていました。今でもインターネットで検索すると多数ヒットします。

それが3年前、上記の調査チームによって、1913年7月10日、米カリフォルニア州デスバレーにあるグリーンランドランチで記録された56.7度に訂正されたのです。原因は旧式の温度計で、目盛を読み間違えたとされています。

余談ですが、この記事を読んだとき、他の気象予報士も同じように首をかしげて、記事が間違っているのではないかと議論になり、新聞社に問い合わせた経緯があります。すると、「このようなニュースがあるのは事実だが、気象データの詳しいことはわからない」と言われたことを思い出しました。

もしかすると、今回の南極大陸の観測史上最高気温も正式な記録と認められないかもしれません。それでも世界記録に引き付けられるのはワクワクする気持ちやロマンを感じるからでしょう。世界気象機関とアリゾナ州立大学が共同で発表している気象世界記録のサイトをみると、びっくりするような記録が並び、世界はすごい!と今更ながらに思います。

一度、のぞいてみてはいかがですか?

【参考資料】

CNN:南極大陸で観測史上最高気温か 17.5度を記録(2015年4月2日)

日本経済新聞:南極最高気温観測か(2015年4月3日夕刊)

日本経済新聞:世界最高気温58度は間違い(2012年9月18日夕刊)

アルゼンチン気象局(Servicio Meteorologico Nacional)

世界気象機関,アリゾナ州立大学:Global Weather & Climate Extremes Archive

ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF):High resolution forecast

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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