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現代の雨乞い? 人工降雨

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
最近20日間の降水量平年比(気象庁データ)

東京都は19日、渇水対策の一環として、小河内ダム(奥多摩町)に設置されている人工降雨装置を稼動させると発表しました。実施されれば、2001年8月以来、12年ぶりのことです。この夏は、日本海側や北日本で大雨が相次ぐ一方で、太平洋側では雨の少ない状態が続いています。小河内ダム(奥多摩町)周辺では平年の半分程度の雨にとどまっています。

人工降雨は19世紀から

人工的に雨を降らせるというと、非科学的なイメージや効果を疑問視する向きがあるでしょう。霧や雲、雨を人為的に変えることを「気象改変」または「気象調節」といって、古くは19世紀中頃にさかのぼります。1932年に旧ソ連・レニングラードに世界で初めて人工降雨研究所が設立されました。1946年には米ジェネラルエレクトリック社のラングミュアー博士によって、科学的な研究が始まり、現在は日本を含めて世界約40か国で人工降雨が行われています。

どうやって、人為的に雨を降らせるのか?

ひとことでいうと、自然の雲が持っている、雨を降らせる力を最大限に引き出すのです。何もないところから雲を作って、雨を降らせることはできません。雲を作り出すには莫大なエネルギーを必要で、人為的に作った雲としては、原爆雲(キノコ雲)が有名です。

実用化されている方法としては、もともとある雲(自然にある雲)に、雨粒の核となるドライアイスやヨウ化銀などの物質をまく、シーディング(種まき)を行います。雨粒には水蒸気がくっつく核が必要なため、核を増やせば、雨粒も増えるというわけです。東京都の装置はこの方法を用いています。

でも、もともと雨が降りそうな状態で行うため、効果がどのくらいあったのか、判断が難しいケースがほとんどです。また、シーディング(種まき)に適した自然の雲は10%程度しかなく、人工降雨をするタイミングも自然まかせです。理論的にその可能性は示されているものの、費用対効果など課題が多く、渇水対策の切り札とはいえません。

大雨も、干ばつも、増えている

ニュースでは大雨ばかりを取り上げている感じがしますが、実は日本の年間降水量はこの100年間で約6%減少しました。とくに、瀬戸内の香川県や愛媛県では平均すると、数年に一度の頻度で渇水が起こっています。首都圏は1987年に大渇水に見舞われました。

一方、大雨の日(日降水量100ミリ以上)はこの100年で2割、増えています。つまり、現代は大雨と渇水が隣り合わせにある、極端気象の時代といえるのかもしれません。

【参考資料】

人工降雨・降雪研究の現状 (日本気象学会、天気)

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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