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新型コロナワクチンの治験に参加してみた その2

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
コロナワクチン治験で2回目の注射。筋肉注射だから針が長いの?(著者撮影)

ワクチン治験は長丁場

 前回の記事で、筆者が独バイオンテック社と米ファイザー社が開発に取り組むmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの第3相臨床試験(治験)に参加したことをお伝えした。このワクチンは2回接種なので、先日、2回目の接種を受けてきた。

 最初の記事で説明した通り、この治験はランダム化比較試験。参加者の半数にワクチン候補薬を、残り半数はプラセボである生理的食塩水を注射する。バイアスなしのデータを得るために、治験を実施する医師も、注射を受ける参加者も、誰がどちらの注射を受けているのかわからない仕組みになっている。

新型コロナワクチンの治験に参加してみた その1

 だから私がワクチンの治験に参加しているのは事実だが、ワクチン候補薬を注射されているのかどうかは、わからない。特に1回目の注射では、翌日に注射を受けた側の腕に鈍い痛みを感じた以外は、これといった副反応は感じなかった。

 私が受けた注射は食塩水だったのかもしれないが、ワクチン候補薬だったとしても、これまでのところは深刻な副反応が起きたというニュースはない。むしろ、ファイザー社が治験対象者の年齢を16歳以上に引き下げ、症状が安定しているHIVやC型肝炎、B型肝炎患者も含めて治験規模を拡大すると発表したことが心強かった。(注1)安全性に対する自信が高まったのだろうと思ったからだ。

 ファイザー社のワクチン治験を含め、ほとんどの新型コロナワクチンの治験は、3週間から1カ月間隔での2回接種を必要としている。接種後の副反応はどうか、どれだけ抗体ができたか、抗体がいつまで持続するかなど治験参加者を追跡して継続的に調べるのだから、一口に「ワクチンの安全性と有効性を調べる」と言っても、時間がかかることを実感する。

2回目は痛かった

 1回目が拍子抜けするほど何ともなかったので、緊張感もなく、鼻歌まじりに3週間後の2回目接種に向かった。引き続き自分がプラセボ組か、ワクチン候補薬組かはわからないが、2回目の注射は1回目に受けたものと同じ液体、同じ量、そして同じ筋肉注射だ。

 前回は楽勝だったが、今回の注射は痛かった。もっとも1回目は緊張のあまり、痛みを感じなかったのかも知れないし、たまたま今回が痛かっただけなのかもしれない。そう思って診療所を後にしたのだが、翌日は腕の痛みだけでなく、寒気や頭痛、体全体で関節の鈍い痛みなどを経験した。熱はなく、仕事にも行き、頭痛薬を飲んだらそれほど気にならなくなった。

 これらはすべて他の治験者も報告している副反応に該当するものだ。腕の痛みは4日ほど続いたものの、全身症状として感じた副反応は1日で軽快した。ビジネスTV番組を提供するCNBCのウェブ記事でも、mRNAワクチン(ファイザーおよびモデルナ)の治験参加者体験談を伝えていた。ごく短期間だが、注射部位の痛みに加え、やはり発熱や関節の痛み、疲労感など、軽いCOVID-19のような症状が副反応として出るようだ。(注2)

 副反応体験は個人差も大きいようだが、個人的にはこの程度の副反応で、コロナ感染症に対して本当にワクチンが有効なのであれば、まあいいかなと感じた。ただある程度の副反応を想定しておかないと、不安を感じる人も出てくると思う。今月後半に採血のため、再び診療所に行く。私には結果は知らされないが、これで抗体ができているかどうかのデータをとるのだろう。

米国でのワクチン治験の現状は?

 米国では10月8日現在、バイオンテック/ファイザー、モデルナ、オックスフォード大学/アストラゼネカ、ヤンセンファーマ(J&Jグループ、注3)の4つの新型コロナワクチン候補が大規模な第3相臨床試験に入っている。

 ファイザー社およびモデルナ社はmRNAワクチンで、アストラゼネカ社とヤンセンファーマ社は、ウイルスベクターワクチン。こちらは無毒化したアデノウイルスに抗原タンパク質の遺伝子を組み込んで投与するワクチンだ。アストラゼネカ社の治験は先月、英国で深刻な副反応が疑われる事象が2件報告されたことに伴い、米国では治験を一時中断している(英国、日本、ブラジル、インドなどでは再開)。

 ファイザー社の治験は先に述べた通り、当初の3万人規模から4万4千人規模に対象者を拡大して継続中。モデルナ社も9月下旬時点で、参加登録目標者3万人のうちすでに2万5千人以上を登録したという。一方、ヤンセンファーマ社の第3相試験は今月始まったばかりだが、このワクチンは接種回数が1回だけなので、2回接種ワクチンの治験よりもスピーディに進む可能性もある。

コロナワクチンはいつできる?

 トランプ大統領は先月から「新型コロナワクチンは大統領選挙までにはできるかも」と言い始め、それに間に合うように緊急使用許可を出し、ワクチン接種を開始できるようにせよと圧力をかけてきた。大統領選挙に向けて自らの功績にしたいのだろう。が、どんな形であれ「安全性と有効性の確認」が不十分なまま承認に踏み切れば、ワクチンに対する信頼が損なわれ、より多くの人々がワクチン接種を躊躇するようになる。

 すでに21万人が新型コロナ感染症のために命を落とした米国では、「安全で有効なワクチン」を完成させることだけでなく、多くの人に使ってもらい、新型コロナの被害を食い止めていくことが急務だ。

 そのためワクチンの認可を行う米食品医薬品局(FDA)は10月6日、緊急使用許可であっても、「ワクチン接種後の安全性および効果について、治験で少なくとも2カ月の経過をモニターする」というガイドラインを出した。これにより、トランプ大統領が望んでいた11月3日の大統領選挙までに、新型コロナワクチンに使用承認がおりる望みはなくなった。

 トランプ大統領は同日「FDAの新たなルールで大統領選前のワクチン承認が難しくなった。またFDA長官の政治的な画策だ!」とツイートし、不満を表明した。

 

 だがFDAやそれぞれのワクチン開発事業体の目標は、トランプ大統領の再選を手伝うことではなく、一日も早く新型コロナ感染症のパンデミックを止めること。科学者らはそのために日夜努力を続けているのだ。

 官民協働のワープスピード作戦のもと、新型コロナワクチンの開発はおおむね順調に進んでいる。国立アレルギー感染所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長も、「年内にはいくつかのワクチンの安全性、有効性について結論を出せるのではないか」と、慎重ながら楽観的な見方を示している。

 実際にどのワクチンが実用化されるのか。冷凍保管が必要なmRNAワクチンだったら、どう配布するのか。接種間隔が異なる2回接種のワクチンが複数実用化された場合、混乱なくワクチン接種を進められるのか。ワクチンに対する人々の信頼をどう勝ち得ていくか。トランプ大統領の顔色をうかがうより、もっと重要な解決すべき重要な課題が山積している。

参考リンク

(注1)ファイザー社の新型コロナウイルス治験の対象者拡大(報道資料)

(注2)CNBCのmRNAワクチン治験体験者の記事(英文リンク)

(注3)ジョンソン・エンド・ジョンソンのヤンセンファーマによるワクチン治験の発表資料

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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