米国各地ではしかの集団発生 どうする?SNSで拡散されるワクチン偽情報

麻疹、おたふく風邪、風疹を防ぐMMRワクチン(写真:ロイター/アフロ)

感染者はすでに100人以上

 日本でも近畿地方を中心に、麻疹(はしか)の感染が広がっているようだが、米国でもワシントン州、オレゴン州、ニューヨーク州、テキサス州など10州で麻疹感染が発生している。米疾病予防センター(CDC)は、2月7日までにすでに101件の麻疹感染を確認しており、その後も各地で感染増が報道されている。患者のほとんどは、予防接種を受けていない子供たちだ。

 日本の三重県で麻疹感染が広がったきっかけは、「医薬に依存しない健康」を教義に含む宗教法人の研修会での集団感染。参加者の多くがワクチン接種を受けていなかった。

 米国でもニューヨーク市ブルックリンでは今年1月、正統派ユダヤ教徒の間で50人以上の麻疹集団感染が起きた。予防接種を受けていない子供たちが、麻疹流行中のイスラエルを訪問し、帰国後に発症。そこから次々と、同じように予防接種を受けていない子供たちに感染が拡大していった。

公衆衛生緊急事態のワシントン州

 親が子供に予防接種を受けさせないのは、宗教的理由だけではない。西海岸のワシントン州やオレゴン州では、衛生当局や医薬企業に対する不信感や安全性への懸念から、予防接種を拒否する親たちも多い。

 ワシントン州の感染震源地であるクラーク郡では、幼稚園児で推奨される定期予防接種を受けていない児童はほぼ4人に1人。同州でも50人以上の麻疹感染が確認され、公衆衛生緊急事態を宣言した。

 ワシントン州議会では「個人的、あるいは思想上の理由」による学齢児のMMR(麻疹、おたふく風邪、風疹)ワクチン接種拒否の禁止を検討している。しかし2月8日には、「子供がワクチンを拒否する権利」を主張して、700人あまりのAnti-Vaxxerと呼ばれる反ワクチン活動家や親たちがワシントン州議会で抗議活動を行った。

SNSで拡散続く偽情報

 こうしたワクチンの安全性を懸念する親たち、有名人、反ワクチン活動家、政治家と、さまざまな人々の間でSNSを通じて、ワクチンに関する根拠のない偽情報が拡散され、Anti-Vaxx(反ワクチン主義)ムーブメントが広がりつつある。

 つい先日も、元テレビプロデューサーで、ホワイトハウスのコミュニケーション担当首席補佐官代理の妻であるダーラ・シャインさんが、とんでもないAnti-Vaxxの偽情報をツィートし、物議をかもしている。

「ベビー・ブーマーは全員が子供の時にはしかに罹ったけれど、みな生きてるわよ。私たちの健康を維持し、がんとも闘ってくれる #ChildhoodDisease (子供の時にかかる疾病)を蘇らせましょう」(筆者翻訳)

出典:ダーラ・シャインさんのツイート、5:43 AM - 13 Feb 2019

「私は子供の時に、はしかにも、おたふく風邪にも、水疱瘡にもかかった。回りの知ってる子供達はみんなそう。悲しいことに、私の子供はMMRを接種されちゃったので、私みたいに一生続く自然の免疫を持つことはできないのよ」(筆者翻訳)

出典:ダーラ・シャインさんのツイート、5:44 AM - 13 Feb 2019

 こうしたシャインさんのツィートに対し、批判的なツィートが圧倒的多数寄せられているが、中には同意と反ワクチン主義を固く誓う内容のツィートも見られる。

Anti-Vaxxな人々

 無知で常識がなく、経済的理由で医療サービスを受けることができない人々が反ワクチン主義になるのではない。むしろワクチンを拒む親たちは、学歴も経済力もあり、法的な権利を理解し、健康に高い関心を持つ人たちが多い。多くは子供を私立の学校に通わせている。

 例えば筆者の住むテキサス州では、ワクチン接種率が低い地域には、州都のオースチン市、石油で潤うヒューストン市、北米トヨタが本社を構えたプレーノ市などが含まれる。どこも概して所得水準、教育水準が高く、「意識が高い系」の住民がいる都市だ。特にワクチンの接種率が低いのは私立の学校である。

 Anti-Vaxxムーブメントに影響され、反ワクチン主義になる親たちは、もともとは我が子の安全を懸念するあまり、ワクチン接種に対しても不安を覚えた人達だと思う。健康コンシャスで、有機野菜にこだわったり、環境問題にも関心を持つ人たちだ。

健康コンシャスの心に届くトンデモ情報

 学歴も行動力もある彼らは、積極的に情報を収集するが、インターネットには無責任な情報が氾濫している。先のダーラ・シャインさんのトンデモ・ツィートにある、子供の頃に麻疹に罹患して得た「一生続く自然な免疫」が、「健康維持」に役立ち、「がんとも闘う」などは、まったく根拠のない偽情報だ。

 しかし特に健康に気を配る人の中に、「自然=安全」、「化学物質=危険」、「本来の免疫で病気を治すのが一番」という印象を持つ人は多い。こうしたキーワードがあると、常識を飛び越えて、偽情報を受け入れてしまうケースが少なくないのだ。

 筆者が昨年8月に既報したように、トランプ大統領を含む有名人がMMR接種と自閉症を結び付ける偽情報をソーシャル・メディアで拡散する例も後を絶たない。

既報:はしかの子供、見たことありますか?

SNSでつながるAnti-Vaxxコミュニティ

 本来は健全な懐疑精神を持つ親たちも、ソーシャル・メディアでAnti-Vaxxer(反ワクチン活動家)が拡散する陰謀論や偽情報、有名人または自分と同じようにワクチンに不安を覚える人々の経験や意見を見聞きしているうちに、共感を深めていく。

 フェイスブックなどで、「政府や医薬品業界に騙されない」、「ワクチンという名の化学物質から子供を守る」、「ワクチン接種を拒否する自由を守る」といったAnti-Vaxx(反ワクチン主義)の小グループがいくつも出来上がり、さらに広がっていく。

 世界保健機構(WHO)は、ワクチン接種を躊躇すること(Vaccine hesitancy)が、2019年のグローバル・ヘルスに対する10大脅威の一つであると報告した。

ソーシャル・メディアの対応は?

 ワクチン接種率の低下に危機感を覚えたアダム・シフ連邦下院議員(民主)は、フェイスブックのザッカーバーグCEOと、GoogleのピチャイCEO宛てに、ワクチンに関して医療的に正しい情報をユーザーに伝えるためのさらなる対策を要請する手紙を送った。

 フェイスブックでも、医療関連情報については、国際的な事実確認活動団体から認定を受けた第三者が、投稿された情報の確認を行っている。偽情報と判断された場合は、ニュース・フィードの下位ランクに落とされ、事実確認者により適切な関連記事とともに示されるなどの対策がとられている。

 しかし元来のソーシャル・メディアのコンセプトは、個人がそれぞれの意見や観点を自由に表明し、シェアしあうというものなので、ソーシャル・メディア側は、基本的に投稿内容の制限については積極的ではない。

 ピューリサーチ・センターの調査では、米国人の3分の2が、ニュースの情報源としてソーシャル・メディアを使っている。ワクチンを含む医療に対する不信感をなくし、いかに正しい情報を一人ひとりに伝えていくか。個人主義の米国では、非常に困難な課題である。