高濃度乳房って知っていますか     米では患者主導の取り組みで広がる3Dマンモ乳がん検診

左側が乳腺の多い高濃度乳房。米国立衛生研究所 Dr.Kathy Cho提供

乳がん検診に行ってきた

 年明け早々、乳がん検診に行ってきた。卵巣がん経験者で50代半ばである私は、乳がんの高リスク群になるので、毎年、乳がん検診を受けるよう医師に助言されている。いつもは11月に受けていたのだが、なんとなく先延ばしにしている間に年が明けてしまった。

 米国ではオバマケア(医療保険改革法)のおかげで、乳がん検診を含む基本的な予防検診は個人負担なしで受けられる。しかし個人主義の国だけに、日本のように自治体や会社、健康保険組合がお膳立てしてくれる一斉検診はない。かかりつけのプライマリケア医からの助言や、米国予防医学専門委員会(USPSTF)の検診ガイドラインを参考に、自分でいつ、どの検診をどこで受けるかを決め、主体的に動かなければならない。

3Dマンモグラフィ

 予約をとって、いつもの乳がん検診施設に行くと、受付で「3Dマンモグラフィですね」と確認される。そういえば、昨年も医療保険で全額カバーされると言われ、3Dマンモグラフィを受けたことを思い出した。

 3D マンモグラフィはトモシンセシスとも呼ばれる撮影技術。乳房を水平面に投影して撮影する従来の2Dマンモグラフィと違い、3Dマンモグラフィでは角度を変えながら複数の撮影をし、断層画像を再構築する。

 ただし機械の見た目も、乳房を挟み込んで画像をとるという検査手順も普通のマンモグラフィとあまり変わらない。検査時間も同じで、5分か10分程度のものだ。検査技師からは、3Dマンモグラフィだと高濃度乳房の人の画像でも異変を見つけやすいとの説明を受けた。

 乳房には乳腺と脂肪があって、脂肪の割合が高い人もいれば、乳腺が多い人もいる。脂肪は黒っぽく画像に写るが、乳腺は白く写る。しこりなどの異常も白く写るので、乳腺の割合が高い高濃度乳房だと、乳腺が密集した白っぽい背景の中から、白く写る異常を見つけなければならないので難しい。様々な角度から撮影する3Dマンモグラフィだと、乳腺の重なりを避けた断層画像ができるので、異変を見つけやすいのだそうだ。

 いつもの通り、検査を受けた2日後には、検査結果に関する手紙が電子メールで送られてきた。結果は「異常なし」だったが、「あなたは高濃度乳房です(You have dense breast tissue)」と太字で書かれていた。

 私の住むテキサス州では2011年9月から、州法にもとづいて、乳がん検診施設はマンモグラフィ検診受診者に対し、高濃度乳房かどうか、また高濃度乳房の意味と影響について通知することが義務付けられている。この州法は、「Henda’s Law(ヘンダの法)」と名づけられている。

ヘンダって誰?

 ヘンダ・サルメロンさんは、20代で南アフリカからスーツケース2つだけ抱えて米国に移民し、自分の人生を切り開いてきた人だ。テキサス州ダラス市で不動産業と子育てで多忙な日々を送りつつ、健康にも気を使ってきた。家族に乳がん経験者はいなかったが、40歳以降は毎年、マンモグラフィを受けていた。毎年、異常なしという所見だった。

 42歳になった2009年、乳房に豆粒大のしこりがあることに気づいた。病院に行き、再びマンモグラフィを受けたが、やはり異常は見受けられないと言われた。それでも、なぜか安心できなかった。義母から自分が納得できるまで、検査を要求した方が良いと促され、もう一度、医師のもとを訪れた。

 超音波検査であやしい影がみつかり、針生検をした結果、乳がんの診断を受けた。さらにMRIで見たところ、がんはすでに4cmに進行し、リンパ節に転移していることがわかった。マンモグラフィで異常を発見できなかった理由について、医師は「高濃度乳房だと、マンモグラフィの画像では病変を見つけにくい」と説明した。

高濃度乳房

 「高濃度乳房」という言葉は、ヘンダさんが初めて耳にした言葉だった。突然の乳がん診断にショックを受けると同時に、毎年、真面目にマンモグラフィを受けていたのに、自分が高濃度乳房であることや、それによる潜在的なリスクを知らされていなかったことに対して、猛烈な怒りを覚えたという。

 乳がんには様々なリスク要因があるが、高濃度乳房もリスク要因の一つであることがわかっている。そういう知識があれば、もっと注意して医師と相談し、追加的な検査によって、早期にがんを発見できたかもしれないと思ったからだ。

 高濃度乳房は異常でも、珍しいことでもない。乳腺が多いかどうかは、手で触った感触ではわからない。マンモグラフィの結果で高濃度乳房と言われた人でも、年齢とともに脂肪の割合が増えることもある。一般的には、50歳以下だと4割程度の人が高濃度乳房と言われている。

 そう知ったヘンダさんの怒りは、さらに高まった。一体、何人の女性が自分の乳房についてよく知らないまま、自分と同じ境遇になってしまうのか。

リスクを知らせたい

 2009年、ヘンダさんは化学療法、手術、放射線療法と一連の乳がん治療を受けつつ、マンモグラフィを受ける女性達が高濃度乳房について知り、十分な予防的検診と早期発見の機会を得られるように、テキサス州議会に働きかけた。コネチカット州ではその年、マンモグラフィ検診受診者に対し、高濃度乳房について通知を義務付ける州法を全米ではじめて成立させていた。

 州都のオースチンに何度となく通い、議員食堂に陣取っては、あらゆる議員、有力者に自らのマンモグラフィ写真を見せながら、高濃度乳房について周知する重要性を訴えた。ヘンダさんの粘り強い働きかけにより、2011年6月、テキサス州に「ヘンダの法」が誕生した。

全米への広がり

 テキサス州以外でも、ヘンダさんのようにマンモグラフィでは異常が見つからなかったが、進行した乳がんの診断を受けたという患者が、声を上げていた。みな高濃度乳房だった。昨年はユタ州、ワシントン州、フロリダ州で同様の州法が制定され、米国では現在、32州で州法にもとづき、マンモグラフィ受診者に高濃度乳房に関する通知を行っている。

 前述のとおり、高濃度乳房そのものは異常ではなく、高濃度乳房だから乳がんになるわけではない。ある年に高濃度乳房でも、翌年には変わることもある。私も一昨年は高濃度乳房と言われたが、昨年は違うと言われた。そして今年は再び高濃度乳房という判定だった。このため通知しても、該当者をいたずらに不安にさせたり、混乱させたりして、不必要な検査が増えるだけで、あまりメリットがないという反対論もある。

 しかしヘンダさんは、女性達が高濃度乳房についての知識を得て、その他のリスク要因も含めて、自分にとっての最善と思える検診方法を医師と相談しながら決めて、早期発見できるようにすることが何よりも大切だと訴える。

 テキサス州について言えば2017年に定められた州法により、高濃度乳房で必要な場合は民間医療保険でも3Dマンモグラフィによる予防検診費用が全額カバーされるようになった。65歳以上が加入できる連邦政府の高齢者医療保険(メディケア)のほか、その他の州でも、州法により民間医療保険にも3Dマンモグラフィ検診費用の全額カバーを義務付ける動きが広がっている。

日本の状況は?

 日本でも従来のマンモグラフィに加え、超音波検査や3Dマンモグラフィを導入している医療機関は少なくない。日本人女性もやはり4割程度は高濃度乳房だと聞く。

 しかし住民検診に関しては、厚生労働省は昨春、「高濃度乳房と判定された人に、効果があるとして奨めることのできる有効な検査方法がない」ため、受診者に一律に高濃度乳房かどうかを通知するのは時期尚早という考え方を各自治体に伝えている。

 これまで3Dマンついてグラフィの効果については、いくつかの研究が行われてきた。3Dマンモグラフィで乳がん検出率が改善し、リコール率(再検査のための呼び戻し)が下がったという研究結果もある。しかし、米国でも3Dマンモグラフィが乳がんによる死亡を減らすかどうかはまだ研究中であり、結果はでていない。

 公益財団法人東京都予防医学協会でも、3Dマンモグラフィが日本人女性において有効かどうかの研究を2020年3月まで実施中で、参加者を募集しているようだ。

 日本は集団健康診断など、公衆衛生施策が米国よりはるかに充実しているので、健康管理もつい政府をあてにしてしまうが、自分の健康にかかわることは、やはり自分で積極的に知識を得て、自分で決めていくという気持ちを持つことが大切ではないだろうか。日本の女性たちにも、自分の乳がんリスクを把握するとともに、高濃度乳房についてもぜひ、知っておいてほしいと思う。

参考資料

日本乳癌学会 トモシンセシスはマンモグラフィ検診に勧められるか

厚生労働省 住民乳がん検診における「高濃度乳房」について 平成30年3月31日報告

 

米国立がん研究所(NCI)ブログ3Dマンモグラフィと2Dマンモグラフィの比較試験開始の記事(海外がん医療情報リファレンス翻訳)

米国立衛生研究所(NIH) 高濃度乳房に関するQ&A (英語リンク)

トップのマンモグラフィの写真(英語リンク)