「将棋脳」ってどういう脳ですか?将棋で親子コミュニケーション/女流棋士 北尾まどかさんインタビュー

撮影:わたなべりょう 撮影場所:株式会社ねこまど

女流棋士の北尾まどかさんは将棋教室で将棋を教える傍ら、子供にもわかる将棋の入門編「どうぶつしょうぎ」の考案者でもあり、日本国内だけでなく世界各地で将棋の普及に努めています。北尾さんから見た「将棋の魅力」「ビジネスでの活かし方」「将棋脳」「どうぶつしょうぎ」についてお話を伺いました。

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◆「将棋脳」はビジネスにも通じる

片岡:私の世代は父親に習ったり、おじいちゃんと対戦したりと、対局の「実戦」を重ねていくうちに自然と指し手を覚えていきましたが、今ではiPadのアプリやDSでもできます。将棋の世界もデジタルの普及で変わってきましたか?

北尾:ずいぶんと変わってきています。家に将棋盤がなく、パソコンやスマホのアプリで覚えたという人が増えてきました。将棋はインターネットやパソコンと相性がいいです。ゲーム全般に言えるのですが、ネットを繋げばそこに対戦相手がいます。あるいは、コンピューターと対戦できます。画面上の駒は、触れば動かし方を色などで示してくれるので、覚えなくても始めることができます。遊びながら自然に覚えるツールができたのは大きいと思います。

だから、将棋教室に来て、駒の並べ方もよく覚えていないという子でも、指してみたら意外と強かったりするんです。昔は将棋を指す時の手つきで強さが分かったものです。でも今は、マウスやタッチパネルで慣れていて、リアルの駒を並べる手がぎこちなくても、頭自体は「将棋脳」になっている人は多くなっていますね。そういうところが全然違ってきていると思います。

片岡:「将棋脳」って、どういう脳ですか?

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北尾:将棋を指すためには、普段と違った頭の使い方をして、凄く鍛えられます。例えば「先を読む」こと。自分がこうやったら相手はこうやってきて、その先はこうなると見通しを立てること。これはゲーム全般で必要な能力ですが、それが出来れば仕事などでも段取りを組む時など、先のことや周りとの兼ね合いをちゃんと考えて動けるようになるんじゃないかと思います。

◆将棋とは「先読み」と「決断」の繰り返し

片岡:北尾さんご自身が将棋から得た「チカラ」のようなものは何ですか?

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北尾:私が将棋から得たものはとてもたくさんありますが、一番良かったなと思えるのは「決断する」ことです。将棋って「一手しか指せない」んです。例えば、最初の局面は選択肢が30通り。でも、その中の一手しか指せない。だからこそすごく大切に指します。ベターじゃなくてベストの選択をしたい。やりたいことがたくさんあるけど、その中で優先順位をつけて、自分で理由を考えて決めて、それを実行していく。私は、将棋以外のところでもそういう効率を重視する癖がついていると思います。

あと「負けを認める」ということも大事です。将棋は1対1なので、同じ力量の相手とやっていれば5割は負けるわけです。その時に、なんで負けちゃったのかなって、振り返って自分の身に落としてみます。もちろん実生活ではそれ以外のいろんな要素もあります。運の良さがあったり、チームのメンバーがミスしたり。でもその中で自分が今まで最善のことをやってこられたかをシビアに、俯瞰的に見られるようになります。振り返って、そこでもうちょっとこうやっていたら結果が違ったんじゃないか、少なくとも自分のパートでもっとベストなことができたんじゃないかと考えたり、普段から考える。常に先のことを考えながら、一手一手選択していく。将棋は「先読み」と、「決断」の繰り返しです。

そして、結果が出たあとに「見返す」。将棋の場合は「感想戦」という文化があります。終わった後に一局並べかえして、お互い忌憚のない意見を述べ合うんです。ここが良かった、ここが悪かった、どう考えていた、そこの局面から変化があって、別の手を指していたらどうなっていたかということを2人で研究する、場合によっては他の人も加わったりもします。この反省がすごく大事なことなんです。

片岡:「マナー」「集中力」「先を読む」「決断する」「見返す」。いずれもそのままビジネスの成功にも通じますね。

◆将棋は勝ったら100%自分の手柄、負けたらすべて自分の責任。その潔さが好き

片岡:将棋を始めたきっかけはなんですか?

北尾:子供の頃、父に色々なゲームを教わりました。トランプ、オセロ、百人一首…その中に将棋があって、ルールを教わったのが最初です。でも、将棋はちょっと難しすぎて、ルールはわかるけど好きになれずにいたんです。その後、高校生になって、学校で色々なゲームが流行りました。その時に将棋と再会して、これは面白いなと思い、どんどんはまって今に至ります。(笑)

片岡:どこが面白かったんですか?

北尾:うちの高校は内部進学者と外部から入ってくる生徒が半々くらいだったんです。それでコミュニケーションをとるのに、色々なゲームが流行ったんです。その中にたまたま将棋があり、久しぶりだけどやってみようかなと思ってやったら、負けたんです。悔しいじゃないですか。(笑)

私はもともと負けず嫌いなところがあり、ちょっとしてやられた感といいますか、それですごく奥が深いゲームなんだなと、子供の時にわからなかった「難しい面白さ」に惹かれました。

片岡:女の子ってピアノ、バイオリン、フルート、バレエ等、そっち系の習い事が多いですよね。

北尾:私も実は小さいころバイオリンとピアノを習っていました。父はバイオリンのプロにしたかったようです。4歳から14歳までずっと、一日2、3時間の練習で、結構なスパルタでした。中学ぐらいの時にやめたんですが、多分そのころのレッスンで集中力がついたのだと思います。ただ、さほど音楽が性に合っていなかったというか、好きは好きなのですが、評価基準もバイオリンってフワーッとしていますよね。聴いた人が気に入ってくれたらいいけど、そうじゃなければあんまり評価されないというか。その辺の勝ち負けが分かりにくい、もやっとしたところがあんまり好きじゃなかったんです。

将棋は勝ったら100%自分の手柄です。負けたら全部自分の責任。運の要素がなく、勝ち負けがはっきりしています。その「潔さ」が好きで、これは私に合っていると思って、すぐにどっぷりとはまり、一生将棋を指していたい、と思うようになりました。

◆どうぶつしょうぎを通じてもっと将棋の楽しさを広めたい

片岡:北尾さんが考案された「どうぶつしょうぎ」についてお聞かせ下さい。

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北尾:私がルールを考案し、同じく女流棋士の藤田麻衣子さんがイラストを描かれました。将棋は目的がすごく明快です。王様をつかまえれば勝ち。囲碁だったら何目差、という点数の勝負ですけれど、将棋は0対100、勝ち負けしかないんです。ただ、将棋の難しいところって、まず覚えることが多すぎる。駒の名前、動き方、ルールが細かくて大人でも大変じゃないですか。

それと、囲碁の世界だと、普通の対局は19路盤ですが、13とか9、小さい子がやるような5とか6もありますが、そういう簡易的なものが将棋にはなかったので欲しいなと思いました。

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片岡:ルールを作る上で、一番苦労したところはなんですか?

北尾:マス目が9×9の81マスあるところを、なるべくマス目を少なくし、駒数も少なくして、駒の動きも簡単にしてバランス、分量的なものを考慮しました。例えば3×3だと王様は動きようがないんですね。4×4は中心のマスがないからバランスが悪い。左右対称で王様を真ん中に置きたいんですよ。(笑)5×5になるともうだいぶ難しくなってしまって初心者にはちょっと辛いなというのが正直なところで…。

視覚的に子供がかわいいと思うものがいいと思いますし、漢字から離れたかったというのもあります。言語依存があると子供や海外の方には難しくなります。そこを取り払いたいと思って図形にする工夫をしました。さらに藤田さんが、「歩がと金になる」のを「ひよこがニワトリに進化する」という風に、子供向けに分かりやすく、イメージしやすいものを作られたので、それと私が考えたルールが一緒になって子供向けの良いゲームになりました。

将棋の潜在的な需要はあったと思うんです。頭を使うし、礼儀も身につくから子どもにやらせてみたいというお母さんは多いけれど、自分では教えられないし難しい。誰か教えてくれないかしらと思っていたところにどうぶつしょうぎを見て「これなら私にもできる」と思った方も多いと思います。

私はこの素晴らしい「将棋」をできるだけ多くの方に広めていきたいという強い気持ちがあります。そのファーストステップとして、どうぶつしょうぎを広めて、将棋の楽しさを世界の人に知ってほしいと思います。

1月11から「東京ウーマン」で、コラムの新連載が始まりました。将棋の楽しさ、将棋から学んだこと、将棋を通じて見た世界を、皆様にお届けしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

片岡:コラムを楽しみにしています。ありがとうございました。

◆東京ウーマン コラム「将棋で鍛える頭とココロ!」

第一回 2016年は将棋ブーム到来!!

■北尾まどか プロフィール

女流棋士。

1980年1月21日生まれ。東京都目黒区出身。西村一義九段門下。

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幼少のころに父からルールを教わる。高校生の時将棋に再会して夢中になり将棋漬けの毎日を過ごす。約1年でアマ二段となり。20歳で女流棋士2級としてプロデビュー、2008年に初心者向け「どうぶつしょうぎ」のゲームルールを考案した。

2010年に 将棋普及のための会社「株式会社ねこまど」を設立。代表取締役を務める。

多数の教室で講師を務め、海外を含む各所で指導を行う他、テレビ出演や執筆活動など、普及面でも幅広く活動している。

座右の銘は「楽遂(らくつい)」(楽しみをきわめること)。「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに、世界中を飛び回っている。