大雨災害時の事例検証を順次公表 今夏から気象庁が取り組みを開始

台風第19号時の危険度(最大時/土砂災害・浸水)(気象庁事例検証資料より引用)

■ 災害発生前の臨時記者会見

令和元年台風第19号の被害を受けた千曲川流域。特産のりんごにも大きな被害が発生した。(2019年10月20日、長野市で筆者撮影)
令和元年台風第19号の被害を受けた千曲川流域。特産のりんごにも大きな被害が発生した。(2019年10月20日、長野市で筆者撮影)

 昨年(2018年)は西日本、今年(2019年)は東~北日本を中心に、大雨や台風により各地で大きな被害が相次いで発生している。先月(10月)には台風第15号、第19号などの豪雨により大勢の方々が犠牲になる甚大な災害が起こってしまった。心からお悔やみ申し上げるとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げる。

 

 大雨など災害をもたらす気象状況が予想される場合、気象庁は様々な防災気象情報を段階的に発表して、警戒を呼びかけている。さらに、甚大な被害をもたらすおそれがあるような場合には、気象庁本庁や各地の気象台において臨時の記者会見を実施するなどし、より一層の警戒を住民の方々へ促すべく積極的に対応しているところだ。

 筆者は気象予報士になって18年になるが、かつては地震・津波・火山災害はともかく、台風などの気象現象について気象庁が臨時の記者会見を開き、災害が発生する前に、国民に警戒を呼びかけたことなど記憶にはほとんどない。あまりに頻繁に記者会見を開くことになれば、その頻度が防災上本当に適切かどうか見直しが必要だと思うが、気象庁はここ5~10年ほどの間に「いかにして『危機感』を住民に届けられるか」を考え、様々に新たな方法で取り組んでいることを強く感じている。

 

■ 検証事例を順次公表

 そんな中、この夏からは気象庁がホームページ上で、災害時のいわば「振り返り」を掲載するようになった。大雨特別警報が発表された事例などを速報的に検証し、各種の防災気象情報で示された雨量などの予想値、大雨災害の危険度分布などについて、実際の状況と照らし合わせるなどして分析しているのである。これまでに、今年の台風第19号の状況をはじめ、4つの事例が掲載されている。

 

令和元年台風第19号時・予想雨量の検証資料の一部(気象庁ホームページより引用)
令和元年台風第19号時・予想雨量の検証資料の一部(気象庁ホームページより引用)

 この「振り返り」の公表について、初めて事例が掲載された際には、筆者はとても驚きながら目を通した。もちろん、概ね適確に予想されていた事例もあるが、精度よく予想できなかった状況についても言及されているのだ。気象庁が広く公表する資料で、具体的な災害時の状況を個別かつ速報的に、さらには精度よく予想できなかった部分まで含めて検証・公表したものは、筆者はこれまでに知らない。

 気象庁の内部ではきっと以前から必要に応じて「振り返り」を実施していただろうし、予報官など向けの研修テキストでは具体的な事例を挙げて対応状況を示したものはあった。しかし、ホームページのトップページから「お知らせ」として更新情報を掲載するなど、積極的に公表している姿勢は、筆者には気象庁の「改革」だと感じられる。

 

 精度よく予想できなかったことを広く公表するのは、腰が引ける。(※なお、大切なことなので補足しておくが、予報作業に瑕疵や間違い・手抜きがあったというわけではなく、現在の予測技術には限界があり、十分に予想できない場合がある、ということだ。)おそらく、気象庁内でも積極的に公表していくという方針に少なからず異論もあったのではないか(あるいは現在もあるのではないか)と推察する。しかし、それでもこうした「振り返り」を包み隠さず公表していくことは、気象庁のためだけでなく国民全体の防災・減災に資する有用なことだと筆者は確信する。

 

■ 「危機感のバトン」を確実に渡していくために

 というのも、筆者は、住民一人ひとりが適切な防災行動をとるために極めて重要なことは「信頼」だと思っている。防災気象情報の作り手、伝え手、受け手の間で信頼がなければ、エンドユーザーである住民の方々が実際に具体的な防災行動にとりかかることは容易ではない、と感じているからだ。誰だか素性の分からない人に警戒を呼びかけられるよりも、顔見知りの消防団員に「逃げてください」と直接呼びかけられるほうが行動に移しやすいことからも想像できるだろう。

 筆者は「危機感のバトン」と呼んでいるが、情報の作り手が抱いた災害への「危機感」が、リレーのバトンのように、伝え手・受け手と次々に渡されていく過程においては、相互に信頼があるということが非常に重要なのである。信頼がなければ、バトンをうまく手渡しできず落としてしまうかもしれないし、渡ってきたバトンを意図的に捨ててしまうことすらあり得るだろう。

 

検証事例が掲載されているページ。現在は4事例が掲載されている。(気象庁ホームページより引用)
検証事例が掲載されているページ。現在は4事例が掲載されている。(気象庁ホームページより引用)

 「気象庁は予報を出しっぱなしで放置しているのではない」、「検証し、広く公表している」という姿勢をアピールすること自体も重要であるし、当然ながら、検証の内容についてひとりでも多くの方々に理解してもらうことが大切だと思う。特に、予想が外れてしまった場合、「なんで外れたの?」という声を放っておくことなく、疑問にはできるだけ早く、丁寧に適切に解説することが必要ではないだろうか。一般企業におけるクレーム対応の理想ではないが、ここで適切に対処できれば、むしろ逆に信頼感が高まるということもあり得るだろう。なお、我々気象解説者の役割としても、この点は防災・減災につながるとても重要なことだと感じている。

 

 現在の気象予測は、残念ながら万能ではないが、無能でもないはずだ。なぜ精度よく予想できなかったのか。理由は何なのか。これをしっかりと丁寧に説明することで現在の気象予報の「限界」を知ってもらい、それを皆が認めたうえで、では、まだ100点満点ではない気象予測を最大限活用するためには住民一人ひとりがどうしたら良いのか、防災対応を一緒に考えていく。これこそ、いざという時に「危機感のバトン」が適切に確実に伝わっていくために、極めて重要なことのひとつだと筆者には思える。

 

■ 事後の取り組みにも積極的に注目して

 事後の振り返りや検証というのは、ややもすると地味で、なかなか注目を浴びにくい取り組みかもしれない。だからこそ、こうした方策についても(私も含め)気象解説者や報道機関はぜひ積極的に取り上げるべきでないか、とも感じている(その際に、評価・検証の内容に甘さや都合の良い解釈・取り上げ方などがないか、厳しい目を向けつつ臨むことも当然だが)。

 

気象庁は防災情報専用のTwitterアカウントも先月開設した。様々な施策を進めている。(気象庁防災情報Twitterより引用)
気象庁は防災情報専用のTwitterアカウントも先月開設した。様々な施策を進めている。(気象庁防災情報Twitterより引用)

 また、気象庁も、「お知らせ」としてホームページ上に資料をただ掲載するだけでなくさらに積極的に、本庁や地元気象台などで検証結果についての説明会を開催するなど、質疑応答を含め、気象解説者や報道機関、さらには場合によっては住民の方々へも直接お伝えする場を設けてはいかがか、と提案したい。信頼を得るには「顔が見える関係」もとても大切だと感じるからだ。地方気象台では「あなたの町の予報官」という取り組みを通じて、地元自治体の担当者と顔が見える関係を強力に築こうとしている真っただ中である。ぜひとも、気象庁の担当者の方々の声で直接、想いを伝えるようなこともしてほしい、と思う次第である。

 

 ここ数年の筆者の感覚だが、気象庁は今、積極的に「変わろうとしている」。ただ予報を作成・発表するだけでなく、その先の「住民一人ひとりが災害から命を守るためにどうしたら良いか」まで、気象庁ができることを手探りで積極的に進めている所だと感じられてならない。引き続き、気象庁の取り組みに注目していきたい。また、私たちも、より効果的な情報の伝達はどんな手法なのか一緒に考えて気象庁に注文をつけつつ、「危機感のバトン」を上手に受け取れるように自らも変わっていきたいものだ。昨年・今年と立て続けに大規模な気象災害が起こるのを目の当たりにして、筆者はそう強く感じている。

 

<引用文献・参考資料>

 大雨事例等における防災気象情報の精度検証と発表基準の改善 (気象庁ホームページ)