大阪湾台風? 第3室戸台風? 「平成30年台風第21号」はどんな名で後世に残すべきか

平成30年台風第21号。近畿に甚大な被害をもたらした。(ウェザーマップ資料より)

 平成がまもなく終わる。「平成最後」の出水期だった去年(2018年)の梅雨から台風シーズンにかけては、各地で大きな風水害が発生した。

 

 7月上旬に起こった西日本を中心とした豪雨災害では、気象庁から1府10県に「大雨特別警報」が発表されるほどの異常事態となり、死者224名・行方不明者8名の甚大な人的被害をもたらした「平成最悪」の風水害となってしまった。

 

 また、9月上旬に襲来した台風第21号は、大阪湾周辺を中心に猛烈な風による大きな被害を発生させた。関西空港では高潮と高波によって大規模な浸水被害が発生し、対岸と空港とを結ぶ連絡橋には船が衝突。復旧までに長い時間を費やしたことは記憶に新しい。大都市である大阪市内でも暴風が吹き荒れ、私も建物の屋根が吹き飛ばされる場面を実際に目撃した。

 

 被害発生翌日には、自動車が暴風により何度も横転させられてしまった現場や、高潮被害の発生した沿岸施設周辺へ調査のため訪れた。大阪市内でもこのようなことが起こるのか、と台風の恐ろしさを改めて実感させられた大災害だった。

■ 大きな災害時には、気象庁が自然現象の名称を定める

平成30年7月豪雨で、土石流被害が発生した神戸市灘区篠原台。(2018年7月10日・筆者撮影)
平成30年7月豪雨で、土石流被害が発生した神戸市灘区篠原台。(2018年7月10日・筆者撮影)

 去年(2018年)7月の豪雨災害は、気象庁が「平成30年7月豪雨」と名称を定めている(2018年7月9日発表)。なお、従来は、顕著な災害が発生した際、気象庁が災害を起こした自然現象を「命名」していたのだが、この豪雨災害以降は命名とは呼ばず、「名称を定めること」という言い方に変更されている。

 

 また、同じタイミングの2018年7月9日には、名称を定める際の基準や名称の付け方について、各自然現象に応じて、これまでよりも具体的な「ガイドライン」が示されたところである。

 

 このガイドラインの冒頭には、名称を定める理由について、次のように書かれている。

 名称を定めることにより、防災関係機関等による災害発生後の応急・復旧活動の円滑化を図るとともに、当該災害における経験や貴重な教訓を後世に伝承することを期待するものです。

出典:顕著な災害を起こした自然現象の名称(抜粋)

 

 特定の名称を定めることで、

  「災害発生直後は、復旧活動を円滑に進める

  「災害発生からしばらく経った後は、教訓を後世に伝承する

という、主に2つの目的があると言えるわけだ。

 

 では、大阪湾周辺に大きな被害をもたらした前述の台風第21号は、どんな名称が定められているのだろうか。実は、まだ、このガイドラインに基づく名称は定められていない。本稿執筆時点では、「平成30年台風第21号」というのが災害を起こした現象の名称ということになる。

■ 「平成○○年 台風第××号」で、思い出せる?

気象庁が名称を定めた気象現象(一部。気象庁ホームページより引用。)
気象庁が名称を定めた気象現象(一部。気象庁ホームページより引用。)

 実は、気象庁により名称が定められた風水害を遡ってみてみると、近年、豪雨災害の名称決定(過去は命名と呼ばれていたが、そのまま引き継いでいる)は頻繁に行われているが、台風についてはしばらくない。なんと、最も近い時期の台風でも、昭和52年9月に襲来した台風第9号=「沖永良部台風」まで遡るのだ。

 

 平成には、強い台風が襲来しなかったわけではない。

 

 平成3年(1991年)9月下旬に来襲した台風第19号は、暴風により大勢の死者を出したほか、農業関連の被害も深刻だった。

 

 平成16年(2004年)は台風が10個も上陸した年となり、その中でも10月後半に襲来した台風第23号は、西日本中心に水害をもたらした。近畿地方では兵庫県や京都府を流れる円山川・由良川が氾濫し、周辺の地域に大きな被害が発生した台風である。

 

 また、平成23年9月上旬に来襲した台風第12号は、西日本を遅い速度で北上し、特に紀伊半島では大雨が続いて記録的な雨量となり、大規模な土砂災害の発生に至ったのだ。

 さて、ここまで3つの台風を例示して列挙したが、それぞれの災害について読者の皆さんはパッと思い出せるだろうか。当時、現地で被害に遭ったという方々はもちろん思い出されるだろうが、当事者でなかった方々は、すぐには分からないかもしれない。

 

 しかし、この3つの台風は、さらに説明を書き加えれば、「あの台風か!」と誰でも思い出すのではないだろうか。

 

 1つ目の台風は、青森県などで収穫直前のリンゴが落果するなどの大きな被害が出て、いわゆる「リンゴ台風」として経験や教訓が今に伝えられている。

 

 2つ目の台風は、氾濫した川の近くで観光バスが水没し、乗客が屋根に上ってなんとか一晩を明かしたという状況が報じられた、あの台風だ。当時の映像が脳裏によみがえったという読者の方も少なくないだろう。

 

 3つ目の台風は、いわゆる「紀伊半島大水害」をもたらした台風である。紀伊半島の各地の川が、発生した土砂崩れによりせき止められ、「土砂ダム」ができてしまい、下流では決壊時のさらなる災害が懸念されたあの台風災害である。

 

 気象庁としての災害の呼び名は、それぞれ「平成3年台風第19号」、「平成16年台風第23号」、「平成23年台風第12号」である。特別に名称を定めなくてもこれが災害をもたらした現象の名前だ、ということであえて決定していないのかもしれないが、単なる「発生年+台風番号」という数字の羅列では記憶に残りにくいと思う。被害の状況について思い出すよすがとし、教訓を後世に残すための名称とするためには、広く国民の印象には残りにくいのではないかと感じるのだ。

 

 時が経ていくのにしたがって、数字だけの情報からパッと災害を思い出せる人は減っていくだろう。さらに言えば、後年、もし別の同じ番号の台風が襲来した際には、発生年を覚えていないと、「あれ、台風第12号ってどの災害だっけ?」と無用の混同を招くような気もしてならない。

■ 台風についての名称の定め方

 昨年夏の「名称」決定のガイドラインの変更の際、実は、台風についての基準や名称の付け方についても詳述されるようになった。以下の通りである。

(ア)名称を定める基準

 顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上または浸水家屋10,000棟程度以上の家屋被害、相当の人的被害など)が発生し、かつ後世への伝承の観点から特に名称を定める必要があると認められる場合

(イ)名称の付け方

 原則として、「元号年+顕著な被害が起きた地域・河川名+台風」とします。

ここで「顕著な被害が起きた地域・河川名」とは、後世への伝承の観点に着目して最も適した都道府県名、市町村名、地域名、河川名等をいいます。

 

 平成の時代に発生した多くの台風災害について振り返れば、この基準に当てはまる台風は決して少なくないだろう。どの程度遡るかは議論の余地があると思うが、忘却や混同の観点から、私は、その地域で使われている災害の呼び方も参考にしつつ、しっかりと遡って名称を定めたほうが良いのではないかと感じている。

 

※ なお、気象庁も、今回変更されたガイドラインにおいて、それぞれの地域で使われている呼び名についても利用し普及させていく旨を、以下の通り申し添えている。以下の通り。

 地域毎に、地方公共団体等が顕著な災害やそれをもたらした自然現象について独自の名称を通称として用いることがあります(例:7.13新潟豪雨、紀伊半島大水害等)。

 地方公共団体等がこれら地域独自の名称を定めるにあたっては気象庁は可能な限り協力するとともに、関連する資料等を作成する際には当該地域における後世への伝承の観点から当該名称を利用し、普及を図ります。

 

 

■ 「平成30年台風第21号」は、名称をどうする?

平成30年台風第21号の暴風により多数の自動車が横転した。(2018年9月5日・大阪市住之江区にて筆者撮影)
平成30年台風第21号の暴風により多数の自動車が横転した。(2018年9月5日・大阪市住之江区にて筆者撮影)

 では、大阪湾周辺を中心に大きな被害をもたらした「平成30年台風第21号」は、名称を定めるに値する台風だろうか。

 

 この台風による被害は、大阪府を中心に膨大で、一部破損を含めると住家の損壊被害は8万6千棟に達している(消防庁まとめ)。名称を定める基準(ア)では「損壊家屋等1,000棟程度以上」とあり、これを大幅に超えていると判断できる。また、基準の後段に書かれている「後世への伝承の観点」についても、特に名称を定めるべきではないか、と私には思える。

 

 実は、ガイドラインには、台風についてもうひとつ付記事項があり、「台風の名称は翌年の5月までに定めることを原則とし、災害発生後の応急活動の段階では台風番号を用います」と書かれている。本稿執筆時点でその「5月」が翌月まで近づいており、検討がなされているのであれば、議論になるのは(イ)に書かれている「名称の付け方」だろう。

 

 「原則として」と但し書きがあるが、「元号年+顕著な被害が起きた地域・河川名+台風」とするとのこと。その「顕著な被害が起きた地域・河川名」とは、後世への伝承の観点に着目して最も適した都道府県名、市町村名、地域名、河川名等をいいます、とも書かれている。しかし、「最も適した」地名などを選ぶのは容易なことでないだろう。災害をもたらした台風は、総じて悪い印象だ。そこに例えば市町村名を入れるとなれば、その土地のイメージ悪化や風評被害を恐れる声が起こるのは想像に難くない。名称を定める意義について、地元自治体や住民の方々の理解が必須となるに違いない。

■ 私案1:「平成30年大阪湾台風」

平成30年台風第21号の経路図。(気象庁資料(ベストトラック)より。))
平成30年台風第21号の経路図。(気象庁資料(ベストトラック)より。))

 前述の通り、この台風第21号は、暴風・高潮による被害が大阪湾周辺で顕著に発生した。台風が本州に上陸したのは大阪湾の湾奥からやや西にズレた「兵庫県神戸市付近」だが、台風による暴風や高潮は、台風中心が少し西側を北上した際に、被害が特に大きくなりやすい(台風の東側では南風が吹くため。中心付近では気圧は低いものの、台風の眼がある場合は風が弱まる)。

 

 災害対策基本法制定のきっかけとなった「伊勢湾台風(昭和34年台風第15号)」も、上陸地点は和歌山県潮岬の西だが、高潮による甚大な被害が発生したのは東海地方の伊勢湾だった。それで、伊勢湾台風と呼ばれている。この考え方でいくと、今回の台風第21号に「大阪湾台風」の名称を定めるとすれば、それは妥当だと言えるだろう。ガイドラインに書かれている「顕著な被害が起きた地域・河川名」の考え方に沿った名称の定め方となる。

 

■ 私案2:「第3室戸台風」

室戸台風の経路図(室戸台風調査報告(中央気象台)より引用)
室戸台風の経路図(室戸台風調査報告(中央気象台)より引用)

 台風の襲来が予想され、進路の見通しがある程度定まってくると、我々気象技術者は「類似台風」を調べることが多い。類似台風とは、過去に似たような進路や勢力で通過していった台風のことだ。コースや勢力が似ていれば、被害の地域や様相も似たようなことになる場合が多く、予想される進路に類似したコース・勢力だった過去の台風について台風襲来前に調べておき、防災・減災の呼びかけの一手段として利用できるというわけだ。

 

 実は、平成30年台風第21号が接近する前、この台風と似たようなコースを取った過去の「類似台風」として挙げられていたのが「室戸台風(昭和9(1934)年)」や「第2室戸台風(昭和36(1961)年)」である。どちらも四国の室戸岬付近を通って四国東岸を北上し、さらに大阪湾のすぐ西側を北上して若狭湾付近へ進んでいった台風だ。大阪湾では大規模な高潮や暴風の被害が発生し、甚大な被害をもたらした台風で、大阪の3大台風と呼ばれるうちの2つである(もうひとつはジェーン台風)。

 

第2室戸台風の経路図(第2室戸台風報告(大阪管区気象台)より引用。室戸台風・ジェーン台風の経路も併記してある。)
第2室戸台風の経路図(第2室戸台風報告(大阪管区気象台)より引用。室戸台風・ジェーン台風の経路も併記してある。)

 今回の台風第21号は、これと似た進路を取る可能性が次第に高まり、最悪の場合、大阪湾周辺では室戸台風や第2室戸台風の再来のような暴風・高潮の発生が懸念されたのである。私も、自らが解説を担当する関西テレビの報道特別番組などで類似点を挙げて示し、最悪に備えるように最大限の呼びかけを行った。

 

 そして、その心配は不幸にも的中してしまった。第2室戸台風の襲来から57年経ち、その間に堤防や防潮堤、頑丈な建物といった防災インフラの整備が進んだため、室戸台風、第2室戸台風に比べれば被害はある程度縮減できたのだろう。一方で、関西空港における浸水被害や、都心部の高層ビル周辺におけるビル風による暴風の強化の可能性など、57年前には考えられなかった被害が発生した台風でもあった。

 

 また、大阪湾周辺では、第2室戸台風時に記録した値を更新し、観測史上第1位の暴風・高潮を観測した地点もあり、間違いなく、室戸台風や第2室戸台風に匹敵するか、それに次ぐレベルの台風だったといえる。

 

 第2室戸台風について取りまとめた資料の冒頭には、こう書かれている。

 昭和36年台風第18号は、9月18日 気象庁によって第2室戸台風と命名された。

 昭和9年9月21日 室戸岬に上陸し、阪神地方を襲った室戸台風とそのコースが類似し、その規模および強度においても近いものであったからである。

出典:第2室戸台風報告 昭和37年3月 大阪管区気象台

 過去の歴史に残る台風とコースが類似しているのであれば、それに続いた番号を冠して名称を定めるのも、後世に経験や教訓を伝承するうえで有効な手段ではないか、と感じる。ならば、平成30年台風第21号について「第3室戸台風」と名称を定めることもひとつの方法ではないか、と私は思っている。名称を定める際のガイドラインにも、「顕著な被害が起きた地域・河川名」をつけるのは、あくまで「原則として」と書かれているのだ。

 

 なお、室戸台風、第2室戸台風はいずれも四国の室戸岬付近に上陸している。一方、平成30年台風第21号の中心が上陸したのは「徳島県南部」だ。後日の詳細な解析によれば、台風第21号の中心は室戸岬をぎりぎりかすめて東の海の上を北上していくコースだった。大阪湾のやや西側を通過するという部分については室戸台風、第2室戸台風と非常に類似しているが、今回は室戸岬への上陸ではなかったのである。

 

 名称に「室戸」とつけるとなれば「室戸岬に中心が上陸していない」という点を気にする向きもあるかもしれない。しかし、私は、過去の歴史的な台風災害と関連付け、「このコースは大阪付近で非常に危険になる」という教訓を効果的に伝承していくという観点では、「第3室戸台風」と名称を定めることも一案として提案したいと思うのである。

 

■ 災害の経験・教訓を「令和」の時代に受け継いで

 大阪湾周辺では、今も台風第21号の被害の爪痕が残っている。台風の襲来から半年以上経つが、泉州地域に足を運べば、屋根にブルーシートがかけられた住宅をまだよく目にする。大阪市内でも、暴風で倒れた木は撤去されたが切り株が残っていたり、大きな枝が何本も折れて痛々しい姿になっていたりする木が少なくない。一方で、近所の公園では、大きく折れてしまったソメイヨシノが伐採された後に、新たに別のソメイヨシノの若木が植えられ、この春に少ないながらも花を咲かせたものもあった。将来、この桜が立派に成長し、満開の花の下で花見をする際には、「この木が植えられたのは、あの時の台風で前の木が折れてしまったからだなぁ」と思い出すことだろう。

 

 台風など気象災害の記憶・教訓をどのように次の世代、次の時代へ伝えていくのか。そのひとつの手段としての「名称」について、少しでも効果的で意味ある方向へ進むことを、「令和」の時代を目前にして、今、切に願っている。

 

 

【参考文献・引用資料】

・気象庁ホームページ

 ● 今般の豪雨について (気象庁が「平成30年7月豪雨」と名称を定めた)

 ● 顕著な災害を起こした自然現象の名称について (平成30年7月9日)

 ● 気象庁が名称を定めた気象・地震・火山現象一覧

・総務省消防庁ホームページ

 ● 平成30年台風第21号による被害及び消防機関等の対応状況(第9報) (消防庁、平成31年2月12日)

・室戸台風調査報告(中央気象台彙報・第9冊、中央気象台、昭和10年3月)

・第2室戸台風報告(大阪管区異常気象調査報告、大阪管区気象台、昭和37年3月)