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夜間の周知は混乱を招くのか 「特別警報」住民に伝えなかった自治体も

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
特別警報のポスター。気象庁HPより。

台風18号による大雨では、京都府を中心に大規模な河川氾濫・浸水の被害が発生しました。気象台では9月16日05時05分、京都府・滋賀県・福井県のほぼ全域に「大雨特別警報」を発表しましたが、京都府や滋賀県内の一部の自治体では、その情報を自治体が住民に周知しなかった、と報じられています。

自治体には周知措置の「義務」あり

特別警報は市町村が住民への周知の措置をとることが義務化。気象庁HPより。
特別警報は市町村が住民への周知の措置をとることが義務化。気象庁HPより。

8月30日に施行された改正気象業務法では「特別警報」が新設されました。今回は初めて実際の運用がなされたわけですが、気象業務法には、特別警報について、自治体に「周知の措置をとること」を義務付けています。すべての住民に完璧に伝えることは事実上困難であることから、周知の「措置」をとること、となっているのです。特別警報が発表された場合、当該市町村は、防災行政無線・広報車・メールなどできうる限りの手段を使って、特別警報発表の事実を住民に伝達する義務を負うことになっているわけです。

しかし今回、報道によれば「暗い中なので混乱を招くと考えた」「避難勧告・指示を優先した」との理由で、特別警報の周知措置をとらなかった、という自治体があるとのことです。これが事実であれば、気象業務法違反となる可能性があります。

「周知措置の義務」を知らなかったというのであれば、気象庁の説明不足となりますが、分かっていて「確信犯」的に伝えなかったのであれば、その判断が正しいのかしっかりと検証する必要があります。第一義的には「法律違反」であるわけですが、もっと本質的に「暗い中で混乱を招く」のか、「避難勧告・指示を優先」することが必要なのか、深く議論する必要があると思います。

特別警報は「観測情報」的な性格も

大雨特別警報発表基準の例。気象庁HPより。
大雨特別警報発表基準の例。気象庁HPより。

大雨の特別警報は、その地域で数十年に一度の豪雨になっている場合(あるいは、いままさにその状態になる直前の場合)に発表されます。

詳細は過去の記事を参考にしてほしいのですが、2日間(48時間)の降水量を基準のひとつとして発表される場合、

ある程度の広範囲で(府県程度の広がり)、

「50年に一度の大雨」の値に達した地域が現れた場合、

その時点で「大雨警報」がすでに発表されている地域(同一府県内)はすべて、

大雨の「特別警報」に格上げされる

ということになっています。

まだ「50年に一度」レベルに達していない(でも、すでに通常の大雨警報レベルではある)地域も「道連れ」で発表される場合があるのですが、実際に「50年に一度」の大雨にすでになっている地域が広範囲である、というのが大雨特別警報発表時の状況です。ですので、大雨特別警報は予報の一種の扱いではあるものの、「すでに記録的な豪雨になっている地域がある」という点が発表のトリガーである以上、「観測情報」的な意味合いの強い情報である点も、しっかり押さえておく必要があります。

つまり、特別警報が出た場合には

もうすでに記録的な豪雨になっている(または、そういう地域が同一県内にすでにある)」

避難が困難になっている場合も十分にありうるので、命を守るための行動を一人ひとりが考えて、それぞれの現場に応じた最善を尽くすことが大切」(というよりも、もうそれしか出来ない最終段階に入っているおそれがある)

という認識を、自治体の防災担当者も住民一人ひとりも持つ必要があるのです。気象台からのそうした説明が必ずしも足りていなかった、あるいは自治体の防災担当者にも認識が薄かったのではないでしょうか。

本当に「混乱を招く」のか

特別警報パンフレットの表紙。気象庁HPより。
特別警報パンフレットの表紙。気象庁HPより。

すでにそうした「大災害が差し迫った」状態になっているのであれば、その情報は「混乱を招く」として黙っているほうが良いのでしょうか。事前の十分な説明があれば、私はそうは思いません。先ほど書いた「個々人が考えて、命を守る行動を!」という部分もしっかりと付け加えたうえで、危機的状況になっていることを一刻も早く伝えるべきでしょう。観測情報的な性格を帯びている特別警報ですから、現在の仕組みでは「もっと事前に」とか「明るいうちに」とかいう運用は不可能です。「いま、こんな危険な状況になっています」という情報は、時間を問わずに直ちに伝えるべきではないでしょうか。

また、「避難勧告・指示を優先」という話は、これは自治体の対応能力を飽和していたことの裏返しかもしれません。小規模な自治体ではこれまでも防災対応能力の限界が指摘されてきましたが、災害時の超繁忙ななかで「特別警報の伝達」という新たな作業に対応しきれない自治体が存在しうるという可能性についても、しっかりと検討する必要があります。

これから10月にかけてもまだ本格的な台風シーズンが続きます。同じような災害がまた日本のどこかで起こってもおかしくありません。早朝5時過ぎに発表された今回の大雨特別警報、住民への伝達について皆さんはどうお考えになるでしょうか。一人ひとりがわが身の問題と思って、どうか少し考えてみてください。

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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