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日経新聞『どこでも聴ける日経』でボイス業界へ参入 。Voicy社と共同で『もっと日経』の拡張版?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
『もっと日経』紙面を読み取り電子版から音声を1.5倍で再生中 出典:日本経済新聞

KNNポール神田です。

□日本経済新聞社は(2019年)5月29日、音声メディア「Voicy」を運営するVoicyと共同で、「どこでも聴ける日経」をコンセプトにした新しい音声メディアの実験を、夏から始めると発表した。新聞記事を読み上げるだけでなく、「日替わりのパーソナリティがそれぞれの声の個性でみなさんを日経のニュースの世界に引き込む」という。

□「note」の「次の日経を考えるチーム」アカウントで、計画を明らかにした。日経とVoicyは今年1月に業務提携している。

出典:「どこでも聴ける日経」夏に開始へ Voicyと共同で

■日経のメディアの発表が日本経済新聞本誌ではなく『note』であった…

今回の発表がユニークなのが、日本経済新聞本誌ではなく『note』であることだ。『note』とは『ピースオブケイク』が手がける、クリエイターやブロガー向けの課金可能なプラットフォームだ。日本経済新聞は2018年7月30日、ピースオブケイクの第三者割当で3億円出資している。すでに、『COMEMO byNIKKEI』というnote上でのプラットフォームも展開されている。#COMEMOでnoteで投稿された秀逸な記事は日経電子版や本誌に掲載されるというスキームも提供されている。つまり日経の記者が執筆するのではなく一般のnoteのクリエイターやブロガーが書いた記事が ハッシュタグの #COMEMO をつけるだけで『日経』に紹介されるという日経ブランドによる承認欲求を満たせる仕組みになっている。また2019年5月22日から日経電子版からnoteで書く機能も実装された。電子版であれば、読者=執筆者という関係性も成立するようになった。そんな、日経新聞のnote内の『次の日経を考えるチーム』が、『日経、音声メディア始めます』と自ら別媒体でリークしたのだ。

「日経、音声メディア始めます」の声明 出典:note
「日経、音声メディア始めます」の声明 出典:note

■今後の『音声メディア』の市場成長性にかけた 日本経済新聞

日経が提案するのはさらに進化した音声メディアの活用です。単に朝刊や夕刊、新聞や日経電子版の記事を読み上げるだけでなく、日替わりのパーソナリティがそれぞれの声の個性でみなさんを日経のニュースの世界に引き込みます。

https://note.mu/nikkei_jisedai/n/nb1dccdefac92

とあるが、具体的な内容については、まだわからない。準備中ということだ。すでに、音声/ボイス業界はカオスということで、スマートスピーカーなどの普及で、『ラジオ』メタファーから『スマートスピーカー』で聞く日経の音声コンテンツが登場することと期待ができそうだ。

音声・ボイス業界カオスマップ 出典:Media Innovation
音声・ボイス業界カオスマップ 出典:Media Innovation

■『あなたの耳に日経を…』

この『あなたの耳に日経を』の戦略は、非常に正しいと思う。動画ニュースもみるけれども、ウェブのニュースやSNSを見ている時は耳が空いていて、サブスクリプションの音楽をかけていることが多い。しかし、ここに自分の興味のあるジャンルのニュース分野の『耳からの情報取得』というのは非常に有効だと思う。 そこに、『Voicy』の音声テクノロジーを使って、『日経チャンネル』ができるらしい。Voicyの音声プラットフォームの戦略は非常にわかりやすい。パーソナリティーが存在し、そこにスポンサーがパトロンとして参加している。また法人も有料で自社のチャンネルを持つことができるというプラットフォームだ。そう考えると日経という自社の紙媒体電子媒体での音声化ではなく、Voicyというプラットフォーム内に、日経ブランドのパーソナリティーが登場し、紙離れの人たちに、日経のコンテンツを耳で届けるという仕組みが形成される。ビジネスモデルは、すべてのコンテンツにアクセスできる『日経電子版』のサブスクリプションにおとしこむことではないだろうか…。

■意外に便利な『もっと日経』

気になる記事にカメラをかざす 出典:日本経済新聞
気になる記事にカメラをかざす 出典:日本経済新聞

日経新聞電子版と配達の紙版を記事を書くために試しに再開してみたが、アプリやARアプリの『日経AR』でユニークなことができるようになっている。『もっと日経』のアプリは、日本経済新聞本誌の紙面にスマートフォンのカメラをかざして、電子版へジャンプするという機能だ。新聞を読まずに新聞を見ながら、気になる記事をスマートフォンのカメラでかざして、クリッピングするつもりで読むという新たな体験ができる。モノクロの写真も電子版ではカラーになる。さらに音声を読み上げることができる。読むのが大変でも、気になる記事をカメラでかざして保存し、あとから連続して音声で聞くということも可能だ。聞く日経新聞という使い方もできる。ただ、再生スピードが毎回戻ってしまうのは、早聴きスピードの一度設定したら、変更するまではそれを維持してほしい。

電子版へ移動し音声で1.5倍で再生中 出典:日本経済新聞
電子版へ移動し音声で1.5倍で再生中 出典:日本経済新聞
もっと日経の使い方 出典:日本経済新聞
もっと日経の使い方 出典:日本経済新聞

■『日経新聞』の生き残りデジタル戦略

ネットの普及によって、すでに新聞の『紙媒体』での購読という習慣はなくなりつつある。新聞の朝刊に掲載されているニュースのほとんどは昨日のニュースだ。ネットですでに知っていることも多い。日経新聞の株価欄の4ページは。昨日の終値でしかない。ラジオ・テレビ欄の2ページは、EPG(電子番組ガイド)があればいらないページだ。広告面もお金を払ってまで読まされるべきものでもない…。しかしだ…。ネットでは、極端に興味のあるニュースしかタップしなくなった。興味のないジャンルのタブは押しもしない…。スマートフォン登場の10年間でこの傾向はより顕著になった。そう、情報の『偏食化』が進化する。知人関係もSNSでつながっている人たちの事は何年間も会っていなくても手に取るようにわかるようになった。自分の興味のあるニュースとSNS知人によるソーシャルニュースのみで情報が形成されるようになった。『昭和』『平成』とマジョリティーを標榜する『一般大衆』という属性は、細かく細かく分断されている。

そんな時代の新たな新聞社の生き残りとしてのデジタル戦略。たとえ、紙の宅配システムが高騰化したとしても、日経ブランドのコンテンツを、どうやってデリバリーしていくのか…それは文字でも動画でも音声でもいろんな可能性を見せてくれるだろう。広告はARとなり、取材現場はVRになるのかもしれない。また、AIによって読むべき記事を視点移動によって機械学習で記事が配信されることも想定内なのだろう。情報の『偏食化』に対して、バランスよい記事を提供できるのが新聞社の強みだと思った。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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