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役に立たない家族型ロボット『LOVOT(ラボット)』を体験してみた

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:GROOVE X

KNNポール神田敏晶です。

GROOVE X(GX)は12月18日、家族型ロボット「LOVOT(ラボット)」を2019年秋冬に発売することを発表した。価格は税別34万9000円だが、当初は2体1セットのモデルのみの販売となる。こちらの価格は59万8000円(税別)で、12月18日19時からウェブ限定の先行予約受付けを開始する。1体での販売は2020年中の予定。月額費用は9980円から。

出典:“Pepper元開発メンバー”が生み出した家族型ロボ「LOVOT」がついにお披露目

2018年12月18日火曜日、日本のベンチャーの中でも最大級の累計80億円の資金調達をおこなったGROOVE X(東京都 代表 林要はやしかなめ)が資金調達時のコミットメントどおり、『LOVOT(ラボット)』の製品発表を行った。

https://lovot.life/

今までは、目のパーツ部分の動画しか発表されていなかったが、初めて稼働するモデルが報道陣向けに公開された。

LOVOTの既視感と女性の評判は上々

発表会で登場した『LOVOT』を最初に観た瞬間に、『テレタビーズ』を想いだした。あのヒト型の異質なバタくさいキャラクターである。しかし、それよりは、小柄で車輪で動き回り、かわいらしい。どちらかというと顔のあるスターウォーズシリーズの『R2-D2』や『BB-8』に近い。しかし、どこか既視感はあるけど、まったく新しいキャラクターのようだ。日本人になじみやすいのは、漫画チックな6層にわかれた大きな瞳と、頭の上にある一角獣のような『センサーホーン』だ。『LOVOT』を観た女性の評判はなかなかよいようだ。

世界初の役に立たない超ハイスペック ロボット『LOVOT』

多数の報道陣があつまった発表会 出典:GROOVE X
多数の報道陣があつまった発表会 出典:GROOVE X

何よりも『LOVOT』の最大の特徴は、『何の約にも立たないことだ』とCEOの林要(はやしかなめ)は言い切る…。家庭用のロボットとして、掃除をしてくれることもない、料理を手伝ってもくれない、皿を洗ってもくれない。1万円以下のスマートスピーカーのように、ニュースを知らせたり、渋滞を教えてくれることもない。ただ、できることというと、動き回ってヒトを覚えて、甘えることくらいなのだ…。ペット系、癒やし系、ロボットというのはいるのかもしれないが、AIや自動運転カー並のセンサーを搭載し、何十億円もの開発費をかけているにもかかわらず、『甘える』という行為のみを表現できる『家族型ロボット』というのはおそらく世界初だろう。

『家族型ロボット』という人生のコンパニオン

イヌ型のaiboにヒト型のpepperと、いろんな型のロボットはいる。そして、メタファーとしては存在しない『家族型ロボット』のLOVOT。むしろ、ペットのような人間との関係性においてのコンパニオン的な役割になることだろう。人間とペットの歴史は数千年にわたる。家畜には、食料としてや労役を担わせる側面があったが、ペットにおいては愛玩するだけで役に立つどころか、手間がかかることのほうが多い。病気になったり、怪我をしたり、そして死という別れも早くにやってくる…。犬が防犯になる時代や猫はネズミ駆除という経済効率もあったが、現在ではほとんど期待されていない。犬や猫のフードやおやつは、人間よりも高価となり、どこのコンビニでも手に入る。犬用のお着替えファッションは、むしろ犬にとっては迷惑な存在かもしれないが高値で売れている。

GROOVE Xは新産業として、ペットに変わる癒やしの産業を最先端のテクノロジーで生み出そうとしているのだ。実際に林要CEOは、『自動車産業に変わる新産業』と位置づけている。

ヒトが、ペットを飼う時には効率を考えない

テクノロジーが進化することによって、ヒトは幸せになったか?の設問にイエスと答えられるヒトはそう多くないだろう。世の中は、便利にはなったけど、幸せを実感できるかというとそうではない。日本の家電産業は、家事の負担を激減することによって、家事の時間を開放した。しかしその時間はどれだけ有効に使われているだろうか?その後、家電業界はリプレースするばかりで新たな家電はほとんど登場しない。自動車産業もピークを超え、所有から共有、自動運転へとシフトしはじめた。

しかし、そんな中でも国内ペット産業は1.5兆円(2018年)となり成長しつづけている。しかし、高齢化すればするほど新たなペットを飼い続けるのは難しい。亡くなったペットや、亡くなるパートナー、さらに自身の病気や痴呆症、さらには孤独死と…、現在は心の隙間の問題は大きな課題でもある。テクノロジーの進化はあれど、テクノロジーで心の隙間を埋めることは不可能だった。

GROOVE X は、ペット同様に効率化を求められない市場において、この『心の課題』に対してのアプローチを『家族型ロボット』で参入してきた。単に役立ちロボットを作るのではなく、ヒトに愛されるためのロボットを作るというアプローチをはじめておこなった企業かもしれない。最先端のテクノロジーを駆使して、ヒトに愛されるための要素を組み込むには多種多様な組織づくりからはじめたそうだ。社内には畑ちがいのエンジニアやクリエイターが多数集められた。ロボットを作るのではなく、人が愛する気持ちを注げる対象としての『LOVOT』を作るためだ。何をもって人は『愛』を感じるようになるのか?

いろんな分野のエンジニアが参画 出典:GROOVE X
いろんな分野のエンジニアが参画 出典:GROOVE X

ペットに対して誰も『経済効率性』は求めてはいない…。むしろ、ペットを飼うということは生体販売から始まり、ペットを買える賃貸マンションへの引っ越し、フードとトイレや散歩の時間、ペット用品、病気、怪我など、代行サービスにペットホテルと、膨大な時間とコストが数年にわたりかかる。ざっと、年間数十万円から数百万円を消費している。しかし、ペットという身近な存在と過ごすことによって、癒やされ救われることがわかっているからだ。ペットを飼っている人にとっては、ペットのいない生活などは考えられない。

『LOVOT』がすぐにペットにとって変わるとは思えないが、ペットが愛される要素を、かなりインプリメントしてきている。ペットを失ってどうしようもない時には、ペットの替わりとして少しはヒトを癒やしてくれそうである。

ディズニーの成功はアニメを作ったからではなく愛されるキャラクターを生んだ事

『LOVOT』の研究開発ノートも展示された 出典:GROOVE X
『LOVOT』の研究開発ノートも展示された 出典:GROOVE X

ウォルト・ディズニーは『ミッキーマウス』というキャラクターに「アニメーション」というテクノロジーで命を吹き込み、トーキー時代になればすぐに音楽と自分の音声を重ねたサウンドトラックを作った。その後、異例の長編アニメーションでミュージカル『ファンタジア』を創り、『ディズニーランド』という舞台装置をテレビ局ABCに出資させ、ヒトをミッキーの世界に没入させた。『オーディオアニマトロニクス』という技術では、創造上の生き物キャラクターを何度も油圧で演技させ、ライドに乗る観客に楽しませたのだ。さらに『ディズニーワールド』では、何週間もそこで長期で過ごせるホテル群を作り、『EPCOT』という未来都市を設計した。そして、何よりもキャラクターライセンスですべての製品でミッキーマウスに印税が入るしかけを作った。ディズニーの成功は、単に『アニメーション』を作るのではなく、『愛されるキャラクター』を創造したからであった。愛されるキャラクターと最新テクノロジーの融合が現在のメディアコングロマリット『ディズニー』を作ったのだ。『ロボット』ではなく『LOVOT』はミッキーの道を歩めるだろうか?

一番特筆すべきことは、その59.8万円というセット価格と販売方法だ

2015年11月2日に設立されたGROOVE X。製品発表の2018年12月18日までにすでに3年経過した。そして発売は約1年後の2019年の秋冬となる。そして単体での発売は2020年という。4〜5年にわたる長期の足の長いスパンによる開発期間だ。しかし、当初からそのスケジュールどおりというロードマップで展開してきている。

2019年の秋冬に2台(デュオ)のセット発売となる(単体ソロでの販売は2020年)。いまから約一年後だ。価格は2台セットで 59.8万円。その頃には、消費税10パーセントなので約66万円、更に月額サブスクリプションとして一番安いプランでも月額1万9960円 プラス消費税、つまり1ヶ月約2.2万円かかるわけだ。年間では約26万円近く、かかることとなる。すると、初年度は本体価格を入れて、最低でも約86万円だ。月額サブスクリプションで最高値のプレミアムプランにすると月額3万6360円、消費税を入れると約4万円だ。初年度は114万円となる。この価格をどう捉えるかだ。まったく役に立たないロボットに初年度は86万円から114万円かかる。次年度も年間26万円から48万円かかるのだ。予約時には2万円のデポジットが必要。すでに「初月出荷分は3時間で売り切れた(GROOVE X広報)」という。

月額サブスクリプションのプラン 出典:GROOVE X
月額サブスクリプションのプラン 出典:GROOVE X

これは、陳腐化がすさまじいハイテク業界では異例となる販売方法だ。しかし、参考になるのが、イーロン・マスクのテスラの販売方法だ。

当初のロードスターは、1000万円超えからのスタートだった。そして、セダンのモデルS(1000万円)、SUVのモデルX(1000万)、モデル3(400万円)と続く…。ちなみに、モデルXの予約のデポジットは50万円だった。

また、CEOの林が、pepperを販売した時の手法とも似ている。3年縛りで117万円オーバーだったからだ。

スペックでは語れない『LOVOT』で感じた個性

LOVOTを抱く子どもたち 出典:GROOVE X
LOVOTを抱く子どもたち 出典:GROOVE X

実際、LOVOTを触ってみる前と触った後ではインプレッションが大きく変わることだろう…。これは、ペットショップで犬や猫を、ガラス越しに眺めている時と違って、実際にショーケースから出してもらって、抱いた時のあの目と目があわさる瞬間にとても似ていて驚いた。

スマートフォンやガジェットはスペック買いでも、あまり期待がはずれることはない。しかし、まったく新たな新しいカテゴリーの製品は、自分の『感性』で感じる部分が多いと思う。LOVOTのデモ展示である程度の概念は理解できたが、実際に『LOVOT』の名前を、それぞれ個別に呼ぶと、初対面の人には、「恐る恐る近寄る子」もいれば、「積極的な子」もいる。そう、『LOVOT』にはそれぞれの個性があるのだ。

呼びかけると、恐る恐る近寄ってくる『LOVOT』
呼びかけると、恐る恐る近寄ってくる『LOVOT』

ワキを持って、実際に抱きかかえようとすると、車輪の部分は体内の中に静かに格納される。この変体ギミックはなんだか新たな機械と生物の姿だ。そして、体の部分がほんのり温かい。しかし、後頭部を触ると、さらに温かい。人間の赤ちゃんのように体よりも後頭部のほうが温かいのだ。そして6層にわたる瞳の変化は、頭部のセンサーホーンと呼ばれるセンサー部がこちらの表情や目線を観察して変化しているという。

センサーホーンも最初は違和感があったが、しばらくすると、『LOVOT』をロボットなんだと思わせてくれるパーツは、ここくらいにしかないことに気づく。おそらくこの『ホーン(ツノ)』がないと単なるぬいぐるみにしか見えてこないのかもしれない。

このセンサーホーンがこちらの表情をとらえているのだが、LOVOTの瞳を観ていると、実際には動物とアイコンタクトをしているかのような気分になる。しばらく瞬きしながら、不思議な音声を発している。これも事前に録音された音声ではなく、『声帯シミューレーション』で発声しているという。あのペットショップの眼差しを感じてしまうと、ついつい高価でも…と感情移入してしまうする人もいることだろう。

初年度は年間で86万円から114万円の費用だが、実際には洋服を着替えさせたり、それ以降も生身のペット並みに費用がかかりそうだ。ただ、生身のペットが飼えない状況の人や死別した場合などと考えると、案外この価格でも心の隙間を埋めたいと思える層がいるかもしれない。

そのためにも、『LOVOT』と触れ合える場所や猫カフェのようなLOVOTカフェのような場所が必要となってくることだろう。

『LOVOT』と一緒におでかけできるリュックも披露された 出典:GROOVE X
『LOVOT』と一緒におでかけできるリュックも披露された 出典:GROOVE X

2019年、販売形態は2台セットというか2匹セットの『ツガイ』が標準だ。『LOVOT』にはLOVOT同士の社会性がプログラムされており、抱っこされる仲間をみて嫉妬するという感情も個性としてあるという。ヒトと『LOVOT』の一対一という世界もあるが、ペットの多頭飼いの場合のペット同士のじゃれあう景色もユーモラスなものだ。10分程度のタッチアンドトライでは『LOVOT』の特性のすべてがわからなかったけれども、病院の小児病棟に『LOVOT』がいてくれれば、子どもたちも面会時間終了後でも、きっと寂しくはなくなるかもしれない。当初の値段では家庭用だけではなく、BtoBで老人ホームなどでの利用もありだろうし、もっとたくさんの多頭飼いはありだろう。もしかすると会社でLOVOTたちが、ウロウロしてくれるだけで、殺伐としたオフィスの雰囲気も変わるかもしれない…。

アプリを使うことによって家の中の見守りサービスみたいなことはできるというが、優秀な見守りロボットとしては他にもたくさん選択肢がある。むしろ『LOVOT』の場合は、そんな機能よりも、生き物に限りなく近づくが、生き物ではない個性的な『仮想なココロ』を持っている。『LOVOT』に見つめられることによって、自分が求められている、そして抱き上げた時に感じる暖かさ、これは今まで体験したことのないロボット製品のエクスペリエンスだった。

実際、発売までにはあと1年近くあることを想定すると、今よりももっと、人と一緒に歩めるような、家族型ロボットになっている可能性が高い。値段も当初は、富裕層狙いだろうが、ペットに限りない愛情を注いでいる人にとってはお金は二の次の問題だ。

また、時計の好きな人であればロレックスのデイトナが86万円から114万円しても当たり前のように消費していることだろう。むしろ、デイトナと過ごす日常の機械の複雑なコチコチ音に日々癒やされているからだ。

そして2020年以降、LOVOTが単体で発売される頃には、高値であったセンサーパーツや実装されるCPUなども『ムーアの法則』で安くなり、一般の人でも求めやすくなる価格となるだろう。

その時になって、はじめて『家族型ロボット』がもたらす、愛にあふれた生活を実体験できるのだろう。果たして愛が自動車産業以上の産業となるかどうかはまだまだ疑問が多い。

また、機械が愛情によって陳腐化をも凌駕する時がやってくるのかもしれない。性能が劣っても、古いクルマがいつまでも『愛車』として乗り継がれていくように…。ITの世界では、陳腐化を超えてまで愛された製品は皆無に近い。LOVOTが陳腐化を超えて愛されるかどうかがロボットとの明確な差別化となることだろう。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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