「有名ブロガー」を死にまで至らせた匿名性のリスク

hagex氏によるセミナー告知 出典:atnd.org

KNNポール神田です。

福岡市中央区であったIT関係セミナーの男性講師が刺殺された事件で、福岡県警は(2018年6月)25日、同市東区筥松(はこまつ)1丁目の無職、松本英光容疑者(42)を殺人と銃刀法違反の疑いで逮捕し、発表した。松本容疑者は「インターネット上(のやりとり)で恨んでいた」と供述。

2人に直接の面識はないとみられる一方、岡本さんが「Hagex」の名前で書いているブログに、「(松本容疑者とみられる人物が)ネット上で誹謗中傷を繰り返している」と書き込んでいたことから、県警は、ネット上のトラブルが原因とみて調べている。

出典:Hagexさん刺殺、犯行声明か 「低能先生と呼ばれ」

有名ブロガーでもあった方が、突然の怨恨による事件で死を遂げられた…。怨恨といっても、ネット空間上での、しかもハンドルネーム(偽名)での怨恨。しかし、それが本人とヒモづけられたことによって今回の事件は起きた…。

岡本さんは会社員の傍ら、「Hagex-day.info」というブログを「はてなブログ」で運営。ネット上の事件などを記事にまとめて紹介する「ネットウォッチャー」の1人として知られ、ブログは人気を集めていた。

容疑者による犯行声明とみられる投稿が匿名ブログ「はてな匿名ダイアリー」(「増田」とも呼ばれる)に行われており、「俺を『低能先生です』の一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ」「これから近所の交番に自首して俺自身の責任をとってくる」などと書かれていた。

出典:著名ブロガーHagex氏刺殺 「ネット上で恨んでいた」 「増田」に犯行声明か

はてなにおける『増田』の意味?

株式会社はてなの運営するサービスのひとつ「はてな匿名ダイアリー」およびその利用者の俗称。当初は「アノニマスダ」「アノニ増田」などと称されていたが、現在ではさらに省略した「増田」が一般的であるようだ。Anonymous Diary(アノニマスダイアリー)に由来する。

利用者の一部には、匿名であることを悪用する者もいる(はてなに限ったことではないが)。書き込みにははてなアカウントが必要。

http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A2%97%E7%94%B0

Hagex-day.infoというブログ

hagex氏のブログ

http://hagex.hatenadiary.jp/

を見てみると、当日までのHagex氏の活動がよくわかる。いわゆる通常のニュースではない、限られた分野の記事が多い。直近では「名無しさん@おーぷん」からの引用が多数見うけられる。

そして、事件が発生したセミナーの内容の詳細もここに記されていた…。

https://atnd.org/events/97225

そこに行けば本人がいることは確実だった…。

事件当日のセミナー申し込みページ 出典:atnd.org
事件当日のセミナー申し込みページ 出典:atnd.org

日本のインターネット文化を育てた『匿名性』

有名であることのリスク。かつての『有名人』というのはテレビや芸能、スポーツ、書籍や新聞や雑誌、ラジオという非常に限られた希少メディアの中で活躍するほんの一握りの人たちだけであった。

しかし、多メディア化が進み、もはやメディアの王者であった「テレビが見られない時代」となり、ネットそのものもPCよりもスマートフォンで読み書きされる時代へと変遷している。視聴率に反映されにくい子供たちはYouTubeという手のひらの中のテレビで、流行りだけではなく、自分だけにカスタマイズされたチャンネルだけを視聴するようになり、YouTuberの有名人はマス対象ではなくなってきている。その人にとっての有名人である。

インターネットのデビューを1995年として考えれば、もはや23年の歴史。当時18歳の大学生も41歳のおっさんと化している。そして、現在のおっさんたちに深く影響を与えたのが日本独自の匿名掲示板である『2ちゃんねる』であった。タレコミ、業界裏話まで、ありとあらゆる噂レベルの怪情報が、アノニマス(匿名)もしくはハンドル名(ペンネーム)で記載された掲示板だ。裏とりやエビデンスが必須な、マスメディアとのコントラストが色濃く現れ、信憑性のないデマ情報から出所不明だが真相に近い情報までネットならではの情報源として活用され、「2ちゃんねるで話題」という報道の逆転現象もあらわれた。

匿名姓だからこその、自由闊達度と共に信頼できるソースなのかどうかの判断も必要となることで、ある意味、日本のインターネット界の「情報リテラシー」を大きく育てたメディアといっても過言ではないメディアだった。

しかし、SNSの登場により、匿名掲示板は、知人のネットワークの「ソーシャルメディア」へとシフトしていった。その受け皿となったのが、今回のネット上での発端の現場でもある『はてな』であった。松本容疑者はここでの「はてな」アカウントの停止の件でHagex氏に恨みを持ったとされている。

有名ブロガーを死にまで至らせるソーシャルリスク

匿名性の中でも、ハンドルネームやIDといったネット上でのIDは、本人のネット上での存在を知らしめるものである。検索すれば、そのIDでその人の過去の言論はすべて抽出したりトレースすることもできる。いくら「ペルソナ(仮名)」といえでも、何十年も使っているハンドルネームにはネットユーザーならば本名同様の愛着があるはずだ。本名ではできない言動もペルソナならば可能だから、本名以上に使い勝手の良さもあることだろう。

しかし、多少なりとも、ペルソナが有名になると、本名だけでなく、本人とのヒモづけも社会から必要とされる。まったく本人とのヒモづけを拒む人もいるが、それは都合が悪い人である可能性が高い。ペルソナはニーズが高まり有名になればなるほど、ペルソナでいることが難しくなる。

実名制のSNSよりも粘着性が高くなる匿名性

実名制のSNSのひとつの大きな判断基準が、会ったことのある知人であることだ。これは匿名性の掲示板などとの大きな違いである。会えることと、知人になるというこの2つの側面は、時間と空間を共有しないと、達成できないのだ。つまり、地理的な制限と時間的な制約を越えた同士でないと会って知人になれない。つまり、活動範囲に大きく影響を受けている。幼馴染の知人は、自分の都合ではなく親の都合でたまたま近所だっただけであり、小中学校の間は親の影響下の中での気の会う友達だ。また大学、社会を通じても、クラブや職場の、または、趣味を通じた地域の中からの知人であることが多い。

一方、匿名掲示板での集合体の場合は、時間も空間も共有することのない『興味・関心』の領域が限りなく近い属性が集う傾向にある。だからこそ、知人も他人も関係のないほど、自分の『興味・関心』に近いペルソナと出会える。ある意味、時間も空間も共有しない自由度がそこには存在する。

同時にそれは、その『興味・関心』が限られたコミュニティにおいての、自分の評価『レピュテーション』がすべてでもある。自分の存在を指摘される、論破される、バカにされる。ペルソナがそれをする側は簡単だが、された側の痛みは想像を絶する。イジメの構造にも似ている。加害者側の意識は低いのだ。

そして、世の中には多様すぎるほど、怒りの沸点が低い人もいる。そう匿名といえでも、「スルーする力」がない人はうちに感情を閉じ込め、ネガティブな行動へと昇華させてしまうのだ。

『ネット弁慶』という言葉は非常に危険だ…。ネットの中だけの弁慶と揶揄された側はネット以外でも弁慶に無理やりなろうとする。

「ネット弁慶卒業してきた」「足つって自首」IT講師殺害の42歳男 異様な逆恨み犯行声明“全文公開”

https://dot.asahi.com/wa/2018062500059.html

ブログの発言で、まさかの刃傷沙汰にまで及んでしまった今回の事件。まったく、その気がなくても、人を傷つけてしまう危うさを真摯にとらえておきたいと感じた。また、受け手によっては予想外の行動を取ることも…。

最後に、Hagex氏の追悼の意を表す意味でも、氏との関わりのあった方の熱い想いのブログを紹介しておきたい。マスメディアからだけでは見えてこない氏の人柄がよく表されている…合掌。

ezkay.com

http://ezkay.com/archives/3076