ソフトバンクのライドシェア事業でライバルなき世界がやってくる

ライドシェア事業関連マップ 出典:報道資料より筆者作成

KNNポール神田です。

ソフトバンクのライドシェア事業に対する影響力が急拡大している。いや、最大のライバルであるUBERもソフトバンクの影響下になるからだ…。

米ウーバー・テクノロジーズのトラビス・カラニック前最高経営責任者(CEO)は、保有するウーバー株のうち約29%を売却する計画だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

ウーバーの複数の株主は、ソフトバンクグループ率いる投資家グループに同社の価値を480億ドル(約5兆4100億円)と評価する条件で、持ち分のかなりの部分を売却することで合意している。同関係者によれば、この取引でカラニック氏は約14億ドルを手にする見込み。ウーバー株を10%保有する共同創業者のカラニック氏は、持ち分の最大半分を売ることを提案していたが、ウーバーと買い手の合意に盛り込まれた制限のため、売却規模の縮小を余儀なくされたという。

出典:ウーバー創業者カラニック氏、保有株の29%売却へ-関係者

創業者のトラビス・カラニックは、保有株の約29%を売却し、それでもまだ7割は手元に残っている。2017年末にソフトバンクは、UBER株全体の15%、77億ドル(約8700億円)を取得と発表されている。ソフトバンクの出資の狙いはソフトバンクグループの傘下に入れるのではなく、グループシナジーが活かせる関係性としての影響のある出資比率があればよいのだ。

「米ライドシェア(相乗り)最大手、ウーバーテクノロジーズへの大型出資で最終的に合意した」と報じた。ウーバー株全体の15%を77億ドル(約8700億円)で取得し、ライドシェアで世界連合を完成させるとしている。

出典:<東証>ソフトバンクが買い気配 ウーバーに15%出資

690億ドル(約7兆6700億円)を30%下回る価格で株式を買収の予定だったが、690億ドルの評価でウーバーに出資することとなった。

今回の取引ではウーバーの価値を480億ドル(約5兆4200億円)と評価することになる。投資家連合はこのほか、ウーバーに対し、より高い690億ドルの評価に基づき12億5000万ドルを直接出資する。投資家グループはソフトバンク、ドラゴニア・インベストメント・グループ、TPG、テンセント・ホールディングス、セコイア・キャピタルで構成される。

今回の買い付けに応じて既存株主から提供されたのはウーバー株の20%強。今回の取引全体では約90億ドルが投資される。投資家連合はウーバー株全体の約17.5%を所有することになり、そのうちソフトバンクは最大の15%を取得する。ソフトバンクはこれにより、中国とインド、東南アジア、ブラジル、米国のライドシェア(相乗り)業界リーダー5社に出資することになる。ソフトバンクは今回の株式取得でウーバーの主要株主となり、取締役会で2議席を確保する。

出典:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-30/P1R08S6KLVRI01

つまり、世界で70カ国、632都市で事業展開を行っているライドシェア業界の巨人であるUBER株を、ソフトバンクが15%保持(投資家連合であわせて20%)し、影響力を持つこととなるのだ。

もはやライドシェア業界では無敵のソフトバンクのシナジー

ライドシェア事業関連マップ
ライドシェア事業関連マップ

今回の出資関連をチャートにまとめてみると、イメージしやすい。

当初、ソフトバンクグループが、なぜ配車アプリに出資するのか?というぼんやりしたイメージも、囲碁のように世界に点在するUBERのライバル、特に人口の多い国に焦点をしぼり出資を繰り返してきたことによって鮮明になってくる。今までの出資は、すべて巨人UBERに打ち勝つ為の出資のように見えてきた。しかし今回の出資で、ライバルであるはずのUBERに影響を与えることができ、取締役会で2議席を確保することで、ライドシェアの敵はどこの国にもいなくなってしまったのだ。いや、ソフトバンクという大きな敵にライドシェア業界はすべて飲み込まれてしまったといっても過言ではないだろう。巨額の買収話ではなく、筆頭クラスの出資でシナジーを活かしながら影響力を行使できる状況を手に入れてしまったのだ。そして、その資金源とも言えるのが、ソフトバンクビジョンファンドという1000億ドルの財布となった。まさに囲碁や将棋のような詰め方であった。

ライドシェア事業はどうなるのか?

ソフトバンクが、すべてのライドシェア事業を制したように思えても、個々の企業の特色があるのがこのライドシェア事業のユニークさだ。そして、ソフトバンクグループも、出資した企業に対して、影響力は持つが、基本的には支援のための出資であり、支援先の事業の成長性を早める出資で圧倒的な成長スピードが期待される。ライバルがいなくなったということよりも、ライバルの成長性をも、世界のライドシェア企業で共有できるということになるのかもしれない。

筆者のいるクアラルンプールでも、GRABタクシーとUBERが壮絶な争いを展開している。半年前までは、圧倒的にGRABタクシーが便利だったが、混雑時のGRABは料金が跳ね上がり、UBERの方が安くなっている。さらにUBERの広告もたくさん見かけるようになり、待ち時間もGRABとの差がなくなってきている。また、GRABはマーケティングに積極的でポイントでいろいろ体験が得られる。利用するとポイントが貯まるのだ。ドミノピザの試食券と交換できるなど、かつてのグルーポンのように、提供企業から料金が取れ、ヘビーユーザーにも「リワード(報酬ポイント)」として提供できるビジネスモデルへと進化している。

Grabのリワード 出典:Grabアプリ
Grabのリワード 出典:Grabアプリ

コカ・コーラがセブンイレブンでもらえ、エアアジアの飛行機代が3000円ほど割引になるなど、リワードマーケティングがさらに進化している。ライドシェアであれば、目的地に合わせたリワード提供などが可能となり、さらにユーザーの属性データなどは企業の新たなマーケティングとしてもいろんな仮説を検証できそうだ。

ライドシェアのアドバンテージは、ユーザーもドライバーもスマートフォンのアプリを介して、ピックアップポイントと到着地を把握するので、場所の説明もいらないことだ。迎えに来るクルマのナンバーさえ発見できれば良いのだ。

同じイスラム社会でも、サウジアラビアの女性は運転すらできないが、マレーシアでは、「ヒジャブ」という頭を覆う布を巻いたドライバーが増えてきている。話を聞いてみると、家事の合間に働くことができるというライドシェアならではの勤労スタイルが顕在している。ほんの少しの間でも細切れ時間にクルマを利用して働けるという自由を生み出しているからだ。

聴覚障害のドライバー  出典:UBERアプリ
聴覚障害のドライバー 出典:UBERアプリ

また感動したのが、知人が乗ったUBERはなんと、聾唖者(ろうあしゃ)で聴覚障害を持っていたという。最初にその説明が表示されてUBERに乗車するが、何の問題もなく、目的地まで乗車できたという。さすがに楽しい会話はできなかったそうだが、聴覚障害のドライバーでもライドシェアならば働けるという、雇用機会が増えていることが驚愕だ。

日本では、かつての『白タク』のイメージで、素人ドライバーの参入が拒絶されているが、特に東南アジアでは、マナーは、タクシー運転手よりも好感が持てる人の方が圧倒的に多いのだ。それは自動車を自分で所有しているだけでタクシー運転手よりも所得層が高いからだ。そして、「1.目的地を伝えなくてもよい」「2.現金を触らなくても良い」「3.互いに評価できる」。シェアリングエコノミーならではのメリットもある。そして、GRABはタクシー会社にもこのアプリを提供しており、プロのタクシーにも、これらの1~3の要素を提供している。そして、スマートフォンさえあれば、渋滞をさけたルートで、運転手のわかる言語でドライバーを誘導してくれるのだ。

ドライバーのキャリアやプロフィールもわかる 出典:UBERアプリ
ドライバーのキャリアやプロフィールもわかる 出典:UBERアプリ

GRABが進化すれば、UBERのアプリも同様に進化する。UBERでは、運転手の簡単なキャリアからプロフィールや趣味までわかるのだ。単に移動する時間だけでなく、車内でのドライバーとの会話もはずむ…。これだけでも移動時間をレジャーの時間に変えたと思える。

新たなサービスは、常に新たな機会と新たな問題を抱えている。問題があるからということで法整備で、締め出してしまうと、サービスを展開している国との間で大きなギャップを生む。

『ロックフェラーがどうして世界を制覇できたか知っているか』

元ソフトバンク社長室長の嶋聡氏が面白いエピソードを語っている…。

「ロックフェラーは第2次産業革命で大活躍した事業家ですが、いま世界が第3次産業革命の前夜にある中、孫さんは現代のロックフェラーになろうと考えているんです。

10兆円ファンドの投資先を仔細に見ればそれは一目瞭然です。そもそも産業革命とは、『エネルギー』『輸送』『コミュニケーション手段』が大きく転換することで起きるもの。

当時は石炭が石油へ、鉄道が自動車へ、印刷から電話へと転換していく中、ロックフェラーはその石油、自動車、通信の3事業をおさえて大成功した。

孫さんはその手法をまねて、次世代のエネルギー、輸送、コミュニケーションの覇者になろうとしている」

これからEV(電気自動車)時代に突入する中で、自動車は誰でも作れるようになるので、価格競争激化で旨みのないビジネスになる。

一方、すでにコモディティ化したスマホ市場では、大儲けしているのは端末メーカーではなくて、グーグルやアップルなどプラットフォームをおさえた会社。

孫さんは自動車業界も同じ道をたどると見て、そのプラットフォームとなるライドシェア分野の支配を目指している。

出典:元側近たちがいま明かす「孫正義が見ている壮大な景色の正体」

つまり、EV化する自動車産業における、プラットフォーマーは、もはやクルマというハードウェアを作る会社ではなく、GoogleやAppleのようなサービス企業だという。つまり、それはライドシェア業界を制したソフトバンクの今回の功績が限りなく大きくなることを予見する。一番注目すべきポイントは、自社では「ライドシェア事業」を一切何もおこなっていないところにある。むしろ非公開企業への出資という点では、ソフトバンクグループは、「プライベート・エクイティ・ファンド」企業と見たほうが良いだろう。その為の巨額の1,000億ドルのファンドもできた。しかし、プライベート・エクイティ・ファンドは、「企業価値を高めた後に売却」を目的としているが、ソフトバンクのファンドの場合は、グループ企業としての「シナジー」や「系列化」に重きを置いているところがいままでの金融をバックグラウンドに持つファンドとの明確な違いだ。

『エネルギー』『輸送』『コミュニケーション』を制したロックフェラーをトレースしていく意味において、『エネルギー』では、「電気から再生エネルギー」事業をサウジアラビアと協業している。『輸送』は「自動車からライドシェア」で、ほぼコンプリート。そして、『コミュニケーション』では、「電話からIoT」へと現代風に見事に置き換えた戦略をとっている。

日本が取り残されない為に

再生エネルギーで作られた電気で、高度化されたライドシェアによる輸送、IoTとロボットで制御されたコミュニケーションシステム。それらの企業群が日本に限らず、ありとあらゆる世界で動き出そうとしている。いや、むしろ日本は規制が厳しく何もできずに世界に取り残されているような気さえしている。そして、訪れる「シンギュラリティー」の潮流だ。すでに、スマートスピーカーなどによる音声検索などは、大きな可能性を秘めている。クルマの手配も音声だけで簡単にできそうだ。「迎車料金」を取らなくてもだ。到着時間をスケジュールに入れておくだけで、AIロボットやスマートスピーカーが、それに間に合うように勝手にサジェストしてくれるのだ。新業態の可能性を排除すればするほど、これらの組み合わせの進化からますます取り残されてしまう。