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5兆5000億円の『寄付』と言う名の新たな社会投資。ザッカーバーグの新規事業

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
LLC財団を設立し450億ドル分の寄付を発表したザッカーバーグ夫妻(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です!

マーク・ザッカーバーグ夫妻が、保有するfacebook株の99%(現在の時価総額で450億ドル=5兆5300億円)を、LLC(有限責任会社)として、自らが設立する慈善団体に寄付をすると発表した。

会社名は、Chan-Zuckerberg Initiative 「財団」ではなく一般の「会社」になっているところがミソだ。

https://www.facebook.com/chanzuckerberginitiative/

巷では、いろいろとこの手法が物議を醸し出しているようだ…。

このままでは、生まれたばかりの娘に、大変な税金が発生してしまうが、創業者の株式を税金を納付するためにそこまで一気に売却などできない。しかも、その金額が、2兆円以上ときたもんだ。そこで、「世界の教育に役立てるため」とか何とか言って「慈善団体」を設立する。そこで、なんの仕事をしなくてもいいので、ザッカーバーグ氏本人や生まれたばかりの娘を…役員として登録する。すると、5・5兆円は入ることはないが、5・5兆円の基金の「利子分」は自分たちでお小遣いとして自由に動かすことができるようになるというからくりだ。もし預けた銀行の利息や何らかの運用で2%のゲインがあったと仮定しよう。5・5兆円の2%だ。1100億円だ。なんと、生まれたばかりの彼女の手元には、毎年、利息だけで1000億円以上のお金が転がり続けてくるのだ。この利回りが4%だった場合、年間2000億円以上だ。もはや、国でも運営してくれ、の世界である。単純に「世界の教育のための、子供たちのための団体を作ってそこに寄付します」と言われると惑わされがちになるのだが、これはアメリカでは富豪たちが意外と誰でもやっているレベルの「ただの節税対策」だったりする。

出典:Facebook創業者のM・ザッカーバーグ氏の寄付は「いい話」でもなんでもないという現実

非常に面白い視点である。しかし、少し視点を変えてみるとどうだろうか?

ザッカーバーグは以前、子どもたちの教育環境の改善を目的として、ニュージャージー州ニューアークの公立学校に1億ドルを寄付したことがあります。この寄付は自治体も同額を寄付することを条件としたもので、合計で2億ドルもの大金が贈られました。

しかしいざ教育改革を進めようとしても、教員や組合、教育委員長、市長らの足並みが全く揃わず、2億ドルは偉方のコンサルタント料や新しい学校の建設に消えたばかりか、公立学校の閉鎖や子どもたちの学力低下などいった最悪の結果を招きました。

出典:ザッカーバーグ、時価5兆円の寄付は節税対策? 「より目的を達成しやすくするため」と反論

つまり、ザッカーバーグ夫妻としては、単に創業者としてのストックでありあまるほどの資産を運用できる。しかし、その半面、高額所得者の収入の40%もの課税額も半端ない金額となる。その課税された資金の行き先は、ほんの一部の選ばれた議員たちによって運用されているのが現在の税金の使われ方だ。それが、正しく使われているかどうかについては、国民は結果として、何も言及できないのが現在の税制度だ。むしろ、その一部の選ばれた議員たちの運用方法に依存せずに、もっと効率的に税を自分たちで、運用できれば…という方法が今回のLLC一般企業設立ということではないだろうか?慈善団体とはちがい、収支報告義務などが一切ない。一般企業であるため、明確な資金運用やロビー活動なども自由にできる。もちろん、運用益や利息なども発生させることができる。

つまり、ザッカーバーグ夫妻がやりたいことは、社会貢献を「寄付」することによっての「減免」だけではなくく、自ら社会貢献を事業として、ハンドリングしようとしているのではないだろうか?巨額の税金を収めている起業家たちが、進んで資産を寄付しているのは、税金対策と言われがちであるが、その半面、もっとまともな運用を自分たちの目を行き届かせたうえで、行いたいという切実な願いでもあるかもしれない。

世界の資産家が自らの資産の半分以上を慈善活動に寄付する活動「The Giving Pledge」にザッカーバーグは署名し、すでに16億ドル(約1970億円)寄付してきている。

ザッカーバーグ夫妻の署名
ザッカーバーグ夫妻の署名

http://givingpledge.org/

どこの国の税制度も、基本は動かないでじっとしているお金は課税されるというのが原則だ。社会の為に動きまわるお金には、税がかかりにくい。

税金に頼ることなく、富の再分配が可能で社会問題を解決するという新たなビジネスモデルの新規事業をfacebook社の創業者、マーク・ザッカーバーグが発明しようとしていると捉えてみるのも悪くないと思う。事業家が、資産を所有するよりも、社会に運用してくれたほうが、議会によっての再分配で硬直化しているよりはよほどましだとボクは思う。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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