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クロネコメール便は「信書」のドロボウ猫だったのか?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

ヤマト運輸は「クロネコメール便」のサービスを2015年3月末で廃止すると発表した。同サービスは、書籍・雑誌やカタログ、ダイレクトメールなどの「信書以外の文書」を82円または164円で日本全国に送付できるサービスだ。メール便は2013年度には21億件で1,200億円を売り上げた。これはヤマトホールディングスの売上高全体の1割弱にのぼる。代替サービスを提供するとはいえ、同社はこの大事業を諦めることになる。

出典:ヤマト運輸メール便廃止「顧客の容疑者リスク放置できない」

クロネコメール便をご利用いただいているお客様へ

「お客様が知らないうちに信書を送ってしまうリスク」を防ぐために、本年3月31日の受付分をもって、クロネコメール便を廃止いたします。

http://www.kuronekoyamato.co.jp/mail-haishi/index.htmlhttp://www.kuronekoyamato.co.jp/mail-haishi/index.html

え!?履歴書や結婚式の案内状をクロネコメール便で送ると300万円以下の罰金?

ヤマト運輸は、クロネコメール便を「信書以外の文書」と制限してきたが「履歴書」や「見積書」「請求書」「領収書」「契約書」「確定申告書」等が、普通に送られ、それが、「信書」なのに利用され続けてきた事が廃止の原因だ。しかし、まさか「株主総会案内」から「結婚式の案内状」までが誰も「信書」にあたるとは普通は思わないだろう!(怒)

それらを、クロネコメール便で発送したことによって、2009〜2013年の間に郵政法の違反として、8件ものユーザーが警察に取り調べを受けたり、書類送検されたりするケースが発生してしまったからだ。なんと、クロネコメールで請求書や履歴書、結婚式のご案内を出すだけで、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金なのだ!!

ヤマト運輸が「信書」ビジネスを荒らすドロボウ猫だったのではなく、これは郵便法の「信書」の制限こそが、驚愕の「信書」詐欺としかいいようがないほどだ。

郵便法 第4条(事業の独占)(1947年 昭和22年法律第165号)

会社(日本郵便のこと)以外の者は、何人も、他人の「信書( 特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう)」の送達を業としてはならない。

第四条の規定に違反した者は、これを三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する(第七十六条 (事業の独占を乱す罪)

出典:信書の送達についてのお願い:http://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/important/topics091210.html|総務省 信書の送達についてのお願い

そもそも「信書」とは何なのか?

総務省によると、「信書」とは…

特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書と郵便法及び信書便法に規定されている。「特定の受取人」とは、差出人がその意思又は事実の通知を受ける者として特に定めた者です。「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表現し、又は現実に起こりもしくは存在する事柄等の事実を伝えることです。「文書」とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことです。

なんだか、そんなことを言い出すと、すべてのドキュメントは「信書」に当たってしまうではないだろうか?

しかも、それを知らずに送ると、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金とはかなりの重罪扱いだ。なぜ、こんな、68年(1947年)も前の法律に、このネット流通新時代が制限されているのだろうか?

同じ履歴書でも信書と非信書になる謎?
同じ履歴書でも信書と非信書になる謎?

また同じ「履歴書」でも応募時は「信書」扱いになるが、「返送」は「非信書」扱いという同じ物体が行きと返りで意味が変わるのも滑稽すぎる。

また、「信書」という限定はユーザー側が考えれば良いので、「書留」というサービスを利用すればよいのではないだろうか?もしくは、「信書書留」などの新サービスを作り、民間にも参入をうながすべきだろう。

日本郵便の職員は公務員であったから

この法律の裏側には当時の時代背景が色濃く反映されている。戦後の時代、郵便事業は国の事業であり、郵便配達員は「信書」を託す信頼における公務員だった。一方、民間業者は信頼におけない戦後のドタバタからなりあがってきたところばかりである。個人にとって大切な「信書」をそんな民間にまかせてはおけないという時代がこの法律を作らせた経緯がある。

しかし、小泉元首相の郵政民営化によって、この制限ルールが大きく変わった。

郵政民営化法においては…

郵政民営化法(職員の引継ぎ)

第百六十七条公社の解散の際、現に公社の職員である者は、別に辞令を発せられない限り、この法律の施行の時において、承継計画において定めるところに従い、承継会社のいずれかの職員となるものとする。

この法律によって、職員は一般企業の職員であり公務員ではなくなった。

さらに、今や「信書」は日本郵便のアルバイト募集で集められた学生でも配達でき、長年プロで活躍してきたヤマト運輸のドライバーは配達できないという現状である。

さらに日本郵便では2〜3日かかるところが、メール便ならば翌日から2日以内で届く時代だ。

これだけのクロネコメール便の市場が消えてしまうのだ
これだけのクロネコメール便の市場が消えてしまうのだ

この宅配便・小包の取り扱い数のグラフを見るだけでも、クロネコメール便の個人からの撤退は、文書配送の歴史を70年近くも前の世界に後戻りさせるようなものとしか思えない。

クロネコメールの「信書ビジネス」の本当のドロボウネコは、日本郵便側としか思えない。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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