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泣いても笑っても、あと一週間を切った「笑っていいとも!」

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

森田一義アワー 笑っていいとも!

http://www.fujitv.co.jp/iitomo/index.html

がまもなくフィナーレを迎える。1982年(昭和57年)からの放送で、32年もの長寿番組だという。誰がここまでの長寿番組になると予想しただろうか?1980年代の「漫才ブーム」のバラエティ番組の「笑ってる場合ですよ」の後継番組としてスタートしたバラエティだ。

「いいとも青年隊」というオープニングアシスタントには、野々村誠、羽賀研二、久保田篤が登場していた。

この番組が異様だったのは、MCであるタモリさんが自分の名を名乗らないMCだったことだ。当時の番組は、「私、司会を努めます、○○○○です」が常識的だった。オープニングも最初はフルで歌っていたが、それもいつしか歌わない司会者だ(笑)。さらに、各曜日ごとのレギュラー陣が設定されると司会らしいことはせずに、ゲストと一緒のポジションにいる。

唯一、ずっとコーナーの目玉となっていたのは、「テレフォン・ショッキング」であることは間違いがない。当初の「テレフォン・ショッキング」は番組が浸透していないこともあって、「明日、来てくれるかな?」と聞かれても「はい!」という返事だけだったりとか、携帯が普及する前なので、生放送に新幹線が遅れて、笑福亭鶴瓶さんが、途中下車して公衆電話から出演するなどのハプニングも記憶に残っている。

数ヶ月先まで出番が決まっているゲストを相手に「テレフォン・ショッキング」とちっとも「ショッキング」でなさすぎだが、当初のゲストのすべては、突然のアポ取りのように振舞っていた。すると、芸能人って1日前でも、昼間ならばスタジオアルタにこれるのか!とさえ思ってしまったほどだ。

「いいとも」は、1975年に開始された米国のNBCの「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」のインタビューフォーマットによく似ている。ゲストと一対一の生トーク。SNLは週に一度だが、「いいとも!」は、月から金の週5日だ。多彩なゲストを前にしてのインタビューは「いいとも!」のすべてであったといってもいい。他のゲームショウなどは、どうでもいいようなことばかりではなかっただろうか?

そこに人間、森田一義の凄さがある。

1970年代、漫画家の赤塚不二夫宅に漫画家でもないのに、居候してしまう能力や、和田アキ子さんのMC番組「金曜10時!うわさのチャンネル!!」にイグアナの芸で登場し、デタラメ外国語での麻雀芸、中洲産業大学助教授に至るまで、タモリという芸人は、ロック界でいうところのフランク・ザッパのように、唯一無二の存在であった。誰も真似できないし、似て入る人がいないのだ。まさにコメディの中のブルーオーシャン系の芸人だったのだ。

「笑っていいとも!」は、もう何十年と見たことがなかったが、今月は最後ということで、チャンネルをあわせる機会が増えた。良くも悪くも、超マンネリな番組だ。しかし、大事なことに気づかされた。

ここでは、殺伐としたニュースは一切聞こえてこない。どれだけ、世界で大事件が起きていても、いいとも!は関係のない世界だ。

ニュースはせいぜい、天候ネタであったりするくらいだ。情報過多な時代に「笑っていいとも!」は何も情報を与えない。単に時間を消費するだけという役目を果たしてきた。ある意味、テレビのいいとも!を見ている時間は、都会の喧騒を忘れさせるディズニーランドの人造的なおとぎの世界チャンネルなのかもしれない。

それを見事に飽きさせず、自分も飽きることなく、32年間もマンネリズムの極地に挑んできた森田一義さんのお勤めがまもなく終わる。一本分の収録ギャラが200万円。いいとも!だけで月に4,000万円を稼いできた森田一義さんの冠番組が終わるのだ。しかし、番組の中で、あれだけ力の抜けた司会を見る機会はもうないのかもしれないと思うと貴重な存在だ。

むしろ、今後は、「世にも奇妙な物語」のストリーテラーなどであの独特の世界をもっともっと見せてほしいと思う。いっそのこと、あの空気感で、夜のニュース番組などもありではないだろうか?何を考え、どこへ進むのか?時代の寵児から安定のベテランへ。

誰もが知っている国民的タレントの新しい船出がますます気になるばかりだ。

しばらくは、32年間味わうことのなかった、朝とお昼のシャバの空気を目一杯ご堪能してみてください。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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