ドゥテルテ比大統領の「麻薬戦争」の人権侵害 安倍首相の恥ずべき沈黙

今週行われた安倍首相のフィリピン訪問。首相は、数千人にのぼる被害者がでているドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」における人権侵害について、沈黙しました。恥ずべきことです。

安倍首相は2日間のフィリピン訪問中に、日本とフィリピンの関係を称え、農業・インフラなどの分野における政府開発援助(ODA)で、新たなコミットメントを発表しました。一方、薬物使用者更生プログラムの支援を表明した際、過去7カ月間に反麻薬キャンペーンのもと、薬物の売買や使用を疑われた6,000人超が殺害されたことに言及しませんでした。

2016年6月30日の就任以来、法の支配を無視してきたドゥテルテ大統領に対する懸念を、長年の友好国として表明する絶好の機会を手にしながら、安倍首相は沈黙を選んだのです。

フィリピン国家警察の統計によると、警察は昨年7月1日から今年1月10日のあいだに、「薬物に関して疑わしい個人」2,217人を殺害しました。これらの殺害は被疑者たちが「逮捕に抵抗し、警察官を銃撃」したためと警察は説明していますが、 正当防衛を示す証拠は示されていません。警察はまた、昨年7月1日から12月12日にかけて、4,049人の薬物使用者および売人が「身元不明の殺し屋」に殺害されたとしています。一方で、平服の警察官からなる「死の部隊」の暗躍もささやかれています。

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ドゥテルテ大統領は選挙期間中から、犯罪抑止のためなら超法規的な暴力も肯定する発言を繰り返してきました。今やその公約を躊躇なく実行していることを示すのが、この殺害数です。ダバオ市長として22年間の在任期間中、ドゥテルテ大統領は市の「死の部隊」に関与していました。そして、被疑者殺害などの暴力も使いつつ「薬物、犯罪、腐敗問題を就任後3カ月から半年で解決」するとの公約を掲げて大統領選に出馬したのです。

こうした人権侵害への抗議をすべきだったのはもちろんですが、加えて、このような反麻薬対策のあり方は、フィリピン最大の援助国である日本からの援助の継続を危ういものにすると、安倍首相ははっきり示すべきでした。日本政府は2014年度だけでも、フィリピン政府に総額約2億3,800万米ドルの円借款、無償資金協力、技術援助を供与しています。8月にも岸田文雄外相が、マニラ通勤鉄道のインフラを拡大するために24億米ドルの円借款供与を発表しました。こうした経済支援の結果、日本はフィリピン政府に対して強い影響力・レバレッジを有しています。こうしたレバレッジをドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」における人権侵害に抗議するため使うべきだったのです。

これはまさに米政府が用いた戦略でもあります。マニラの米大使館は昨年12月14日、「フィリピンにおける法の支配および市民の自由に対する重大な懸念」を理由に、新たなミレニアム・チャレンジ公社(Millennium Challenge Corporation:MCC)の援助を認めないと発表しました。同公社は、保健、インフラ、エネルギーほかの分野への資金援助を通じて貧困削減に取り組む、米政府の対外援助機関です。「点数クリアにとどまらず、法の支配、適正手続、人権の尊重の実態を伴うコミットメント」がMCCの被援助国決定基準に含まれているとこの声明で指摘し、フィリピン政府による基本的人権への全面的な攻撃を間接的に批判したわけです。また11月にも、米上院議会外交委員会のメンバーであるベン・カーディン上院議員の反対で、米国務省はフィリピン国家警察に対する2万6000丁の軍隊用自動小銃売却を見合わせる決定をしています。カーディン議員は「フィリピンにおける人権侵害の懸念」を理由に、この取引に反対したのです。

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フィリピン国内ではこうした殺人に反対の人びとは困難な立場に置かれています。そうしたなか、同国と近しい関係にある友好国であるからこそ、ドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」に異を唱えるうえで非常に大きな役割を果たすことができます。フィリピンの上院議員のレイラ・デ・リマ氏が、急増する死者数の合法性を検証する問うため8月に開いた上院議会の会合がきっかけとなり、ドゥテルテ大統領ほか政府高官による嫌がらせと威嚇の嵐がフィリピンにふきあれました。また大統領は、国際機関の批判も無視・軽視しています。 昨年8月に国連の人権専門家たちが死者が増え続けている点を批判した際には「ばか」呼ばわりし、国連脱退の可能性もちらつかせました。国際刑事裁判所(ICC)の検察官が10月に、「麻薬戦争」に関連する超法規的殺害が「一般市民に対する広範または組織的な攻撃」として同裁判所の管轄に該当する可能性があると警告した際にも、フィリピンがICCから脱退する可能性をちらつかせました。

そして日本政府は、さらになる事態の悪化もありえると理解する必要があります。ここ数週間ドゥテルテ大統領は、人権活動家や麻薬取引容疑者の弁護士にまで、殺害キャンペーンを拡大すると脅しています。フィリピン外相は昨年の12月14日、「大統領の示した条件に従わないだろう」という理由で、予定されていた国連の超法規的殺害に関する特別報告者アグネス・カラマード氏の公式訪問を中止したと発表しました。その条件の一つはドゥテルテ大統領との「公開討論」への参加で、カラマード氏は「特別報告者の行動規範と一致しない」と述べます。

安倍首相のフィリピン訪問は終わりました。でも日本とフィリピン政府の緊密な関係は続きます。「麻薬戦争」のこの甚大な人的被害が続くなら、フィリピン国家警察への援助、研修プログラム、装備売却などができなくなるという代償を払うことになると、安倍首相はドュテルテ大統領にはっきり伝えるべきです。その他、対象限定制裁もありえるでしょう。日本政府は、殺害が止み責任者のしっかりした責任追及が始まるまで、「いつもどおり」はあり得ないと、明確かつ速やかなメッセージをドゥテルテ大統領に発信すべきなのです。