今更聞けないパレスチナ情勢:何が一体問題なのか?

13才のナイーム君は、海辺のカフェでイスラエル軍の空爆に遭った。

「イスラエルのミサイル攻撃は、海岸にいた少年たちを殺害。明らかに病院とはっきりわかる施設を繰り返し攻撃するなどしている。」

出典:エリック・ゴールドスタイン ヒューマン・ライツ・ウォッチ 中東・北アフリカ局長代理

イスラエル政府は、7月17日にガザ地区への地上戦開始。一連の戦闘による死者が500人を超え(国連人道機関報告)、犠牲者は増え続けていますが、その大半はパレスチナの民間人です。地上作戦を進めるイスラエル軍は、東部への集中攻撃に続いて、南部の町にも激しい砲撃を行うなど軍事作戦を継続させる構えを見せ、さらなる民間人犠牲が懸念されます。イスラエル政府は、民間人の生命を奪い財産を破壊する戦時国際法違反の攻撃を停止すべきです。

●ガザでの現場調査から見えてくるもの

私たち国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(本部 ニューヨーク、世界約90か国で活動)は、イスラエル軍による民間人死傷者がでた8件の攻撃について、目撃者の聞き取りや現場検証などを敢行。イスラエル軍が7月17日にガザ地上侵攻を始める前に行われたこれら8件の攻撃は、戦時国際法(国際人道法、戦争法)に対する違反であることがはっきりしてきました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査・検証して詳細を把握した8件の攻撃は、

  1. ハーン・ユーニス市に近い飲食店「ファン・タイム・ビーチ・カフェ」の攻撃(7月11日)
  2. ブレイジ難民キャンプでの公用車攻撃(7月11日)
  3. ハーン・ユーニス難民キャンプでのアル-ハジさん一家攻撃(7月10日)
  4. アベド-ガフルさん一家攻撃(7月9日)(1-4の詳細はこちら
  5. ガザ市内桟橋近くの小屋攻撃(7月16日)
  6. ワファ・リハビリ病院(高齢麻痺患者が入院)への度重なる攻撃(7月11日から17日のうち3日間)
  7. ラファでのガンナンさん一家攻撃(7月11日)
  8. モスク近くの繁華街への空爆(7月9日)(5-8の4件の詳細はこちら
(c)2014 Deema El Ghoul/Human Rights Watch
(c)2014 Deema El Ghoul/Human Rights Watch

戦時国際法上、民間人や民間人の財産を標的とする攻撃は違法とされており、合法な攻撃といえるためには、特定の軍事目標を狙う必要があります。民間人と戦闘員を区別しない攻撃はもちろん、区別できない状況での攻撃も違法です。住宅など民間施設が合法的な標的となるのは、軍事目的で現に使われている場合に限られるのです。

●なぜバクルさん一家の男の子たち4人が狙われるのか?

例えば、5)ガザ市内桟橋近くの小屋攻撃では7月16日、イスラエルのミサイルがガザ市の桟橋にある小屋に着弾しました。近くで遊んでいたバクルさん一家の男の子たち4人が命を落としました。その直後に着弾したミサイルで、現場から逃れようとしていた漁師1人と子ども3人も負傷。小屋は「確認されたハマスの施設」なので攻撃を行ったものであり、子ども(10歳から13歳)を「逃走する兵士」と誤認して標的にしたというのがイスラエル軍の言い分です。しかし、民間施設は、軍事目的で現に使われている場合しか合法な標的ではありませんが、イスラエル側は、この小屋が軍事目的に使われているといえる理由を示していません。また攻撃を逃れる人がいたからといって、それだけを理由に戦闘員と推定することも許されません。民間人である疑いが残る場合には、その人物を民間人と推定しなければならないのです。

しかも現場の証拠からは、この攻撃がスパイク・ミサイルで行われたことがわかります。スパイク・ミサイルには、発射後もオペレーターが標的を確認できるセンサーがついており、標的が明らかに軍関連ではない場合には途中で軌道修正も可能なのです。なぜ軌道修正は行われなかったのでしょうか。

その他の7件で、ヒューマン・ライツ・ウォッチが戦時国際法違反を結論づけた詳細については、こちらこちらをご覧ください。

● 放置される戦争犯罪

イスラエル軍は、明らかに民間施設(病院など)や民間人とわかるにもかかわらず、攻撃を行っており、戦時国際法に違反します。こうした攻撃が、意図的又は重過失で行われた場合には、責任者たちを戦争犯罪に問うことができます。

また、パレスチナ武装組織が続けているイスラエルの人口密集地域への無差別なロケット攻撃も、イスラエル軍と比べて被害者が格段に少ないとはいえ、戦時国際法違反であるは明白です。

民間人の犠牲者を最小限にするためには、起きてしまった戦争犯罪をしっかり調査して責任者を訴追することが必要なことは言うまでもありません。しかし残念ながら、イスラエル、パレスチナ両政府はともに、過去の戦争犯罪事案について、これを捜査する真剣な取り組みをまったく行っていないのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル軍によるこの10年間の重大な戦時国際法違反行為を、民間人への無差別殺害を中心に多数調査・記録してきました。前回の2008年12月から2009年1月のガザ侵攻では、パレスチナ側の民間人数百人が死亡(多くは違法な空爆・砲撃による犠牲者)し、多くの民間施設が違法に破壊されたことは皆様の記憶に新しいでしょう。ではこの時のガザ侵攻で何人のイスラエルの軍人が訴追されたでしょうか。実はたった4人のみ。その中で最も重い刑を受けたのは、クレジットカード窃盗容疑で有罪となった軍人で、7ヶ月半の刑を言い渡されただけでした。過去のお粗末な状況をみれば、今回犯される残虐な戦争犯罪についても処罰はなしでは…と懸念されます。

つまり、これ以上の残虐行為を防ぐためにも、イスラエル・パレスチナ両政府の自発的行動を待つことはできないことは明白です。パレスチナ暫定政権もイスラエル政府も国際刑事裁判所(ICC、在オランダ・ハーグ)の裁判権を要請すべきなのです。

●国際社会がとるべき行動

また、国際社会も迅速に行動をとるべきです。まず、イスラエル政府やパレスチナ政府に武器を供給している同盟国は、戦時国際法に違反する使用が確認されていたり、あるいはその十分な疑いがある武器については、一切の移送を停止すべきと言えます。さらには、日本を含む世界各国は、国連人権高等弁務官事務所が公平な調査を目的とする現地調査団を結成するよう支持すべきです。国連調査団は、紛争の両当事者による戦時国際法違反について早急に調査を行い結果を公表するとともに、紛争の全当事者はもちろん国連に対しても、とるべき行動を勧告すべきです。

そして、米国。パレスチナ政府に対して、ICCに訴え出ないようにと圧力をかけるのをやめるべきです。国際社会において「法の支配」を掲げ、ICCを一貫して支持してきた日本政府も、戦争犯罪の訴追に向けて強いメッセージを打ち出してほしいと思います。