モノやコトの価値は売り手が決めるのではなく、“ファン”の熱量に委ねる。つまり、買い手の言い値(いいね!)払いだ。クラウドファンディングに代表される応援消費の進化形とも言えるそんな仕組みが、成功例を生んでいる。

 仕組みを作ったのは、福岡市のベンチャー企業「FLAG」。一見するとホームページなのだが、その中にはこれまでにない仕組みがある。

 それは、ミュージシャンやクリエイターの作品、グッズ、ファンクラブの会費など、売りたいモノ、コトの価格に「〇〇円~」と書いてあること。この「~」の部分をファンが自分で決めて購入するのだ。

 売り手が決めた最低価格「〇〇円」の横にある「+」をクリックすると、ファンはいくらでも価格を上乗せできる。極論すれば、最低価格がゼロ円なら完全にファンが価格を決めることになる。

FLAGを使って制作した「EAST LAND BEATS」のサイト。画面下には「想いや気持ちをプラスして応援しよう!」と書かれており、価格を「+」できる
FLAGを使って制作した「EAST LAND BEATS」のサイト。画面下には「想いや気持ちをプラスして応援しよう!」と書かれており、価格を「+」できる

支える仕組みに高まる「期待」

 代表取締役の貞光賢一さん(41)は東京の音楽業界に身を置いた経験から、実力があってコアなファンがいても、なかなか「飯が食えない」ミュージシャンを数多く見てきた。

 だが、待てよ、と考えた。そもそも音楽や芸術に決まった価格はない。決めているのは売り手側の業界だ。ファンの熱意をファン自らが価格に表せる仕組みがあったら、ミュージシャンを支えてくれるのではないか、と。

 独立して2017年から開発を始め、レコード会社やプロダクションなどにプレゼンして回った。作者とファンが直接つながる仕組みだけに、嫌な顔をされるのではないかと思ったが、意外なことに反応は良かった。

 CDが売れない時代。業界も新たな収益源を求めていたのだった。そこにコロナ禍が襲ってきた。思うようにライブもできない中で、ミュージシャンを支える仕組みへの期待が高まっているのを感じた。

FLAGを立ち上げた貞光賢一さん(筆者撮影)
FLAGを立ち上げた貞光賢一さん(筆者撮影)

 そこで社名と同じ「FLAG」というプラットフォームサービスを作った。「オンライン上にクリエイターが自分だけの旗を立てる」という意味で名付けた。動画や画像、スケジュールやニュースの発信、ファンが参加できるコミュニティー、オンラインショップなどが一括管理できる。

 サービスへの加入は無料で、利用者は売り上げの10%を利用料として納める方式。2021年9月にスタートし、22年6月の時点で利用者は個人、企業合わせて600件を超え、広がりを見せている。

「熱意」をプラスオンするファンも

 東京・千葉に拠点を置く男女3人組のボーカルユニット「EAST LAND BEATS」は21年10月からサービスを利用している。所属事務所を離れ、フリーとして活動を始めるのにあたって、使い勝手の良さからFLAGを選んだという。

ファンの熱意に感謝して活動する「EAST LAND BEATS」の3人。左からNORi、YUKINA、Jays(本人提供)
ファンの熱意に感謝して活動する「EAST LAND BEATS」の3人。左からNORi、YUKINA、Jays(本人提供)

 今、主に活動を支えてくれているのは、ファンクラブとして始めたサブスクリプションサービスだ。用意したのは月額1000円、3000円、5000円の3コース。メンバーとオンラインで話ができたり、スタッフ体験ができたり、ライブの最前列を確保できたりと、値段ごとに特典を考えた。

 所属していた事務所が運営していたファンクラブの値段よりも高く設定したため、不安もあった。しかし、スタートしたら5000円コースへの入会がほとんど。しかも1000円、2000円と「熱意」をプラスしてくれる人もいる。

 販売グッズにプラスオンしてくれるファンもいて、3人の生活費は十分捻出できているという。リーダーのNORi(27)は「本当にありがたい。メンバーでできる限りの知恵を絞って、ファンの方たちへの恩返しを考えていきたい」と話す。

 ミュージシャン以外にも、イラストレーター、画家などのクリエイターを中心に利用者は広がっている。オークション形式での作品販売も可能で、予想をはるかに上回る額での落札もあるという。

 自分の熱意を示せることでファンは納得感が持てて、クリエイターはファンの存在を感じながら、その道で生きていける。そんな世界を作りたいという貞光さんの思いは、着実に受け入れられつつあるようだ。

FLAGの公式サイトはこちら

■「EAST LAND BEATS」は、親元を離れた若者の気持ちを歌う新曲「親ゆずり」が好評。