「花あわれ せめてはあと二旬(じゅん) ついの開花をゆるし給(たま)え」。37年前、住民が詠んだ短歌をきっかけに、8本の桜は伐採を免れた。福岡市に伝わるこの実話を基にした新作能「桧原(ひばる)桜」が上演される。

 1984年3月、福岡市南区桧原にある樹齢50年のソメイヨシノ9本が、道路拡幅工事のため伐採されることになった。1本が伐採された翌日、まだ残っている桜に、短歌を添えて市長に助命を嘆願する色紙がくくりつけられていた。

 その話が報道されると、多くの短歌が桜の枝に下げられるようになり、その中にはこの歌もあった。

 「桜花(はな)惜しむ 大和心(やまとごころ)の うるわしや とわに匂わん 花の心は」

 後になってそれは当時の進藤一馬市長の返歌だったことがわかった。伐採計画は変更されて8本の桜は残り、今は「桧原桜公園」として整備されている。進藤市長は「花守市長」と呼ばれるようになった。

新作能「桧原桜」より(白坂保行さん提供)
新作能「桧原桜」より(白坂保行さん提供)

 この話を能作品として語り継ごうと作られたのが新作能「桧原桜」。九州大学の学生の発案をもとに、福岡市在住の能楽師、久貫弘能さん(宝生流シテ方)が原作を書き、夫の白坂保行さん(高安流大鼓方)が演出・脚本を手掛けた。

 桜を愛する歌人、大隈言道に若い女が桧原桜の物語を話し、桜の精や花守とともに舞い遊ぶ、というストーリー。桜の精として能を学んでいる地元の小中学生4人も出演する。

 久貫さんは「お互い見ず知らずの人たちが、花を守る心を短歌でつないでいった情感を大事にしていきたい」と話した。市は来年度以降、桧原桜公園を約3倍に拡張する計画を進めている。

■新作能「桧原桜」

12月11日午後1時開演、福岡市天神のアクロス福岡イベントホール。全席指定、一般3000円、中学生以下は半額。チケットぴあ(Pコード507-882)などで発売中。問い合わせは大濠公園能楽堂=092(715)2155。