福岡発の新世代バンドとして注目を集める「yonawo」。8月11日リリースの2ndアルバム「遙かいま」は、混沌とするこの世界で揺らぐ生命への慈愛にあふれている。その世界観を探るため、メンバーが拠点とする福岡市内のスタジオを訪ねた。

 2019年11月、Atlantic Japanからメジャーデビューしたyonawo。メンバーは荒谷翔大(Vo.)、斉藤雄哉(Gt.)、野元喬文(Dr.)、田中慧(Ba.)の4人で、全員23歳。

 昨年11月には1stアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース。福岡在住のまま活動し、今年はNHK「シブヤノオト」やテレビ朝日「ミュージックステーション」への出演も果たした注目株だ。

 その魅力は、ソウル、ブルース、ジャズなどさまざまな音楽の要素を複合しながら作り上げた、心地良い浮遊感のある独特なサウンドにある。そして、現代の人々が抱える孤独感に寄り添う詞が、一筋の光を照らし出す。

 「遙かいま」は12曲を収録。全体を聴いて気づくのは、対極にある価値観を組み合わせた言葉が多用されていることだ。例えば「絶望も命の瞬き」(闇燦々)、「華麗な哀れなるダンサー」(浪漫)、「彼は金持ち貧しい人よ」(sofu)、「綺麗に泣かないで」(哀してる)…。

対極にあるものの「心地良さ」

 「遙か」と「いま」をつなげたアルバムタイトルは、その象徴なのだろう。メンバーがそろった福岡市内のスタジオで、詞曲ともにほとんどを手掛けた荒谷に尋ねると「居心地の良い表現の場所を探したら、対極にあるものの心地良さにたどり着いた」と言う。

 世の中は1と0だけではない。生と死だけではない。アルバム全編を通して聴いてみると、生と死の間にあるもの、あるいはそれらを含んだすべてのものを感じられることが「生きている」ということなのだ、それでいいんだと歌っているように思える。

 対極にある言葉の狭間にある「揺らぎ」を聴き手が自然と感じられ、自分事として自由に想像することができる。だから聴き手にとっても「心地良い」のだ。

 シングルで先行配信された「哀(あい)してる」には、荒谷の祈りが込められている。

 「器用なあんたが 不器用にしくしく 綺麗に泣かないで」

 愛しい人への呼びかけに始まり、「どうか私の手を引いて」と励まし、「あいしてる」「いかないで」と繰り返す。

「哀してる」は愛しさ、空しさ、苦しさ

 荒谷は「哀してる」という言葉に「愛しさ、空しさ、苦しさ」という意味を込めた。ポジティブな「愛」だけではなく、マイナスも共存する感情を表したかったという。

 愛には苦しみもつきまとう。でも、それも含めて「哀」なのだ。それを「より普遍的な価値観として共有」したい、というのが荒谷の提示したかったことだ。

 そして、最後に「いきていて」を8回繰り返す。オンラインでつながった世界や、突如として立ちはだかった疫病による生き苦しさは、直接的な表現としては出てこない。

 しかし、荒谷の意識下にそれらのことが蓄積され、「哀」という言葉を生み出したのではないだろうか。それはもはや「慈愛」に近い。

メンバーが拠点としている福岡市内のスタジオで。左から野元喬文、田中慧、斉藤雄哉、荒谷翔大(筆者撮影)
メンバーが拠点としている福岡市内のスタジオで。左から野元喬文、田中慧、斉藤雄哉、荒谷翔大(筆者撮影)

 メンバーの繊細な演奏が、そうした荒谷の世界観を支える。

 ベースの田中は「メッセージ性の強い言葉を伝えるために、あえて抑え気味にした」。ドラムの野元は「半日かけて音色を決めたこともある」と明かす。ギターの斉藤も「納得いくまでスタジオに一人で夜中までこもった」と言う。そんな音の作りは特に「sofu」や「恋文」に、はっきり表れている。

 アルバムには、いくつか楽しめる仕掛けも施されていて、「夢幻」とそれに続く「恋文」は対を成している。どちらも英詞と日本語詞で作られているが、「夢幻」の日本語詞が「恋文」で英詞になっていて、しかもニュアンスが微妙に違う。また、その逆も成り立っているという不思議な関係だ。

リフレインする、まるで呪文

 リフレインする歌詞も多く、まるで呪文のように思える。「恋文」ではこんな風だ。

 「貴方の何かじゃない 私の何かじゃない 私は私じゃないわけない 貴方は私じゃないわけない」

 ここでも、貴方と私という対極の関係が、実はそうではないのではないかと考えさせられてしまう。「夢幻」の1曲前に収録されている「愛し私」には「私を宿した貴方に唄う」というフレーズもある。肉体という物理的なものではなく、互いの存在の中に互いがいるという精神的な結びつきを感じさせる。

 今回は「哀してる」を冨田恵一、「闇燦々」を亀田誠治がプロデュース。「哀してる」には印象的なストリングスが入ってドラマチックに仕上がり、「闇燦々」にはグルーヴ感のあるダンサブルな魅力が加わっている。

 CDという「製品」ではなく、サブスクリプションサービスで聴くことが多くなり、アルバムという概念が薄れた時代。「遙かいま」は12曲によってメッセージが完結する、稀に見る意欲作と言っていいだろう。ぜひ通して聴いてほしい。

8月11日リリースの「遙かいま」ジャケット(所属事務所提供)
8月11日リリースの「遙かいま」ジャケット(所属事務所提供)

「遙かいま」

01.ごきげんよう さようなら

02.闇燦々

03.The Buzz Café

04.浪漫

05.愛し私

06.夢幻

07.恋文

08.はっぴいめりいくりすます-at the haruyoshi/Take5

09.sofu

10.beautiful Day to Die

11.哀してる

12.美しい人

 yonawoは、8月22日開催予定のフジロックフェスティバル2021(ホワイトステージ)に出演が決定。8月29日にはNHK福岡放送局のオンライン公開収録番組「六本松ベース」に出演予定。10月2日の名古屋を皮切りに12月2日の東京まで、全国7都市でのワンマンツアー開催を発表している。

 公式ホームページはこちら