自然の「はたらき」とは? おうち時間に読む小説「炭酸ボーイ」 聖域を侵す愚かさを知る

自然を感じる小説「炭酸ボーイ」(筆者撮影)

 私が暮らす福岡でも3度目の緊急事態宣言が発出された。不自由を強要されることへのストレスを感じながら、大型連休中に読んだ小説「炭酸ボーイ」(吉村喜彦著・角川文庫)の一節を思い起こす。「風も、神さまも、目には見えん」「でもね、そこには『はたらき』というのがあるさ」。今回のパンデミックも、この「はたらき」なのかもしれない。

 「炭酸ボーイ」は沖縄・宮古島に湧きだした天然炭酸水をめぐり、神宿る自然豊かな島を観光開発しようとする企業と、徒手空拳で立ち向かう主人公・水神涼太たちの姿を描く。

 天然炭酸水の商品化に向けて宣伝広報を担った涼太たちの事務所は「ミヤコ炭酸水」をヒット商品に成長させる。しかし、それを利用しようと、販売会社のグループ企業が採水地近くのリゾート開発を計画。採水地は村人たちが守り続けてきた神さまの聖域だった。賛否両論が渦巻く村で、開発企業は村人たちを金で懐柔しようと暗躍するが……。

 冒頭の言葉は、村で水の神さまを守ってきたオバアが、涼太に語る。

 「ほんとうに大切なものは、心の目で見ないと、見えんのさ。見えるものだけを追いかけていくと、小さな目先の利益にとらわれて、大きな幸せを失ってしまうよ」

 大きな幸せの意味を問う涼太に、オバアはこう言う。

 「みんなの幸せさ。宇宙や自然とつながる幸せだよ。食べものや飲みものだって、ホンモノは一瞬で消えるさ。いつまでも味わいが舌に残っているようなのは、まだまださ。ほんとうにおいしいものは、さっと形がなくなって消えていく。でも、心のなかに鮮やかな記憶として残るよ。その思い出は、なにかのときに、ふっとよみがえってくるさ」

宮古島を舞台にした小説「炭酸ボーイ」(筆者撮影)
宮古島を舞台にした小説「炭酸ボーイ」(筆者撮影)

 人間が免疫を持たないウイルスは、人間が足を踏み入れて来なかった奥地から、動物を媒介してやってくることが多い。動物たちは乱開発で住み慣れた土地を追い出された者たちかもしれない。長い目で見れば地球の「みんな」と共存する方法を考えていくことが必要だと、誰しも思っているのではないだろうか。

 小説には新型コロナウイルスの話は一切出てこない。ただ、勝手な推測だが、今年4月25日の出版なので、著者の考え方にも何らか影響しているに違いない。きっと著者は、オバアの語りを通して「大きな幸せ」は、聖域を侵す愚かさを知ることから始まるのだと言いたかったのだ、と思うのだ。