逆境をバネにエンターテインメントは進化する ”お祭り都市”福岡市の「特異な」支援策とは

福岡市の中心地・天神で市が試行したストリートライブ(撮影・三笘真理子)

 コロナ禍で苦境に立つ音楽や演劇などのエンターテインメントを支えようと、福岡市が支援に力を入れている。インターネット配信機材の整備に始まり、動画制作、ストリートライブ、そして配信とライブの融合へと、段階を踏んだ独自の支援策を打ち出してきた。総予算はこの半年で約2億円。逆境をバネにウィズコロナ時代の興行への進化を後押しするのが狙いだ。

 初動は早かった。国の緊急事態宣言が出されて1カ月もたたない5月1日、支援策の第一弾として、無観客での配信を行う事業者にカメラやパソコンなどを整備する経費(上限50万円)を支給。応募したライブハウスや劇場、貸しスタジオなど151件が機材を導入した。

福岡市の支援で配信機材を導入したスタジオ(筆者撮影)
福岡市の支援で配信機材を導入したスタジオ(筆者撮影)

 6月になると、アーティストが出演し、配信する動画作品への支援(上限50万円)をスタートさせた。音楽、パフォーマンス、ダンス、演劇、伝統芸能など231件の申請があり、176件を承認。担当する市経済観光文化局コンテンツ振興課が目標にしていた100件の倍以上となり、中村大志課長は「エンターテインメントの土壌の豊かさを思い知らされた」という。

 市は、配信設備を導入した施設のマップや、制作された動画を視聴できるサイト「FUKUOKA STAGE」も制作。経済的な支援だけでなく、成果物を拡散するプロモーションまで実行するところに、行政の本気度がうかがえる。

 支援を受けた側も前向きだ。劇団ショーマンシップの仲谷一志座長は「演劇は劇場で見てこそのものだと思っていたが、配信してみると新しいお客さんも見てくれるようになった。スタッフも技術を取得でき、新たな一歩が踏み出せた」と評価している。

 

ストリートライブも実現へ

 全国的な感染状況が落ち着き、プロ野球など大規模イベントの開催条件が緩和されたことを受け、市は次の手を打った。それが「まちなかパフォーマンス応援事業FUKUOKA STREET LIVE」。活動の場を失ったプロのアーティストが事前に登録すれば、決められた場所でのストリートライブができるようにする制度だ。

福岡市が試行したストリートライブ(撮影・三笘真理子)
福岡市が試行したストリートライブ(撮影・三笘真理子)

 担当する市経済観光文化局文化振興課の中牟田はと子課長は「アーティストの皆さんから、活動の基本であるライブの場が欲しいという話を多く聞いて、何とか実現したいと考えた」と話す。

 活動場所は今のところ市役所西側ふれあい広場、市美術館アプローチ広場、市動植物園のほか天神エルガーラ・パサージュ広場とキャナルシティ博多サンプラザステージ。商業施設などと折衝して今後も増やしていく方針だ。こうした仕組みは東京、名古屋などにあるが、コロナ対策として始めた都市は全国にもないという。

 ただ、ライブでの投げ銭は受け取れるが、CDやグッズの販売は商業行為と受け取られるため、どの都市でもやっていない。中牟田課長は「今年度やってみて課題を洗い出し、次年度につなげたい」と先を見据えている。

 もうひとつは、観客を入れ、配信もする「ハイブリッド型」公演への支援。消毒液やサーモグラフィーの導入費、配信オペレーターの経費などに上限20万円を支給する。「ウィズコロナの時代に主流になるかもしれない」(中牟田課長)手法を後押ししたい考えだ。こうした支援は全国にも例がないという。

福岡市のプロ演奏家たちが配信した舞台。まだ無観客だった(筆者撮影)
福岡市のプロ演奏家たちが配信した舞台。まだ無観客だった(筆者撮影)

 

大舞台「マリンメッセ」を無料開放

 さらに、アーティストの夢の大舞台となっている「マリンメッセ福岡」を無料で開放するイベントを企画し、出演者を募集。12月19、20両日に、それぞれ10組程度が舞台に立つ。感染対策をした上で、観客も定員(1万席)の半数程度を無料で入場させる予定だ。

 一連の施策は、市の担当者たちが「手探り」で練り上げてきた。中村課長は「山ほどアイデアを出し、タイミングを計りながらやってきた」と苦労を明かす。しかし、その過程でアーティストや事業者の実情を知ったことが、今後の「一番の財産になる」と言う。

 小売、宿泊、飲食業など第3次産業の市内総生産が9割を占める商業都市・福岡は、博多どんたく、博多祇園山笠に象徴される”お祭り都市”。週末ごとに五つのミュージックフェスが開かれるミュージックマンス(9月)は35億円の経済効果(福岡市試算)を生み、エンターテインメントは文化だけでなく集客の面でも欠かせない要素となっている。冬に向かい、感染の広がりが見通せない今、厳しい状況は続くが、耐え忍んで努力した成果が花咲く日が来ると信じたい。