「音楽はね、薬よりいいんです。点滴より効くんだよ」南こうせつ、ツアー再開への苦悩と希望を激白

ツアー再開について電話インタビューに答える南こうせつさん(所属事務所提供)

 コロナ禍で音楽活動を自粛してきたフォークシンガーの南こうせつさん(71)=大分県杵築市在住=が、9月12日からコンサートツアーを再開する。観客を入れてのライブ活動に踏み切るミュージシャンは、まだごく少数だ。決断に至った思いや、自粛期間中に考えたことを電話インタビューした。

あの時代の歌をもう一回歌おうと

――今年でデビュー50年。予定していた全国ツアーは、新型コロナウイルスの影響で2月末を最後にすべて延期・中止になりました。再開を決断するのは難しかったと思いますが。

 う~ん、むつかしいなぁ~。緊急事態宣言が解除されても、まだだ、まだだと思いながらタイミングを計っていました。ようやく第2波がピークを越えたのではないかと言われますし、専門家の意見も聞いて、きちんと感染対策をすれば歌声が届けられるのではないかと判断しました。

 僕もファンの方たちも年代が高いので勇気がいりましたけど。やってみたら失敗もあるかもしれませんが、修正しながら進むしかないですね。

――自粛期間中はどう過ごしていたんですか?

 自宅がある大分の国東半島で、ゆっくり自分と向かい合っていました。「南こうせつ」とは何者なんだ、みたいな。この半年、収入はゼロなんですけども、これまでひたすら走り続けたのをやめてみた時に、面白い自分と対面することができて。僕としてはこの時期があってよかったと思ってます。

 僕たちの時代、1970~80年代にフォークを歌ってきた人たちは、みんな定年退職とか還暦とかを迎えています。僕はそういう人たちに支持されてきたんだなと改めて思ったんですよ。だから、僕たちが歌ってきたあの時代の歌をもう一回、歌ってみようと。それしかできないから。

大分にある自宅の桜の下に立つ南こうせつさん(所属事務所提供)
大分にある自宅の桜の下に立つ南こうせつさん(所属事務所提供)

――世の中についても考えることが多かったとか。

 僕らが生きてきた時代は、世界が急激に変化した時代で。アナログからデジタルとか。このままいくと、人はいったいどこに着地するのか、本当の幸せとはどこにあるのか、とか毎日考えてましたね。

 今、世界共通のコロナという敵に向き合っているけど、これはどういう運命なんだろう、と。僕はね、「人間よ、そろそろ地球という青い星をいただいて感謝しないのか、お前らは」と言われている気がするんです。地下から石油も石炭も掘り起こし、川や緑の山もやりたい放題に破壊して、それに対する感謝の言葉もなく、どの会社や国が一番もうかったとか、人々のためじゃなくて、今はやりのポピュリズムですよ。そんな風にどんどんなっていく。

 それにデジタル化されて、SNSでは法律とか関係なく個人が誰かをいじめるとか、一歩使い方を間違えるとみんなが自由になったようで不自由。数人の人間に世界が支配されているっていうこともある。そういうことに警鐘を鳴らしているのかな、コロナが。それを感じましたね。

「利他」の精神で、できることを

――どうすればいいんでしょうね。

 

 東洋にも日本にも昔から「利他」という考え方がある。自分のことを犠牲にしてでも隣の人を助けるという美しい伝統、精神です。人は人にいいことをすると気持ちいいし、悪いことをすると気持ち悪い。いいことの連鎖を蘇らせないと。災害も増えているし、人間は助け合わんといかん。100年、200年後の人は今の時代を笑いますよ。あの頃の人間たちはおかしいって。

 

 もうひとつ、「一隅(いちぐう)を照らす」という最澄の言葉があります。片すみの誰も注目しないような物事に、ちゃんと取り組むことが尊いという意味ですが、それだと思います。自分ができることを粛々とやること。先が見えない不安があるからといって、誰かを敵にするんじゃなくて、感情をコントロールして淡々と過ごすこと。それはすごく意義のあることだと思います。

1976年、日本人として初めて武道館でソロコンサートを開いた南こうせつさん(所属事務所提供)
1976年、日本人として初めて武道館でソロコンサートを開いた南こうせつさん(所属事務所提供)

――音楽の力について考えたことは?

 

 1人で飲んだりしていると、ふと自分が自由だった若い頃のメロディーが浮かんできて。そのフレーズを歌うと、キュンとくるんだなぁ。希望がふっと見えてわくわくするんですよ。ダニー・ボーイとか、サイモン&ガーファンクルとか、三橋美智也さんとかも歌いましたね。音楽はね、薬よりいいんです。点滴より効くんだよ!

――コンサートで歌いたい曲はありますか?

 「おまえが大きくなった時」かな。人生を歌ってみたいな。不安を抱えた人たちが集まって来てさ、う~ん、だよね~、とか言いながら歌える歌を。でも、やっぱり僕は「神田川」でしょ! 明日も生きてみようかな、と思ってくれたらうれしいなぁ。

 ◆年内のツアーは長野、岐阜、熊本、福岡で5カ所が決定している。

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