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11歳以下の子ども達への新型コロナワクチンをどう考える?

紙谷聡小児感染症専門医、ワクチン学研究者
(写真:アフロ)

11月2日、米国では、FDAで小児の5歳から11歳での緊急使用が認可されたファイザー製の新型コロナウイルスワクチンが、CDCの予防接種諮問委員会でも承認されました。これをもって、米国では子供たちへのワクチン接種が3日よりはじまりました。

ここでは、諮問委員会で提示された子どもへのワクチンの最新のデータを紹介して、子どもへのワクチンについてどう考えていけばよいかについて説明していきます。

5歳から11歳へのファイザー製ワクチンは、従来の量(12歳以上を対象)の3分の1の量となります。2回接種は変わらず、接種間隔も3週間と変更はありません。

このワクチンの小児における効果と安全性を調べるために4500人以上の規模の臨床試験を行っています。

まず安全性の結果ですが、接種後の局所反応(接種部位の痛みなど)や全身反応(熱など)は5–11歳でも起こりますが、上の年代(例:16–25歳)と比べるとその頻度は減っています(図1)。例えば、2回接種後の発熱は上の年代では17%でみられましたが、5–11歳ではその半分以下の約7%でした。体のだるさや頭痛、筋肉痛の頻度も減っています。

図1 ACIP資料より筆者作成
図1 ACIP資料より筆者作成

また、気になる重篤な副反応の頻度ですが、ワクチン接種群においてワクチンとの関連があるものは0件であり、死亡例もありませんでした。こうした副反応は、以前に新型コロナにかかったことがある子ども(無症状も含めて)も同様の頻度であり、安心できる結果でした。ただし、こうした数千人規模の試験で、とてもまれな副反応(例えば心臓の炎症をきたす心筋炎など)がみられることは通常はありませんので、ワクチン承認後も引き続き注意深く安全性をモニタリングしていくことは極めて重要となります。mRNAワクチンによる心筋炎については、別の機会で詳しく説明したいのですが、特徴として、1)極めてまれであること(年齢や性別にもよりますが、米国のデータで12-15歳全体で100万接種あたり約20例)2)通常、ウイルスの自然感染によっておこる心筋炎よりも軽症であることが多い(つまり新型コロナの自然感染による心筋炎の方がリスクも高く重症)3)若年男性に多い(10代後半から20代が最も多い)が挙げられます。5-11歳にはワクチンの量も少なく、この年代の従来の心筋炎の頻度ももともと低いため、ワクチンによるものも頻度が低くなるのではないかと専門家の間では推察されています。

次に効果ですが、これは主に上の年代(16-25歳)と抗体の量を比較して測っていますが、5–11歳でも同程度の抗体量を認めて、99%の子ども達が抗体の反応があることがわかりました。3分の1のワクチン量でも十分に抗体ができた事はとても良い結果だと言えます。さらに、問題となったデルタ変異ウイルスに対しても良好な抗体の反応を認めています。また、この試験ではワクチンを接種した群と、しなかった群で、新型コロナがどれだけ発症したかも調べていますが、ワクチン接種群で3例、非接種群で16例を認めて、ワクチンの効果を計算すると約90%という高い発症予防効果を認めています(図2)。

図2 ACIP資料より筆者作成
図2 ACIP資料より筆者作成

この予防効果によって、米国では子供たちに100万本接種するごとに、5万例以上の子ども達への新型コロナウイルス感染症を防ぎ、約200例の入院、約130例の子どもの新型コロナの合併症(全身に炎症を起こすMIS-Cという疾患、日本でも報告あり)を防ぎ、約60例の集中治療室入室を防ぐと見積もられています(図3)。

図3 ACIP資料より筆者作成
図3 ACIP資料より筆者作成

こうして低年齢の子ども達にも安全で効果があることが示されたため、米国CDCではワクチンを推奨すべきだという結論に至りました。

では、感染が深刻な米国ではこうした決定には議論の余地があまりないようにみえますが、感染をおさえこめている日本ではどのように考えていくべきでしょうか?

国としての推奨は、厚生労働省がこれらのデータをもとに慎重に評価を行っていくでしょうし、小児科学会などの専門家による推奨も今後、発表されていくことかと思いますので、これらの情報をもとに接種について考えていってほしいと思います。

ここからは、米国で重症コロナにかかった子ども達を診てきた小児感染症科医として、そしてワクチンの安全性と効果を評価してきた専門家として私の個人的な考えを参考までに述べます。

下記の図4は、CDCのワクチン接種の利点と、リスクについての天秤を示したものです。リスクは前述したように接種後の一時的な痛みなどやまれな心筋炎などですが、利点としては、1)まず当然、新型コロナウイルス感染症の予防2)感染症に伴う入院や合併症、そして後遺症といった自然感染に伴う危険の回避3)小児からでも大人や周囲に感染することがわかっていますのでワクチン接種によってその感染の連鎖の一部を断ち切れること4)子どももやはりこれだけ騒がれた新型コロナが怖かったと思うのですが、接種によってより安全に安心して学校や外出ができるようになること、などが挙げられます。

図4 ACIP資料より筆者作成
図4 ACIP資料より筆者作成

これらのメリットの多くは、実は日本の子ども達にも当てはまるのではないでしょうか。

ずっと我慢してきたのは大人だけではなく、子ども達もですよね、、マスクをしたり、人込みをさけたり、思う存分遊べなかったりとたくさん我慢してきたと思います。最近のニュースで、日本人の70%以上がワクチン接種を完了したとありましたが、これは大人だけに限ればもっと高い率の人数が接種を終えたのだと考えられます。これだけの方がその有効性と安全性を納得して接種しているワクチンを、子どもにもその接種の機会を提供するのはとても自然のように思います。

「子どもは重症化しにくいからワクチンいるの?」という意見も聞かれますが、「重症化しにくい」ことと「重症化しない」ことは大きく異なります。事実、感染が広がった米国で、私自身、多くの重症化した子ども達を診てきましたし、今回のデルタで犠牲になった方の多くはワクチン接種をしていない大人と、まだ接種対象でなかった子ども達でした。現在、日本では皆さんの努力と我慢によって子どもへの感染が非常に抑えられていると思います。しかしこの感染症の怖いところは、大人が今後対策を緩めてガードが甘くなれば、どこかの国で感染が蔓延しているかぎり、またいつでも感染が日本で広がりうるところにあります。そして広がったときに犠牲になるのは、主にワクチンを接種していない集団(子ども達も含む)になることは諸外国の状況から明白です。よって、いま感染少ないからワクチンを打たなくても大丈夫ではなく、いまの「凪」の状態をチャンスととらえて、「備えあれば憂いなし」の考え方で未来の流行に備えてワクチンを接種することが肝要かと感じます。

以上が私個人の見解ですが、もちろんまれであってもリスクへの考え方は人それぞれ異なるでしょうし、子ども達の個々の健康の状態や基礎疾患の有無など、様々な点を考慮していく必要があると思いますので、かかりつけの小児科の先生などの意見をぜひ参考にして、接種についてより納得した形で判断してくださることを願っています。今回の情報がその一助となりましたら幸いです。

参考文献)

図はすべて米国予防接種諮問委員会(ACIP)の資料を使用しています。

https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/slides-2021-11-2-3.html

小児感染症専門医、ワクチン学研究者

エモリー大学小児感染症科助教授。日本・米国小児科専門医。米国小児感染症専門医。富山大学医学部を卒業後、立川相互病院、国立成育医療研究センターなどを経て渡米。現在、小児感染症診療に携わる傍ら、米国立アレルギー感染症研究所が主導するワクチン治療評価部門共同研究者として新型コロナウイルスワクチンなどの臨床試験や安全性評価に従事。さらに米国疾病予防管理センター(CDC)とも連携して認可後のワクチンの安全性評価も行っている。※記事は個人としての発信であり組織を代表するものではありません。

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