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スマートニュースの「ファクトチェック」とは?「まとめサイト」記事配信の裏側

亀松太郎記者/編集者
スマートニュースの「まとめ」チャンネル。今年3月に偽ニュース(?)が掲載された

フェイクニュース(偽ニュース)やデマ情報の拡散が問題となるなか、多数の読者を抱えるニュースメディア運営企業は「ファクトチェック」(真偽検証)にどう取り組んでいるのか。スマホ向けのニュースアプリ「スマートニュース(SmartNews)」が、社員の確認も含めた3段階のチェック体制を設けて、問題のある記事を審査している仕組みが明らかになった。

スマートニュースが「ファクトチェック」を支援

スマートニュースの取り組みが明かされたのは、さまざまなニュースのファクトチェックを進めようという団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」の設立会見の場だ。発起人たちの記者会見が6月21日、東京都内で開かれ、私も取材者として参加した。

発起人には、ジャーナリスト経験者やメディア研究者らが名を連ねた。その中心は、スマートニュースの執行役員をつとめる藤村厚夫さんと、マスコミ報道検証サイト「GoHoo」を運営する日本報道検証機構の楊井人文(やない・ひとふみ)代表だ。

ファクトチェック・イニシアティブの発起人たち。前列の右から2番目が藤村さん、4番目が楊井さん
ファクトチェック・イニシアティブの発起人たち。前列の右から2番目が藤村さん、4番目が楊井さん

会見では、藤村さんと楊井さんから団体設立の趣旨と活動内容が説明された。報道関係者の関心も高く、元徳島新聞記者で法政大学准教授の藤代裕之さんや朝日新聞などがその模様を報じた。

偽ニュース対策を行うファクトチェック団体が発足、ガイドライン作成などを目指す(藤代裕之)

ネットの情報、真偽検証 ファクトチェック団体が設立(朝日新聞)

膨大な情報が流通する現代のネット社会で「偽ニュース対策」を効率的に進めるためには、テクノロジーに強いネット企業の協力が不可欠だ。今回設立されたファクトチェック・イニシアティブに対しては、発起人の藤村さんが執行役員をつとめる「スマートニュース」が技術面の支援を行い、ファクトチェック情報のオープンデータ化などを進めていくという。

ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の体制案
ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の体制案

このように、当面はスマートニュースが大きな役割を担うということだが、少し気になったのは、多数の記事を掲載するニュースメディアとして大きな影響力をもつスマートニュース自身の「ファクトチェック」がどうなっているかという点だ。

というのも、ジャーナリストの津田大介さんが会見前日に、次のようなツイートをしていたからである。

「フェイクニュース」や「ポスト真実」に対抗していくという方針を経営陣が示しているのだからいい加減SmartNewsも標準で付いてる「まとめ」タブをなくした方がいいと思うし、そういう指摘も各方面からされているんだけどなくならないね……。

出典:Twitter

津田大介さんの6月20日のツイート
津田大介さんの6月20日のツイート

スマートニュースの「まとめ」チャンネルとは?

スマートフォン向けのニュースアプリであるスマートニュースには、「エンタメ」や「政治」「スポーツ」といったジャンルごとの「チャンネル」(タブ)が用意されていて、利用者はそのチャンネルを切り替えながらニュース記事を読む仕組みになっている。

そのチャンネルの一つとして、津田さんが問題視している「まとめ」がある。この「まとめチャンネル」に掲載されているのは、いわゆる「2ちゃんねるまとめ」と呼ばれるサイトの記事。そこでは、他のニュースサイトの記事やツイッターの投稿、ネット掲示板の書き込みなどを紹介しつつ、それに対するネットユーザーの反応をまとめるというスタイルが一般的だ。

これらの「まとめサイト」は若い世代を中心に人気を集めているが、ときとして事実と異なる印象の「釣り見出し」がつけられていたり、芸能人の写真が多数転載されていたりするため、その内容に問題があるのではないかと指摘する声がある。

たとえば、今年3月4日にスマートニュースが「まとめチャンネル」に掲載した「ぶる速−VIP」の記事の見出しは次のようなものだった。

【緊急悲報】「サザエさん」ついに打ち切りへ……

出典:SmartNews

3月4日のスマートニュース「まとめ」チャネルのキャプチャ画像(iPad版)
3月4日のスマートニュース「まとめ」チャネルのキャプチャ画像(iPad版)

国民的なテレビアニメ「サザエさん」が打ち切りになるといえば、大きなニュースだ。しかし実際には、サザエさんが放送中止になることはなく、いまも毎週日曜の夕方に放送されている。となると、スマートニュースが偽ニュースを配信していたのではないか、というわけだ。

このような背景もあり、3月上旬、スマートニュースの藤村さんが偽ニュース対策の団体設立に動いていることが報じられたとき、津田さんは次のような要望をツイートしたのだった。

大変有意義な取り組みだけど「まずは隗より始めよ」でSmartNewsのタブから「まとめ」を削除してまとめ系はピックアップされないようにしてほしい。フェイクニュースとは言わないまでもミスリーディングなニュース拡散することが結構あるので。

出典:Twitter

津田大介さんの3月6日のツイート
津田大介さんの3月6日のツイート

この津田さんの指摘に対して、スマートニュース執行役員の藤村さんはどう考えているのだろうか。ファクトチェック・イニシアティブの記者会見に出席した私は、質問をぶつけてみた。「スマートニュースが『まとめサイト』の記事を目立つところに掲載していることは、ファクトチェックやフェイクニュース対策という観点から、問題ないのか」とたずねたのだ。

スマートニュースのファクトチェックは「3段階」

藤村さんは「ファクトチェック・イニシアティブの発起人の立場ではなく、スマートニュースの立場として説明する」と断りながら、次のように答えた。

「東芝日曜劇場『サザエさん』に関しては、たしかに以前も、津田さんが指摘されています。これは東スポで記事になったもので、必ずしもまとめサイトで記事になったものではありません。これがフェイクであるかないかということについては、事実でない可能性が大変高いと思っていますので、掲出することを途中でやめたという経緯はあります」

スマートニュース執行役員の藤村厚夫さん
スマートニュース執行役員の藤村厚夫さん

藤村さんの回答について補足すると、スマートニュースが掲載したのは、前述したように、まとめサイト「ぶる速-VIP」の<【緊急悲報】「サザエさん」ついに打ち切りへ……>という記事だ。それは、東京スポーツが配信した<フジ「サザエさん」打ち切り!?倒産危機・東芝ついにスポンサー撤退か>という記事の全文を転載する形で作られている。

たしかに藤村さんが言うように、もともとは東スポの記事がソースとなっている。だが、東スポの見出しは「打ち切り!?」と疑問形になっており、その可能性を示唆するにとどまっている。「サザエさん打ち切りへ」という断定的な見出しをつけたのは、まとめサイトのほうである。

まとめサイトに載った「サザエさん打ち切りへ」の記事。見出しは独自のものだ。
まとめサイトに載った「サザエさん打ち切りへ」の記事。見出しは独自のものだ。

スマートニュースは掲載を取りやめたが、まとめサイト東スポについては、いずれも現時点(6月22日午前9時)でまだ記事を掲載している。関心のある方はアクセスして、比較してみてほしい。

藤村さんは「サザエさん」の記事に関する説明のあと、スマートニュースが「まとめサイト」チャンネルの「ファクトチェック」をどのように行なっているのかを明らかにした。

「まとめチャンネルに集積されているものについては、3段階で内容の確認チェックを行っています。1段階目は、情報提供者を絞ることで、これは一部上場企業の方にご提供いただくプロセスにしています。2番目は、パトロール業者に委託して、我々が内部的に運用しているガイドラインで問題がないかどうかを確認しています。3番目は、スマートニュースの社員が確認する。こういう3つのプロセスを経て、違法性、遵法性、公序良俗にもとらないような記事であるようにしているつもりです」

つまり、外部のパトロール業者やスマートニュースの社員という「人の目」を通して、ファクトチェックをしているのだという。その検証システムについて、藤村さんは「我々が完璧であることについて、担保できていないことは事実」と不完全さを認めたうえで、「今後も必要であれば、(検証のための)体制を組んでいきたいと思っています」と話した。

一方で、「(まとめサイトの)エンターテインメント・コンテンツとしての価値についても、我々は重々理解している」として、「まとめサイト」チャンネルの運用を今後も継続していく方針を暗に示した。

現在のスマートニュース「まとめ」チャンネル(6月22日9時44分/iPad版)
現在のスマートニュース「まとめ」チャンネル(6月22日9時44分/iPad版)

日本報道検証機構・楊井代表「まとめサイトの全てが間違いではない」

このようなスマートニュースの姿勢について、ファクトチェック・イニシアティブの事務局を担当する楊井人文さんはどう考えているのか。日本報道検証機構の代表として、マスメディアの誤報問題を厳しく追及している楊井さんに聞いてみると、次のような答えが返ってきた。

「津田さんのご懸念は、私もある意味、わかります。ただ、それはまとめサイト特有の問題なのですか、と問いたいと思うんですね。まとめサイトが100パーセント間違いというわけではないんだろうと思います。それを一緒くたにして全て排除してしまうのはかえって危険だろうし、まとめサイト以外の大手メディアやいろいろなメディアに100パーセント正しいことが書かれているかというと、そうでもないわけですね」

日本報道検証機構代表の楊井人文さん
日本報道検証機構代表の楊井人文さん

このように「誤った情報が掲載されるのは、まとめサイトだけでない」という見解を述べながら、楊井さんはまとめサイトを擁護する姿勢を示した。

「もしまとめサイトに一律に問題があるということで、『社会に流通させてはならない』『プラットフォーム事業者も扱ってはならない』という発想に立つとするならば、何パーセントの誤りがあるかということをきちんと実証しないといけないと思います。まとめサイトをファクトチェックした結果、たとえば100個あるうちの80個が誤りであると実証できているのかどうか。確率的にはおそらく高いんだろうなという懸念は共有しますが、大手メディアと比較して、どれくらいパーセンテージが違うのか」

楊井さんは、まとめサイトと大手メディアの信用性の違いについて「きちんと説得力のある数字を出す必要がある」と説いたうえで、サイト単位で信用性を判断するのではなく、記事単位で誤りがあるかどうかを検証していくべきだという見解を示した。

「特定のジャンルの言説だけを自由な言論社会から排除してしまうことで、かえって反発を招いたり、言論がアンダーグラウンド化してしまうのではないかという懸念があります。やはり私は、きちんと個々を一つ一つ見ていく必要があるんじゃないかと思います」

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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