政府にはしごを外されたラブホテル【特集】コロナで変わる夜の世界#4

『ホテルニューミエ』フロントに座る経営者の中西さん

歌舞伎町のラブホテルを舞台にした群像映画

『さよなら歌舞伎町』(廣木隆一監督2014年)劇中にこの様なセリフがある。

「こういうところで働くような人は色々事情があるひとが多いんだからあんまり詮索しちゃだめだよ。」

この特集では夜の業界と言われている方々にコロナ禍でどのような事が起きているかを取材してきましたが、今回は都内のラブホテル経営及び運営者の支配人の方にお話を聞くことができました。ラブホテルも平時には内情が表に出ることが少ない世界ですが、コロナ禍の社会で伝えたいことが有るとのことで今回取材に協力いただきました。

(インタビュー日 2020年5月21日)

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■『顔見せしない』おもてなし

角間:

お二人のお立場と簡単なご経歴を教えて下さい。

中西:

豊島区の巣鴨駅前にあります『ホテルニューミエ』を運営している株式会社の取締役を務めさせていただいております。

祖父の代から旅館やホテル経営を生業としている家系でした。時代の流れを受け観光用ホテルは売却、代わりに巣鴨の旅館を取得しラブホテルにリニューアルして今に至ります。

昨年、父の体調が悪くなってしまい私自身は旅館及びラブホテル経営は未経験だったのですが、経験豊富なスタッフさんの存在があり、今までの職歴を活かししたいと考えたことから、後を継ぐ形で私が事業を切り盛りすることになりました。

ホテルの歴史や現場の事情は支配人のWさんが管理してくれていますので彼女から詳しく説明します。

支配人Wさん:

先代が20年程前に初めたこのラブホテルで14年前からスタッフとして働いております。現在は支配人という立場で私含め8人のスタッフの管理とホテル業務全般を担当しております。

JR山手線「巣鴨」駅前の路地裏にホテルニューミエはある 筆者撮影
JR山手線「巣鴨」駅前の路地裏にホテルニューミエはある 筆者撮影

角間:

ラブホテルの仕事を知らない方多いと思います。お仕事についてもう少し詳しく教えて下さい。

支配人Wさん:

ラブホテルは宿泊されるお客様よりも1時間半から2時間程の短時間利用でチェックアウトされていくお客様が多く部屋が高回転する業態ですから『掃除』が業務の大半を占めてます。

繁忙期だと1部屋を5名で4分以内に掃除を済ますこともあります。うちのホテルは14客室と業界では標準の規模感ですが、1日に100回近くの掃除をこなすこともあります。

フロントは2~3名の少人数で24時間回して、お掃除をしていただく人員を多め用意しておくのが一般的なラブホテルの仕事です。

また、ホテルでは有るのですが、顔を合わせる接客による“おもてなし”はほぼ行いません。そっとしておいてほしいというお客様の需要が高いので。その結果、建物の外観含めた定期的なメンテナンス(投資)が大事な仕事になります。

うちは平成18年に全体の改修を行っていますが、定期的に大きな設備投資が必要な業界ですので、予め数年先まで見据えた運営をしていくことも重要です。

中西:

お金をかけて建物のリニューアルを行うとわかりやすく客足が増えます。お客様が飽きられてくる6~8年後にまたリニューアルをするというサイクルで父は対応してきたようです。

支配人Wさん:

直接接客が難しいからこそ、外観などを変えていくことの影響が大きい仕事ですね。

角間:

回転数が多いとのことですが、具体的にどの様なお客さんが部屋を回しているのでしょうか?

支配人Wさん:

私達の顔を見せないよう配慮しており、お客様と会話することも控えているので完璧にはわかりませんが、長年働いていると雰囲気が読めるようになります。うちのホテルは駅前なこともあり、感覚ですがお客様の70%程度は派遣型風俗店(デリヘル)での利用かなとは思います。

ただ、ここ数年はラブホテルに対する世間の目が明らかに変わり、20代くらいの学生や徒歩でやってくるご夫婦の利用も増えています。不慣れながらホームページを作ってみたりTwitterを初めたりと、私達も変化をしてきたことも影響してるかとは思いますが。

常連さんとはお話をすることがあります。学生時代に使っていたからと社会人になった今でもご利用いただいてるとのことです。ただコロナ禍でその全属性の客足が途絶えてはいますが。

実際の部屋。一日になんども清掃を行う。 筆者撮影
実際の部屋。一日になんども清掃を行う。 筆者撮影

■リーマンや東日本大震災よりひどい

角間:

地元に根付いたラブホテルとして長年営業されているようですが、コロナ禍の影響はいかがでしょうか?

中西:

顕著に出ています。日々の部屋利用数が大事なのですが、今年4月は去年比で8割程度稼働率が下がっています。やはり緊急事態宣言直後からでしたね。一部屋の1日の利用数が9組と2桁に届かなくなり、あっという間に6組、さらにさがって3組という感じです。

支配人Wさん:

十数年運営してきて、1部屋が1日3組切るなどは初めてのことです。リーマンショック、東日本大震災と大波に2つ遭遇し、どちらも客足にマイナスの影響がありましたが、なんとか生き残ってきました。その後は、アベノミクスの効果かじわじわ経営は良くなってきていて少し余裕が出てきたタイミングで、巣鴨駅周辺に競合ホテルさんができた為、次の手を考えていた最中にコロナ禍の影響を受けました。

中西:

本日(取材日16:00頃)で全お客様が10組に届いていない状況です。普段は、土日と給料日前後が忙しいのですが先月からはまるでだめです。

角間:

緊急事態宣言が出て休業は考えましたか?

中西:

ホテルの自粛は自己判断とのことでしたが、4月末からGWが明けるまで休業を実施しました。スタッフの健康に配慮してのことです。ラブホテルは掃除回数が多い仕事ですし、お客様にも毎回体温計で測っていただくことも難しい。当時は布やプラスチックの上でもウイルスの感染力が維持されるなどの情報も聞き、うちは長年勤めて建物のことを熟知しているスタッフさんが資源ですから健康最優先にと考えた結果です。

支配人Wさん:

悩んだ末でした。年末年始以外に休みを取るのは初めてで。私はこのホテルにはほぼ毎日顔を出しているので、こんなに(ホテルに)来なかったことは初めてです。世間ではテレワークがなどと言われていますが、私にとって職場は家同然なので自粛で自宅にいることは変な感じです。

■地域の『4号営業ホテル』

角間:

ラブホテル経営というお立場は『4号営業ホテル』です。

(=チェックインや精算を顔を合わせずできるシステムを備え、店舗型性風俗特殊営業4号の届けを出している)。

旅館業でありつつ風営法の届出業者であるという特殊性があります。こうした立場が地域で営業する際に影響を受けることはありましたか?

ホテルエントランス入ってすぐ 筆者撮影
ホテルエントランス入ってすぐ 筆者撮影

中西:

もう長いことやっていますが全くありません。町会にも加盟してますが特別な目で見られることはまずないです。巣鴨という土地柄も有るのかもしれませんが。

支配人Wさん:

私は地域の防犯協会にもホテルを代表し加入してます。4号営業をしていることについては皆さん認識していただいてます。「あそこよねー」「たまに行くよ」と言われることはありますが、地元の皆さんから偏見を受けることはまずありませんでした。

角間:

一方、同業の方とのお付き合いはあるのですか。

中西:

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)という厚労省認可の組合に我々も加入しています。そこで同業の方とお会いすることが多いです。

支配人Wさん:

うちは巣鴨支部ですね。組合としては大きいかなと思います。加盟団体で新年会もするのですが、昔はニューオータニなどでやったり自治体の知事さんも顔見せすることも多いです。

角間:

加盟によるメリットを教えて下さい。

支配人Wさん:

まず、地元の方との連携を深めることができてます。防犯や防災の観点で、警察署、消防署、保健所とのお付き合いが大切な立場ですから。あと勉強会に参加できることもメリットです。旅館業者として情報を知れるので。加盟団体の交流は盛んですが風営法事業者だから特別視されてるとはここでもまったく感じません。

中西:

加盟している地元の大きな名門ホテルさんともやり取りしてますし。あと団体加盟によりNHK受信料負担を減額してもらえる特典にも助けられています。ホテルは部屋ごとのTVにNHKの受信料がかかるので。うちの規模でも大変な経費になりますから。

■はしごを外された感のラブホテル

角間:

協会といえば、2016年にオリンピック誘致が確定しインバウンド向けの宿泊環境整備の一環で、ラブホテルを宿泊施設として活用することを後押しすることを発表されていました。

利用客が減るラブホ業界。急増する訪日外国人観光客(インバウンド)は「新たな鉱脈」だ。政府は2020年に年間4千万人を目指すが、課題は客室不足。ラブホの業界団体はそこに目をつけた。

 日本中小ホテル旅館協同組合(大阪市)は、平日の空室率を平均60%と試算し「ラブホは年間2800万人の宿泊客を新たに受け入れられ、民泊なしでもホテル不足は解消できる」と提言する。ただネックは改装資金の調達。金融機関の多くは「風俗案件」としてラブホへの融資を避けるためだ。

 そこで組合は公的融資を求めて、政府への「ロビー活動」を展開。2月には首相官邸で菅義偉官房長官と面会した。組合の金沢孝晃理事長が「ラブホテルはひまです。活用して下さい」と要望すると、菅長官は「国益に沿う事業。全面的に支援する」と応じたという。厚生労働省は4月、日本政策金融公庫に対し「ラブホテル改装に特段の配慮」を求める通知を出した。これまでに16件の相談があり、今後融資を検討するという。 

朝日新聞 2016.08.23 東京朝刊

皆さんは当時なにかアクションを検討されましたか?

支配人Wさん:

4年前はまだインバウンド需要を考えられなかったのと、業態的に休憩を主たる客層としてるラブホテルが宿泊をメインに受け入れていくことは相性が悪いので前向きには考えてはいませんでした。

中西:

ビジネスモデルが回転数で稼ぐ仕組みですから。インバウンド需要があるからというだけで改修に踏み切るのは難しいなと親しくしてる他のラブホテル経営者も言ってました。

ただ都内の宿泊資源としてラブホをインフラとして検討していただいたことは素直にありがたいと思いましたね。また組合もオリンピックに向け業種関係なく盛り上がっていたことはよく覚えています。

角間:

そのような背景があったにも関わらず、一連のコロナ禍における社会保障制度(雇用調整助成金、持続化給付金等、公的金融機関からの融資)から除外されている現状について、どのようにお考えでしょうか?

支配人Wさん:

私たちは潰れてしまえと言われてるよう感じています。

明らかに客足が遠のいていることは経営者でなくても全従業員がわかっていますから、フロントや掃除のシフトも今まで2人体制だったところを、1人体制にするなどして、皆給料も減っているにも関わらず、文句も言わずにはたれいてくれてます。

「ごめんね。市場が良くなったら戻すから」と謝ったら皆も「分かりました」と快く言って働いてくれていますが、正直皆つらいと思うのです。

この間スタッフが「晩ごはん買ってきていいですか」と言っておにぎり1個だけしか買わずにいるところをみて、翌日私がおにぎりを握って持っていきました。大変なのはうちだけじゃなく、ラブホテルは知る限りはどこもこんな状態です。

ホテルニューミエ周辺にはホテルだけでなく、地元の中小企業もたくさん事務所を構えている 筆者撮影
ホテルニューミエ周辺にはホテルだけでなく、地元の中小企業もたくさん事務所を構えている 筆者撮影

中西:

4年前はインバウンド向けの資源として期待されていたのに、今となっては我々の業態だけ社会保障制度から除外され、一転して国から必要とされてないのではというような気持ちになっています。みんな大変なのはわかってますが、活用を検討していた国から突然職業差別の様な振る舞いを受けているのは正直つらいです。

角間:

業種が異なる話ですが、コロナ禍の休校に関する補助金から性風俗従事者(個人)が除外されたことに当事者団体がおかしいと声を上げたことで、制度が変わるなどの事例がありました。みんなが大変なのはわかっている一方、特定の誰かが名指しで除外されることはやはりおかしいこと。声を上げていくことは大事ですね。

支配人Wさん:

今まで、仕事の中でも細かいところでラブホテルは除外されてきた歴史はあります。例えば昔は今みたいにどのクレジットカードでも自由に使えるようなことはなく、時間とともに徐々に使えるところが増えていくなどもありました。最近のことですと、『PayPay』(スマホ決済アプリ)の導入はラブホはだめ!ということで審査に落ちたことなどもありましたけど。

中西:

(PayPayは)4号ホテルは駄目みたいなことを言われましたね。外国の人たちや若い人たちが使いやすい仕組みも徐々に整えようと思っていたのですが。インバウンド向け活用などと都内で盛り上がっていた割には細かいところで区別されてるなと思うことも今まで何度もありましたね。

ただ、今はラブホテルでもお客さんは堂々と来るようになっていますし、会社としてもきっちり納税して、雇用もして、まったく悪いことをしているわけでもないのにって民間企業だけでなく国からも(社会保障制度から)除外されていることは本当に残念です。

角間:

元々ラブホでも地域、協会の方々からは仲間として扱われいる。さらにオリンピックが有るから場所が足りないから協力してこうとまで言っていた政府がコロナの社会保障では一転態度を硬化しているのは本当におかしいことだと思います。

※署名サイト等も立ち上がっている模様

コロナウイルス感染症特別貸付で、レジャーホテルを対象外にしないでください。

■風営法業界も不況に強いわけではない

角間:

先ほどの話で、過去の不況時ラブホも大変だったとおっしゃってました。社会が不況になると夜の業界が盛り上がる。そんなイメージお持ちの方は結構いるかと思いますが、ラブホに関してはそんなことはないということですか?

ホテルと従業員のためにも一般企業と同じ扱いを希望する中西さん 筆者撮影
ホテルと従業員のためにも一般企業と同じ扱いを希望する中西さん 筆者撮影

中西:

不況でラブホが儲かるはまったくの迷信。都市伝説です。むしろ今回のように社会保障の枠もない。融資を受けることも困難なのにお金のかかる施設を維持管理していかなければいけない。不況には弱い立場ですよ。変なイメージを持っているだけで、皆と同じただの中小企業です。

支配人Wさん:

世の中が悪くなれば稼働はやはり悪くなります。同じです。みんなお金を使わなくなるでしょう。財布のひもがきつくなるとこちらの利用も当然減りますから。むしろこういうときに偏見を受けるなど、憂さ晴らしされているよう感じます。

中西:

ラブホに関係なく、ホテルという業態はスタッフさんにとっても居場所になりがちなようです。うちはスタッフの休業には補償という形で支給していますが、自主努力だけではいつまで持つか。

支配人Wさん:

私のように長くやっているといろんな方がこのホテルで働くのを見てきました。過去ちょっと悪い人も働いたりしていましたけど、今いる人たちはいい子ばかりです。巣鴨の地元とこのホテルを気に入って一生懸命働いてくれているスタッフさんですから、なんとか残ってもらって、コロナ後にも一緒に働きたいと思っています。

中西:

特別扱いはしなくていいので、はせめて他の中小企業同様の扱いをお願いしたいと強く伝えたいです。

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「テレビで散々、きずなきずなって騒いでいたけど、けっきょくみんな他人事なんだなって。」

(映画さよなら歌舞伎町より)

オリンピックに向けて世の中が盛り上がってるときにはラブホテルに光があたっていました。しかし、コロナ禍でみんなが大変になったときには一転社会保障から除外されるのがラブホテルの置かれている現状です。

だれも置いていかれないよう社会の現状を伝える為にと、顔とお名前を題して取材に協力いただいた中西様と、支配人のWさんにこの場を借りてお礼を述べたいと思います。

この企画では、引き続き夜の世界のリアルをお届けしていきたいと思います。