新型コロナウイルスの感染予防に関連した各種社会保障制度から、一時、夜の世界の仕事(キャバクラ、性風俗等)が名指しで除外されたことに対して注目が集まりました。

※その後、世論の声を受けて各種助成制度等から名指し除外の訂正が行われる模様です。

コロナ休業補償、風俗関係者も「対象に」と厚労相表明

風俗業などで働く人たちが対象外とされていた問題で、加藤勝信厚生労働相は7日の閣議後会見で「風俗関係者を対象とすることにしたい」と述べ、風俗業や客の接待を伴う飲食業で働く人たちも支援対象とする方針を表明

出典:朝日新聞デジタル 2020/04/07

農協、相撲協会、落語協会、様々な風俗(文化芸能の類を指す)には業界団体とされる組織があるものですが、面白いもので、風俗は風俗でも、性風俗等の所謂『夜の業界』には横のつながりを管理する団体が存在していません。働く方々も“身バレ”をリスクと感じている方も多いため、当事者以外には情報が入りにくい閉じた世界となっています。

その結果、先入観からあらゆることに誤解を招きやすい業界でもあります。差別や排除を繰り返してきた歴史もあります。そうした経験のおかげなのか、どんなに踏まれてもへこたれないしぶとさもを有しているのが夜の業界の特徴です。

緊急事態宣言を受けての営業自粛等、夜の街も軒並み休業せざるを得ない状況にある中、テレワークに用いられている“ビデオ会議システム”を利用した新しいスタイルのキャバクラの立ち上げを行われている方がいらっしゃいます。

『ズムキャバ!』代表 Aさん(30代男性)

ズムキャバのWEBページ ※代表者許可の上掲載
ズムキャバのWEBページ ※代表者許可の上掲載

今回は、Aさんからサービスを立ち上げの背景と、夜の世界に生きる方々の実態をお聞きすることで、新型コロナで社会が荒れる中、日本の裏側、夜の世界がどうなっているかをお伝えしたいと思います。

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角間:

Aさんはいわゆるキャバクラを経営していたご経験があるのでしょうか?

Aさん:

今の会社ではまったく別の事業を行っております。ただし、ぼく個人の話ですが、大学生の時、半年程キャバクラでボーイのバイトをやっていました。加えて六本木のクラブで1年半くらいフロアスタッフをしていた経験がある程度です。

角間:

もともとキャバクラ店等を経営されていたわけではないのに、このタイミングで新しいことを始めようと思ったのですね。

Aさん:

うちの本業は違う業種ですが、女性と接することが特に多い仕事をやらせていただいてます。今回コロナで社会がちょっと大変なことになってるのはわかってますが、あえて今、新しいサービスを立ち上げれば誰かの役に立つのではないかと思い、立ち上げを決めました。

■漏れ聞こえる夜の業界の悲鳴

角間:

具体的な立ち上げの背景を教えてください。

Aさんご自身がやってみたいと思ったのか、それともどこからか、やってほしいという声が聞こえたので立ち上げを決めたのか。

Aさん:

後者ですね。仕事の関係で繋がりのある知人のキャバ嬢の方々から生活が本当にまずいという声が複数聞こえてきたためです。

世の中が(新型コロナウイルスで)こんなことになり、お水のお店がどんどん自主休業しているようです。働く女性たちも出勤を減らされ、実質「リストラされた。」「生活費が稼げない」という声がけっこう聞こえてきているんです。

なんとかしなきゃと思っていたときに、たまたまZOOM(ビデオ会議システム)が話題になって、ひらめいたんです。ZOOMを使えば感染のリスクは無い。

もちろん利用客の心理を考えると、実店舗に足を運んだほうがきっと楽しいと思うんですけど‥今はそうも言っていられない状況ですよね。女性も困ってるし、夜のお店も困っている。代替策として新しいことをやってみれば成立するんじゃないかと思いつきました。

角間:

今のお話を聞いて気になるのは、華やかなイメージを持たれている夜の世界だが、現実はなかなか厳しい事が起きているってことですね。

今回突然、夜の世界が経済的な生命線になっていた方々が手段を断たれている。また、女性と仕事する機会の多い、Aさんの事業にもマイナスの影響が出てきていると。もちろん他の業界にも同様なことは起きているわけですが。

Aさん:

そうです。すべての業界に手を差し伸べられませんが、せめて縁のある世界に対しては、なんとか助けてあげなきゃというところもあり、「ひらめいた! これだ!」 と。

■ビデオ会議キャバクラ 反響は?

角間:

SNSを中心に告知をされていると思うのですが、反響はどうでしょうか?

Aさん:

スピード感が大事だと思って、とりあえず思いついて次の日にフライングで公式Twitterをつくって、こういうサービスをする予定ですとツイートをしたらそれがTwitterでバズりました。たぶん、きっかけが元ZOZOの田端(信太郎)さんだったかなと。

田端さんが面白いと言ってくださって。通知が鳴りやまない状況になりました。現時点でツイートのインプレッション数では45万、エンゲージもすごいです。(※一般的にインプレッションが10万を超えるとかなり読まれていると考えられる)

ちょうど東京都知事が業界名指しで夜の店は営業をやめろ的なことを言われていたとSNSで話題になっていたこと。助成金も出さないということが話題になっていたこと。一方でビデオ会議で飲み会が楽しいよ!という世の中の話題にうまく乗っかれたかなと思っています。

正直申し上げると、実は影響力のある方(田端さん)に拾ってもらえないかと狙っていたところはあります。このネタだったら食いついてくれるのではと。

角間:

社会情勢に合わせたサービスや仕組みを作っても、知られなければ意味はないですからね。なんとか拡散させようとした努力が裏にはあったと。

Aさん:

正直、今はまったく宣伝費用にお金をかけている余裕がないので、なんとか、インフルエンサーの人に面白がってもらうしかないと必死でした。

角間:

夜の業界で働くキャストさん(主に女性)、元々キャバクラを利用していたが、今いけなくなっている顧客(主に男性)双方から連絡が来ているのではと推測されます。反応はいかがですか?

Aさん:

TwitterのDM(メール)に様々な問い合わせをいただいていますね。先程この取材があるからと、少し目を離しただけで、5人ほどからDMが来ていました。特に働きたいと希望する女性からが圧倒的です。この反響の多さから、都内に限らず夜の業界に生きている女性は日本中のどこも似たような状況に置かれているのではないかと感じています。

このような状況なので、女性求人にはまったく苦労していません。一方でサービスを利用していただくお客さんの方にはまだ懸念があります

「まだオープンしないんですか」とか急かすような問い合わせも多く頂いているのですが、仕組みを決めるだけでも大変で。

例えば難しいのが金額設定です。オンラインなので、店舗型のキャバクラよりも利用料は安くするつもりなんですけど、ただどれだけお金を使っていただけるかはやってみないとわからないですから。

なので立ち上げ時して暫くは、キャバクラ経験があった方や有名キャバクラ店で働いていいたような即戦力になりそうな女性、10数名にお願いをしています。今の時点で女性の採用を増やしても、お客さんを紹介できなければ稼ぐ機会を提供できず申し訳ないので。希望者はたくさんいらっしゃっているんですけど、採用はいったん保留にさせてもらっているのが今現在の状況です。

※写真削除

角間:

夜の仕事は固定給与ではありませんから、たとえ不安感から女性の求人募集が殺到したとしても、お客さんがいなかったらなんの意味もないですからね。

Aさん:

そうですね。かわいそうなことになってしまうので。そこは慎重に考えています。

■まずは気をつけながらやってみる

角間:

今考えている立ち上げの計画についてもっと教えて下さい。

Aさん:

前述の通り、まず即戦力になりそうな方を集めて、少人数でプレオープンする予定です。

※20年4月12日時点でプレオープンしているとのこと。

様子を見て、利用していただく方の反響があれば、じわじわ拡大していきたいと考えています。実際働きたいのにで働けないと困っている女性は本当にたくさんいることは明らかなので。セーフティネットとかきれいなことを言うつもりは有りませんが、この仕組みが機能したら助かる方もいると確信しているので前に進めています。

角間:

システムについていくつか教えてください。今回は店名からも“ZOOM”を使われていくと思うのですが、パソコンやスマホを利用したやりとりになりますよね。キャストとなる女性はご自宅で配信する想定でいるのか、それともどこかの特定の場所に顔を出して、そこにある端末等を使い配信を行うのか、どちらの形態をお考えですか?

Aさん:

基本はみなさんが持っているスマホですね。パソコンではなく慣れているスマホでやってもらう予定です。場所は完全に自宅での運用を想定しています。

角間:

そこで重要な質問なのですが、“こっそりやれる”そんな点にメリットを感じて夜の仕事をやっている方って少なからず存在しています。自宅でオンラインとなる以上、女性の身バレや場所バレのリスクが高まる懸念があるかもしれない。そういう特有のリスクは運営でどう回避するおつもりですか?

Aさん:

使用を決めたZOOMというサービスには背景画像を設定できる機能があって、クオリティが高く合成できます。ZOOMを選んだ決め手の機能です。おっしゃるとおり、自宅だと映ったらマズいものがあったりすると思います。またサービス業としても生活感が出るのはよくはない。ですが、ZOOMなら背景画像を設定すれば回避できると考えています。もちろん女性の意見を取り入れた改善はしていくつもりです。

また、せっかく背景をデータで隠すなら、リアルな雰囲気を出すためにキャバクラの内装のような画像を用意したいと思ったのですが、フリー素材でいいものがなくて。そうしたら「協力したい」とキャバクラの店舗さんから問い合わせをいただいて、そこの内装の写真を背景画像に使わせてもらうことになりました。新しいことをはじめることで横のつながりが増えていると感じています。

角間:

ビジネスでやる以上、顧客にお金を払ってもらう必要があるかと思います。課金方法について伺いたいのですが、オンラインだと、例えば「ボトル入れてよ」「フルーツ頂戴」となっても、黒服さんが接客中キャストさんのそばにいるわけではないですよね。この辺もどういう仕組みをお考えですか?

Aさん:

そこはどうしようか悩んでいるところです。最初のうちは、仕方がないのでセット料金(ドリンク等はない席代=お話代のようなもの)だけで考えています。不安な時期なのでできるだけ明朗会計の完全前金制にはこだわりたい。

60分3000円程度からできたらと考えています

(※ 一般的なキャバクラの場合60分5000円が相場)

価格表 相場より相当安い価格設定になっている ※店舗代表より提供
価格表 相場より相当安い価格設定になっている ※店舗代表より提供

角間:

ユーザーにとって不安なぼったくり等もなく安心ですね。支払い方法など細かいところをどうお考えかも合わせて教えて下さい。

Aさん:

僕は夜のお店に客として行くことはまれに付き合いで行く程度で、積極的にキャバクラを使うことはありません。そんな自分だからこそ、ライトユーザーの気持ちが分かると思っています。いくらお店から取られるのか、けっこう恐いと感じている方も多いかなと思います。ですがオンラインだと、完全前金制でできる。支払い方法は今はLINE Payでの決済を考えています。

LINEは使用者が多く導入が早い。請求や支払いも楽です。顧客にはとりあえずLINE Payを使って前金としてワンセットを払ってもらって、それからZOOMの会議室に案内するようなオペレーションを考えています。

角間:

水商売で働く女性はその日の給料をその日のうちに現金で持ち帰ることが多い世界です。

今回キャストさんへのお支払いはどうしていく予定ですか?

Aさん:

それも、LINE Payでその日に営業が終わったらすぐ会計しようかなと考えています。

仕事柄、LINEをやっていない女性を探すほうが難しいと感じているので。

角間:

お金の稼ぎ方や支払い方など、キャバクラの仕組みはできるだけそのままに、ビデオ会議システムや、キャッシュレス支払などを組み合わせていこうという計画ですね。夜のお店ではキャッシュレス払いを積極導入しているところはあまりないですから、この仕組みが定着すると、夜の世界もキャッシュレス化が進みそうだなと感じます。

■行き場を探す現役キャスト

角間:

再度、求人の状況について伺いたいのですが、働きたい方はけっこう来ているとおっしゃいました。その中にはキャバクラ等が未経験の方もいらっしゃいますか。

Aさん:

問い合わせを頂いているのがほぼ経験者の方です。やや複雑なキャバクラの仕組みをオンラインでやるのが初の試みなので、基本トーク等を理解していない未経験の人だと難しいかなと思います。

サイトにはプロの雰囲気のある方の出勤が上がっている ※代表者より写真提供
サイトにはプロの雰囲気のある方の出勤が上がっている ※代表者より写真提供

角間:

確かに、いくらシステムを組み合わせたとしても、キャバクラ文化をそのままオンラインに持って行こうという考えなので、キャバクラの文化がわからない子が来ちゃうと難しいですよね。

Aさん:

僕も教えられないので。だから「今回は経験者を優先でやっているので、ごめんなさい」と言っています。

角間:

大変な時期ですが、サービスリリース(公開)の予定について教えて下さい。

Aさん:

まだ公式サイトが出来ていないので、それ次第なんですけど。今は突貫工事で進めていますね。なんとか今週末(この取材は4/7に実施しました)にはお試しで営業したいなと思っています。とにかく一度始めてみれば色々と改善点とが見えてくると思うので。

もしかしたらプレオープンだけ週末だけやって、正式オープンは次の週末にやるかもしれないと思っています。

■あくまで水商売=トーク力を提供する運営

角間:

夜の業界には10年以上前からライブチャットというオンラインでトーク等を行うサービスが存在しています。

そのサービスと今回立ち上げようとしているサービスは明確に線引きしているのでしょうか。また、風営法の届け出を出しているライブチャットの場合、女性は特定の店舗等に集まり、用意しているパソコンでやるケースが多い。一方で、トラブルが起こった時にスタッフさんが介入しやすいという安心感はあるようです。

Aさんの今回のプランだと、お仕事をする女性の近くにはスタッフさんがいないですよね。感染リスクもお触り等のリスクもない環境ですが、前述の身バレのようなオンライン特有のリスクも当然有るかと思います。差別化含めどうクリアしていく予定ですか?

Aさん:

お客さんと一対一で喋る、所謂ノンアダルトのライブチャットと形態が一緒に見えるかもしれません。ただ、あくまで今回はキャバクラ経験のある女性にトークしていただくのみなので、トークスキル含めて、性風俗サービスとはまるで違うものになります。ライブチャットは性的な配信を行う場合もあります。そのため風営法を届けてから出ないと営業できない。うちはそういうことは行わせません。あくまで水商売の仕組み(トーク)をオンライン化しようと考えてるだけなので。法的にも問題ないようです。

ただ、懸念することは、顧客側にライブチャットと同一視されて、「性的なサービス等がある」前提と勘違いされてしまうことだけには注意を払っていきたいと考えています。

前述の通り、新しい仕組みですが、あくまでプロのトーク力を活かしてもらう場所の提供にフォーカスしています。だからこそ働く女性側、利用するお客さん側に楽しくトークをするためのサービスだという意図を正確にブランディングしていきたいと思っています。

角間:

その一方で、水商売ではなく、既存の性風俗店グループが同様のサービスを検討しているという話も聞こえてきています。

そのあたりはどうお考えでしょうか?

Aさん:

実は、性風俗産業の運営者の方ともメールでやり取りさせていただいて、こういう状況なので、立場は微妙に違うけど、一緒に協力してできたらいいねという話をしています。とにかく新しい仕組みになるのでやってみながら調整していきたいと考えています。もちろん働く女性のトラブルには細心の注意を払って。

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コロナショックで社会構造が激変していく中、当然、普段見えない夜の世界のしくみも大きく動いています。本インタビューからわかるように、夜の業界は、世の中に新しい仕組みができたらまず使ってみる文化があるのは事実です。

一方、透けて見えてくるのは、このような柔軟性とスピード感をもった変化力の源泉が、生活困窮のため、時間のかかる夢の実現ため、時間的な融通を取るため、こうした逼迫した事情を反映したところによるのが大きいのではないかということです。

夜の世界のしごとは数十万人超の多様な方がいる世界ですが、中には先の見えない不安を抱えて夜の世界に足を踏み入れている女性も少なくはありません。大金を稼ぎたい人から、なんとか生活のためにやりたい人まで、そうした多様なニーズが飛び交っています。

そのため女性に近い立場である業界側も変化し対応している。誰も置き去りにしない社会のしくみを考えるヒントがもしかしたら夜の世界にはあるのかもしれないと改めて感じた取材でした。

※本記事に掲載している写真は店舗並びに代表の方より掲載に当たり使用を許可されご提供頂いたものを添付しております。無断転載などされないようよろしくお願い致します。