吉本興業 解決すべき2つの矛盾

社会的事業にも多様な取り組みをしている吉本興業だが…。

先月から吉本興業が世間を騒がせています。どちらかというと悪い意味で。概要はほとんどの方が知るところでしょうがまずは騒動の流れをおさらいしましょう。

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・6月21日

吉本興業所属の宮迫氏以下芸人数名、反社会勢力のパーティに参加していたことが判明。各芸人に吉本興業から処分が下される。

・7月13日

参加していた芸人がギャラを受け取ったことが正式に公表。

・7月19日

主に宮迫氏の反社会勢力との関係性を想起する写真が週刊誌に再掲。吉本興業は宮迫氏を契約解除することを決定。

・7月20日

吉本興業はロンドンブーツ田村氏を契約解除する予定と発表。同日、宮迫氏、田村亮氏両名が自主的に謝罪会見。内容がセンセーショナルなため騒動が加速。

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当初は吉本興業に所属している反社会勢力と芸人個人が関わったことが問題となっていましたが、7月20日の会見以降は、“吉本興業”という組織に対する不信感へ問題がシフトしている様相です。

■2つの矛盾

僕は今年に入ってから吉本興業とやり取りをさせて頂く機会がとても増えています。長いこと社会活動や社会事業に携わってきたので、2017年頃から吉本興業が着手している以下のような取り組みと絡みはじめたことが理由です。

吉本興業のSDGsへの取り組み

住みます芸人

ユヌス・よしもとソーシャルアクション

吉本興業のSDGsへの取り組み
吉本興業のSDGsへの取り組み

現在吉本興業の内状や事情を把握できるところにいるからこそ「芸能関係は闇深い!」のような中身のない批判ではなく、吉本興業という組織が抱えている2つの矛盾について端的に指摘したく筆を執ります。

■その1 マネジメント契約の矛盾

一連の騒動を受けて、公式HPには宮迫氏との“マネジメント契約を解消した”との表記があります。また吉本興業ホールディングスの大崎洋会長が『Business Insider Japan』の取材にて

芸人、アーティスト、タレントとの契約は専属実演家契約。それを吉本の場合は口頭でやっている

出典:businessinsider

と答えられています。つまり、吉本興業と宮迫氏、田村氏の関係は雇用(社員)ではないということです。

この事実があることで問題当初、吉本興業として最も回避したかったであろう、反社会勢力と吉本興業が直接関係を持ったとされることを否定することができます。自社の社員ではなく所属の芸人が独自で動き独自に判断しただけだと言い切れるためです。

また吉本興業としては所属芸人が自由に動くことを制限していないとも発言されています。

個人がそれぞれ自由に発信するのが、芸人のそのものです。そこを制約するのは、吉本らしくない。

出典:businessinsider

大崎会長はきっぱりとおっしゃってますね。

しかしながらこの会長発言と20日の会見で告発された岡本社長が発言されたという以下のやり取りには大きな矛盾があります。

田村さんが「記者会見をやらしてください」と主張したが、吉本興業の岡本社長から「お前らテープ回してないやろうな」と確認された上で、「亮、ええよおまえ辞めてひとりで会見したらええわ。やってもええけどほんなら全員連帯責任でクビにするからな。俺にはおまえら全員クビにする力がある」と言われ 略

出典:朝日新聞デジタル

当初、社員ではない専属実演家契約を結んだ個人が自由に発信することや、会社を通さない営業活動を推奨こそしないが容認していたにもかかわらず、いざ独自会見の開催を芸人自らが希望したら、事実上禁じる発言をしていることは大きな矛盾であり、所属芸人さんの権利が明確でないことを放置していると言わざるを得ません。

追記→ 2019年7月22日の会見にて上記発言があった旨を岡本社長自ら認められました。

■その2 ソーシャルビジネス7原則の矛盾

前述の通り、数年前から吉本興業は多様な社会活動を展開しています。その一つが、

ユヌス・よしもとソーシャルアクション(yySA)

ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士と連携し設立した法人になります。

筆者撮影 2019/5/13
筆者撮影 2019/5/13

吉本興業はこの法人でユヌス博士が提唱する「ユヌス・ソーシャルビジネス」の実践と普及に向けて事業を展開するとしています。このことは、吉本ホールディングスとして社会課題の解決に取り組む事業を正式に実行することの意思表示をしているわけです。その一つが前述の住みます芸人などの事業なのでしょう。しかし、ユヌス博士の唱えるユヌスソーシャルビジネスには以下7つの原則があるのです。

1.利益の最大化ではなく、社会問題の解決が目的

2.財務的な持続性を持つ

3.投資家は投資額を回収するが、それ以上の配当は受け取らない

4.投資額以上の利益は、ソーシャルビジネスの普及に使う

5.ジェンダーと環境に配慮する

6.従業員はまっとうな労働条件で給料を得る

7.楽しみながら取り組む

出典:SEVEN PRINCIPLES OF SOCIAL BUSINESS

吉本興業としてはユヌス博士と連携した以上、これらの原則を守るべく各事業を展開せねばなりません。

しかしながら、一連の事件で明るみになっている所属芸人の大半が不安定な賃金条件で吉本興業と関わりを持っている現実はユヌス博士の唱える6番目の原則と、

“従業員はまっとうな労働条件で給料を得る”

Workforce gets market wage with better working conditions

実際の状態には大きな矛盾があります。ここで言う従業員(=Workforce)とは前述の雇用に限りません。吉本興業の場合、所属しているタレントもWorkforceとして解釈されるべきでしょう

たしかに日本の法律上は雇用ではないため給料を払わないことは問題はないのかもしれません。しかしユヌス博士と連携し、yySAという社会事業に取り組む法人まで設立している吉本興業がこの矛盾を放置していいはずがありません。

吉本興業はyySAの活動以外にもSDGsや教育事業など幅広い社会的事業に関わりを持っています。誤解がないようにお伝えすると、どんな企業であろうともこうした社会的な取り組みに関わりを持つことは素敵なことであり、どんどんやるべきです。

しかしながら、どんなに素晴らしい社会活動に取り組んでいても、人をないがしろにするような矛盾がある場合、せっかく取り組んでいる社会的事業も世間から見たら汚いものを隠すためのオブラートづくりだと解釈されてしまう可能性があります。これはとてもとても勿体のないことです。

前述の通り僕は現在吉本興業との関わりが増えているため、いくつか事実が見えています。それは、社員の皆さんは吉本興業が社会的な事業に取り組んでいることに誇りを持っており、また同時に自社の強みである笑いの力で世の中を良くしていきたいと本気で考えているということです。

また、社会的事業を展開することへの大崎会長の熱量も高く、先月バンコクで行われた国際会議でもユヌス博士とエンターテイメント企業が社会事業領域に係ることの重要性を説かれ、この声明が世界のソーシャルセクターの方々から期待と称賛を得ていたことも事実です。

Social Busines day2019にて@バンコク
Social Busines day2019にて@バンコク

このように大きな会社がトップと社員の意思を持って自社の強みを活かし多様な社会課題の解決に取り組もうとしている最中、2つの矛盾が解消されていないが故に社会的な事業拡大が阻まれてしまうことは日本全体にとっても大きな損失と言えます。

一連の流れを受け、吉本興業所属の松本氏のような影響力の大きな芸人からも解決に向けた何らかのアクションが示唆されています。

もはや吉本興業としては何らかの声明発表をすることは避けられない展開になっているでしょう。

追記→ 2019年7月22日に会見が行われました。

ならばこの騒動における会見は、今後伸ばしていきたいと考えている社会的事業を普及させるための矛盾解消の機会に活用していくべきではないでしょうか。中にいる800名の社員さんと6000名の所属タレントさんが連携することさえできれば難しいことではないと思われます。

また我々も単なる芸能スキャンダルとしてこの問題を捉えるのではなく、日本を代表するエンターテイメント企業が社会や世界に受け入れられる企業にここから変化していけるかという視点で本件を見たほうが生産的なのではないでしょうか?

派手なニュースではありますが、目先のゴシップに踊らされぬよう問題の本質を見ていただければと思います。