二度と見たくない映画を撮る理由。新作『飢えたライオン』監督 緒方貴臣さんに聞いた。【対談】

友人の映画監督、緒方貴臣さんの最新作『飢えたライオン』が9月15日公開となりました。

緒方監督作品の特徴は、“社会課題とそれらを取り巻く環境を切り取っているところ”です。

前作『子宮に沈める』は僕が夜の世界で働く女性たちへの支援活動を始めるきっかけとなった事件をモデルとした作品でしたが、今作はどのような課題を切り取ったのか監督に尋ねてみました。

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■映像の力の怖さ

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角間  製作の背景を伺うためにも前作『子宮に沈める』を絡めながらお話していただきたいと思います。はじめに、今作『飢えたライオン』は緒方さんにとってどんなことが大変でしたか。

緒方  映画を作る上でもっとも大変だったことは作品を作ることではなくその映画の宣伝でした。宣伝は映画を作るように自分の想像ではできない。どう作品をキャッチーに見せて宣伝していくかはとても悩みました。やり過ぎるとこの映画の内容と矛盾したものになってしまうからです。そうした大変さを踏まえて今回の映画はできていると思います。

角間  宣伝の手段とやり方が映画の内容と関係しているんですね。

緒方  はい。前作の作品の話からすると、僕は前作で『子宮に沈める』を撮りました。これは「大阪二児置き去り死事件」を軸にしたフィクションとしてこの映画を作っています。当時、この映画の宣伝の際には事件の話を出して多くのメディアに取り上げられたのですが、フィクションなのにも関わらず、それが事件の全容と捉えてしまう方が多くいたんです。

中には女性だから起こした事件ではないかと犯人探しをしている意見もたくさんありました。作品が事件の全てだと思っている人がかなりいた。そのとき、僕が作った映画によって間違った情報を流してしまう恐怖を感じました。

角間  衝撃的な内容だっただけに、ドキュメンタリーとフィクションを混合してしまう人も多そうですよね。

緒方  実際に前作公開前には事件関係者から公開中止を求めるメールも来ました。そのときは、連絡先をいただけなかったため、関係者と相談し、その人たちを批判する映画でもないという意向からそのまま映画の公開を決めました。

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■社会を取り巻く集団を切り取りたかった

緒方  映画を見ている人間が人の善悪を決めてしまう。そういうモヤモヤがある中で、最近の国内の事件に対するメディアの報道や国民の反応を見て、映画を作る発信者側として単純に物事を捉えてしまうような作品を作ることはまずいなと思いました。今回の映画はそれがきっかけで、この自分が感じたモヤモヤを映画にしようと考えました。また、今回の映画は実際に起きた3つの事件をベースに作っているのですが、さきほど話した理由から、その3つの事件がどれなのかは公言しないと決めています。

角間  なるほど。前作の経験があったからこそ今作があるのですね。

緒方  この映画の概要だけ少しお伝えすると、ある女性がデマで性的な動画を流され追いつめられて死んでしまうんです。その後、残された動画から彼女はどんな人物であったか、どんな生活を送っていたかなどメディアによって彼女の虚像がつくられていくという話です。この映画を作るときに、観客側が高いところから出来事を見ているような映画にはしたくないと思いました。自分自身もその出来事の中にいる視点を入れたいなと。

角間  作中の人物だけでなく、この作品を見ている側の当事者性も含まれているということですね。前作の『子宮に沈める』とテイストは少し違っていますね。

緒方  そうですね。被害者側の当事者性ではなく、見ている僕たちも含めて加害者側の当事者性を意識していますね。今作が僕にとって映画は4作目ですが、作品は全て社会課題を描いているつもりです。ただ、過去3作品はどちらかというと1人の人間を描いていたのですが、今回はその1人の人間を取り巻く社会とか、周りの学校の友人や主人公の彼氏などのコミュニティに興味があって「集団」を描きたいなと思いました。

角間  社会を取り巻く集団を描くというのは面白いですね。僕は映画監督ではありませんが、緒方さんとの共通点があるとしたら、社会課題を長い間見続けているという点だと思います。「社会を取り巻く集団」というみかたはNPOの事業をやっていると意識することがありますね。

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■社会課題に答えはない

角間  緒方さんは今作を通して社会課題に対する周りの環境まで捉えるということについて、どのようにお考えですか。

緒方  僕が常に考えているのが、社会課題に対して明確な答えはないということです。世の中そんな単純ではなくて、人がなぜ死んだのかはには色んな事情があって1つの事実だけではない。僕は昔、駅のホームから飛び込みたいなと思ったことがあって。それは事前から自殺しようと思っていたわけではなくて、色んなことが重なってくる苦しい時期にふとした瞬間に「飛び込んだら楽になれる」と思ったことがあります。

社会課題を考える上で、社会には様々な出来事が絡み合っています。明確な答えはなく、自分も当事者になり得てしまうということを問いかけたい。試写会で映画の上映後にお客さんからのQ&Aがあるんですけれど、映画内容の答えを質問する方がいるんですね。それに対して僕が「そういう答えを求めることが一番良くない」と言ったらシラけてしまったこともあったのですが笑

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■インパクトを出すと矛盾する

緒方  実は『子宮に沈める』の作品の後にドキュメンタリーを撮ってみようと思ったことがありました。その作品ではリストカットをする女の子を撮っていたんです。リストカットって基本的に人の前ですることではないので、そういう映像を撮れたら面白いなと。

でも途中で撮影を辞めた。撮影していく中でその子が精神的に落ちていったからです。そのまま撮り続ければ世の中的には面白いものが撮れました。でも誰かを犠牲にしてまで撮りたくないと思った。今回の映画で撮る側も撮られる側も人の人生を狂わすということをこの映画で感じて欲しいと思います。

角間  なるほど。これはNPOの事業も同じで、情報発信をする際には1番問題を抱えているように見える当事者等をメディアに出すことで注目されることはあります。でも課題を抱えた方をメディアの前に出させることはどう見繕ってもリスクしかありません。「目立てばいい」に違和感を抱えずにできる人はそもそもNPOをやっちゃだめ。なるべく当事者は特定されないように。でも課題は多くに人に伝えていかなければ解決されない。

緒方  なるほど。

角間  そこでNPOが取る戦略の一つがデータを取るということなんです。「こんな子がいましたよ」というように1人の被害者の物語を晒すのではなく、「100人いたら80人がこういう状況です」とか「この期間中に何年こういう状態です」とか数字で伝えていくことが大切です。特に「政治」を変えていくのであればこういう手段のほうが説得力がある。

数字で発信していくことはインパクトが薄くても、情報の寿命は長いと感じます。他の課題だけでなく、昔と比べてどうなったなど比較をする際にも使えるので。瞬間最大風速を狙い感情を煽りにいくよりもデータを取るという手段は地味ではあるが社会を変える確実な方法だと思います。

緒方  映画の場合そこが非常に難しくて、例えば主人公の女の子をすごく可哀想なくらい描いて感情を煽げば、見ている側は助けたいと思える気持ちになって行動するひとが出てくるかもしれない。でも僕がしたいことは、あなたの心にもそういう悪の気持ちがあるんじゃないですか?ということを問いかけたいんです。でもそうすると映画を見てもらえない。僕が映画を作る上でのコンセプトは「二度と見たくないと思わせる」なんですが、それだと売れないという(笑)

角間  商業的に考えるとそのコンセプトはやばいですね笑

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■伝えていくための作法

緒方  以前、角間さんから夜の世界で働く女性のセカンドキャリアの話をしてくださったときに、僕は「風俗」という言葉に偏見的な考えがありました。その偏見はきっと僕が今までメディアが報道してきたものをそのまま見聞きして定着しているからです。その偏見も僕はメディアに誘導されているということに気づかされました。

最近のメディアは出来事を簡単に分かりやすく報道している。そのほうが視聴者は食いつくし、もちろん僕自身も簡単に理解できる報道の方が内容に入りやすいので良いと思います。だけど、果たして社会の出来事をそんな簡単に説明してしまっていいのか、作品を作る側の人間としてそういうモヤモヤを抱えています。

角間  あらゆる情報が『ウケるから』という理由だけで世の中に出しやすくなってきています。現代のメディアは誰にとっても有限な時間をメディアのために消費してもらうことでお金を得ている。そうすると「どう伝えればウケるのか?」を追求しだす。緒方さんはここに違和感を感じていると。ただ、だからこそ今作はその視点の鋭さから映画を宣伝する上での難しさを抱えているんだろうなぁと理解しました。

緒方  そうなんです。先ほど言ったように今回は3つの事件をもとにしているんですけれど、その事件の話を大々的に出せばメディアも飛びつくと思うんですよ。「この映画はこの事件の話だ」と分かりやすく報道できますから。でも、それをやってはいけないと自分の中に思いがあるんです。僕は事件を取材した人間でもなければ、ルポライターでもない。映画を作る人間としてそうじゃないところで戦っていきたいと思っています。

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『飢えたライオン』

監督・脚本・プロデューサー/緒方貴臣 脚本/池田芙樹 共同プロデューサー/小野川浩幸 撮影監督/根岸憲一 録音/岸川達也 編集/澤井祐美 音楽/田中マコト

出演/松林うらら、水石亜飛夢、筒井真理子、菅井知美、日高七海、加藤才紀子、品田誠、上原実矩、菅原大吉、小木戸利光、遠藤祐美、竹中直人

配給/キャットパワー 9月15日(土)よりテアトル新宿にてレイトショー、10月13日(土)よりシネ・リーブル梅田、元町映画館、10月27日(土)より名古屋シネマスコーレほか全国順次公開

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